日本の軽自動車市場に中国BYDが参戦 国内新車販売の約4割...スズキ、ホンダ、ダイハツほか国内勢はどう対抗
2025/8/31 16:00 J-CASTニュース

日本の軽自動車は将来どこに向かうのか。日本のユーザーにとって最も気になるのは、中国の比亜迪(BYD)が2026年後半に日本で発売するという軽の電気自動車(EV)だろう。
軽は国内新車販売の約4割を占める。もし、BYDの軽EVが日本ユーザーの支持を受けるなら、これまで日本メーカーの独壇場だった軽市場が激変するだけでなく、スズキとダイハツ工業の軽2大メーカーは存続の危機に立たされるとも限らない。
軽自動車とEVは親和性がある
一般的にEVは航続距離の短さと充電時間の長さがネックとなっている。とりわけ高速での長距離移動が苦手だ。日本の高速道路でEVを走らせてみれば、現行のリチウムイオン電池と日本の急速充電方式「CHAdeMO(チャデモ)」の使いにくさがわかるだろう。チャデモを採用しない北米や欧州は日本と事情が異なるが、ほぼ同様の理由で世界的にEVの普及は停滞している。
ところが日本の軽であれば、話は別だ。日本の軽は通勤や買い物など街乗りの短距離移動がほとんどだろう。高速で長距離を移動する頻度は少ない。そう考えると、軽とEVの親和性は高く、商品しだいでは普及する可能性がある。
乗用車普及のきっかけを作った軽自動車
日本独自規格の軽は全長3.4メートル以下、全幅1.48メートル以下、全高2.0m以下で、排気量660cc以下、乗車定員は最大4人と決まっている。EVとなれば排気量は関係ないが、サイズはこの枠内となる。
軽は排気量660cc超の小型車に比べ、税金や保険、高速道路の料金などが安い。車検やガソリン代などの維持費も小型車を下回ることが多く、地方では文字通り「生活の足」となっている。
そんな軽は戦後の復興、とりわけ日本のモータリゼーションを支え続けてきた。1955年に当時の通産省(現在の経済産業省)が発表した国民車構想を基に、富士重工業(現在のSUBARU=スバル)が1958年に発売した「スバル360」が大ヒット。戦後の日本で乗用車が普及するきっかけとなった。
軽は日本専用のガラパゴス状態
当初、軽は富士重工業、鈴木自動車工業(現在のスズキ)、ダイハツ工業、東洋工業(現在のマツダ)、三菱重工業(現在の三菱自動車工業)、ホンダのほか、愛知機械工業なども参入し、まさに戦国時代だった。
軽の排気量は360ccの時代が長く続いたが、排気量が1976年に550cc、1990年に660ccに拡大。ボディーサイズも排気量に合わせて大きくなり、1998年に現行サイズとなった。
軽のサイズは一見してわかるように、全幅1.48メートル以下は極端に狭い。日本の地方都市などの狭い道路を走るには都合よいが、今や1.8メートル以上が当たり前となった国際標準には遠く、欧米や中国の新車市場では競争力を発揮できない。中古車は東南アジアのほか、アラブ首長国連邦(UAE)、パキスタン、スリランカなどに輸出しているが、事実上、軽は日本専用のガラパゴス状態となっている。
BYDは「日本独自の軽規格に準拠」と発表
全幅1.48メートル以下という制約は側面衝突の安全性を満たすのが困難で、メーカーは多大な開発・生産コストを強いられる。このためメーカーにとっては、軽を開発・生産するメリットは小型車や普通車に比べて少ない。
結果的に軽を独自に開発・生産する日本メーカーとしては、これまでにマツダとスバルが撤退。現在はスズキ、ダイハツ、ホンダが独自に軽を開発しているほか、日産と三菱自が共同で開発し、三菱自が生産している。
このうち、軽EVを開発・販売しているのは、日産、三菱自、ホンダの3社だ。これに対して、BYDの日本法人「BYDオートジャパン」は2025年4月24日、「日本の乗用車販売のメインストリームである軽自動車分野への進出を決定した。導入を予定している軽EVは乗用車タイプで、日本独自の軽規格に準拠した専用設計となる」と発表した。
現在、国内の軽乗用EVとしては既に「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が存在するが、両社とも期待したほどの支持を得られていない。そこへホンダが今秋、「ホンダN-ONE e:(エヌワンイー)」を、満を持して発売する。
BYD戦略は軽の先を見ているのか?
現行の軽は「ホンダN-BOX」「スズキスペーシア」「ダイハツムーヴ」などのハイトワゴンが人気だ。スペース効率に優れ、とりわけ子育て世代のファミリー層の支持を受けている。
BYDは最新のホンダN-ONE e:のほか、これら日本で人気のハイトワゴンを徹底して研究してくるに違いない。BYDオートジャパンは「軽ビジネスのマーケティングや販売に関する知識と経験を備えた人材を広く募集する。さらなる国内乗用車販売事業の強化に向け、BYD乗用車事業の人員体制を一部強化するなど、スピーディーかつ強力な人員体制を整える」とも表明している。
BYDの軽EVが日産サクラやホンダN-ONE e:を上回るスペース効率や航続距離を達成し、販売価格が両車を下回る可能性は大いにある。BYDは軽EVをテコに日本市場で一定のプレゼンスを確保しようとしているに違いない。
スズキ社長は「切磋琢磨していく」と受けて立つ
日本メーカーはどう対抗するのか。スズキの鈴木俊宏社長はこれまで記者会見で「非常にうれしい。BYDは本当に強い企業だと思う。軽自動車に目をつけてEVで参入してくることは、コンパクトカーがEVに対して非常に相性がいいということだ。切磋琢磨していくところで、いろいろ考えていきたい」と発言。「価格競争力も勉強させていただきながら、軽の市場を守っていきたい」と語っている。
日本の軽は精密機械のような「作品」だ。限られたスペースで極限まで広い室内を確保し、エンジンの効率化で低燃費を実現しながら、小型車にひけをとらない走りと衝突安全性を満たす。そんなクルマを最廉価100万円前後で発売できるメーカーは、これまでダイハツやスズキなどに限られた。そこにBYDが参戦する2026年後半は、新たな軽の戦国時代の始まりとなるのかもしれない。BYDの実力はもちろん、日本メーカーの真価が問われるのは間違いない。
(ジャーナリスト 岩城諒)