ホンダ「シビックタイプR」欧州で来年中に販売終了 EUで厳しくなる排ガス規制が影響? 日本での今後は
2025/7/21 16:00 J-CASTニュース

ホンダが2025年6月に欧州でリリースしたシビックタイプRの「アルティメットエディション」が国内外で話題となっている。なぜ、欧州の限定販売車がここまで日本のファンに衝撃を与えているのか。
「大いなる栄光を祝福する」ファイナルエディション
それはホンダが欧州でシビックタイプRの販売を2026年中に終了すると明言したモデルだからだ。この衝撃はいずれ日本にも波及し、われわれも無関係ではいられなくなるだろう。
シビックタイプRは1997年、6代目シビックをベースとするホットハッチとして登場。これまで市販のFFとして「世界最速」をルノーメガーヌRSやフォルクスワーゲンゴルフGTIなどと争ってきた。
欧州ホンダによると、アルティメットエディションは40台限定で発売するが、これは「魅力的なシビックタイプRの大いなる栄光を祝福するものだ」という。要するに欧州におけるシビックタイプRのファイナルエディションだ。英国での発売価格は5万7905ポンド(約1152万円)となっている。
「欧州の法規制に合致するよう進化させていかなくては」
初代モデルの登場以来、28年の伝統を誇るシビックタイプRの販売を終了する理由について、欧州ホンダは「自動車産業は変化している。我々の商品ラインアップは欧州の法規制に合致するよう進化させていかなくてはならない」(欧州戦略と商品開発を担当する責任者、ハンナ・スイフト氏)と説明している。
スイフト氏は具体的な欧州の法規制について言及していないが、欧州連合(EU)が2028年から始める「EURO7(ユーロセブン)」という新しい排ガス規制を指しているのは間違いない。
ユーロ7は従来の窒素酸化物(NOx)や一酸化炭素(CO)、粒子状物質(PM)の規制が厳しくなるだけでなく、新たに亜酸化窒素(N2O)も規制の対象となる。排ガスだけでなく、ブレーキダストやタイヤ摩耗の粉塵も規制に加わる。タイヤの粉塵などはマイクロプラスチックとなり、生態系に悪影響を与える可能性があるからだ。
さらにEUには「企業平均燃費(CAFE)」という環境規制がある。これは自動車メーカー各社が販売したクルマの平均燃費が目標値をクリアしない場合、罰金を支払うという制度だ。EVやFCVの比率の高いメーカーには有利だが、シビックタイプRのような燃費の悪い高性能車が売れれば売れるほど、メーカーは自社の平均燃費を悪化させることになる。
世界での販売車のうち3分の2を「電動車」へ
ホンダは2030年に世界で販売するクルマの3分の2をEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)のほか、ハイブリッドカーを含む電動車とする目標を掲げる。30年時点のEV販売比率を30%とする従来の目標は見直したが、ユーロ7やCAFE規制への適合が難しい高性能ガソリン車の開発は断念する方向なのだろう。
日本ではユーロ7のようなブレーキダストやタイヤ粉塵への規制は検討段階だが、排ガス規制は年々厳しくなっている。環境規制には燃費のほか、騒音規制もあり、エンジン音や排気音の大きなスポーツカーは生き残るのが難しくなっている。
このため日産自動車は旗艦モデルGT-Rの生産を2025年8月で終了する。GT-Rは2007年の発売以来、世界中のファンに愛され、日産の名声を高めてきたが、18年の歴史にピリオドを打つことになる。
ホンダは日本国内のシビックタイプRについては特にコメントしていない。しかし、日産GT-Rと同様、ホンダも旗艦モデルだった2代目NSXの生産を既に終了している。
現行のシビックタイプRは2022年のデビューだが、欧州だけでなく、日本の規制強化を考えると、いつ国内でも生産・販売終了となってもおかしくない。シビックタイプRの新車価格は499万円台からだが、中古車市場では600万円台や700万円台で取引されている。ファンにとっては残念なことだが、マーケットはシビックタイプRの生産終了を既に織り込んでいるといえるだろう。
(ジャーナリスト岩城諒 )