予期せぬ移住がきっかけで...理想の転職を30代で実現 ポイントは「価値観」と「やりたいこと」の両立【専門家が解説】

J-CASTニュース

「正直、今の仕事に不満はないけれど、このままでいいのかな」
「やってみたい仕事に挑戦したい気持ちはあるけれど、何から始めたらいいのかわからない」

   そんなふうに、キャリアの岐路に立ってモヤモヤしている20代、30代のビジネスパーソンは少なくないでしょう。特に、長年勤めた会社に愛着や働きやすさを感じているからこそ、「転職」という選択肢が重く感じることもあるかもしれません。

   しかし、一歩踏み出すことで自分の可能性を知り、納得のいくキャリア選択につながることがあります。

   リクルートエージェントでキャリアアドバイザーをつとめる進藤聡が解説します。

新卒入社の会社から、憧れを抱いていた建築の道へ

   30代前半のAさんは、家庭の事情で関西への移住が決まり、年収をキープしつつも、長年の目標だった設計職へのキャリアチェンジを実現することに成功しました。

   もともとAさんが新卒で入社したのは、地域密着型のハウスメーカーの施工管理職でした。

   建築の道を選んだのは、「将来的に自分の家を自分で設計できたら格好いいかな」という漠然とした憧れから。明確な夢や目標があったわけではありませんでしたが、大学で建築を専攻するうちに、知識がつながり、徐々に建築への面白さを感じるようになったといいます。

   最初の就職活動では、設計から施工まで一貫して管理できる会社であれば、総合的なスキルアップにつながるのではないかと考え、ハウスメーカーを選択。地域密着の経営で、地域の風土や文化などを十分に理解した上で提案を行い、顧客に寄り添う姿勢が入社の決め手になりました。

   もっとも、「いつかは設計の仕事をしたい」という思いを抱きながらも、まずは現場で家がどのようにつくられるかを知れれば経験になるのではないと考え、キャリアのスタートは施工管理を選びました。

   施工管理の仕事は、人対人のコミュニケーションを求められるケースが多く、思うように上手くいかないと感じることもあったそうです。しかし、新卒で入社した会社には人柄のよい社員が多く、人間関係のよさからくる働きやすさを感じていました。その安定した環境のおかげで、長年、転職しようとは考えていませんでした。

移住による転職決断、最大の懸念とは

   ところが、Aさんに転機が訪れます。家庭の事情で関西への移住が決まり、転職を決断することになったのです。

   移住という明確な理由があったため、転職するかどうかを悩むことはありませんでしたが、新たな不安がAさんを襲います。それは、「新卒入社した会社のような働きやすさを感じられる会社に出会えるのか」という点でした。

   一方でAさんは、「いつかは設計の仕事をしたい」というあの思いを実現しようと、設計の仕事も視野に、建築関連の企業で転職先を探しました。

   また、求人情報だけでは分かりづらい社風や人柄を判断するために、独特な基準を設けていました。それは、面接官との相性です。

   給与や働き方、残業時間といった待遇よりも、「面接官の人とあうか」を重要視し、転職先を選びました。なぜなら、面接官の人柄や、質問への答え方、会話のテンポを通じて、その会社で働く人々の雰囲気を測ろうとしたのです。これは、Aさんが前職の「人柄のよさ」を非常に大切にしていたからこその判断基準です。

   最終面接では、入念に準備を重ね、一次面接では聞けなかった会社の経営に関わる質問さえぶつけました。すると面接官から、「しっかり面接の準備をしてきていて、うちに対する本気度がうかがえるね」という言葉が。このとき、Aさんは入社できるかもしれないという手応えを感じたそうです。その後、晴れて入社も決まりました。

   繰り返しになりますが、Aさんの場合は、働く人たちの「人柄のよさ」に重点を置いていました。Aさんのように、転職では「何を重視するか」という自分の軸を明確に持つことは重要です。その軸があれば、面接の場で、待遇だけでなく、企業理念や働く人々の価値観といったことに関する深い質問へとつながり、納得のいく転職へのカギとなるケースが多くあります。

   自分の軸を探すにはまず、「必須条件(絶対に譲れない)」、「希望条件(できれば叶えたい)」、「妥協できるが、あったら良いなと思う条件」の観点で条件や思うことを書き出してみましょう。そこから、優先順位をつけ自身の大切にしたい価値観をしぼりこんでいくことが大切です。5年、10年と長期の目線でも検討してみて、これからも長く働いていく上でどんな条件が必要なのかという観点で考えられるとより絞りやすくなるかもしれません。

「未経験職種」に挑む難しさを乗り越えるには

   Aさんは施工管理として建築関連の仕事をしており、資格も保有していました。そのため、転職先でも全くの未経験の仕事をするわけではありませんでした。しかし、それでも「30代で新しい職種に挑戦する転職は、簡単ではない」とAさんは実感したといいます。

   当然、企業側も、転職者のポテンシャルだけでなく、即戦力としてのスキルを求める傾向があるため、未経験分野へのキャリアチェンジで転職者を受け入れることには準備が必要になります。

   そうした事情があるからこそ、Aさんは「このタイミングが設計の仕事に就ける最後のチャンスかもしれない」と感じ、多少無理をしてでもチャレンジ。無事に内定を獲得し、未経験職種となる「設計」の仕事にかかわることができ、年収も前職からキープとなりました。Aさんにとっては何物にも代えがたい「やりたかった仕事」を手に入れた瞬間でした。

   Aさんは、キャリアチェンジを迷っている人に向けて「実際に転職するかしないかは置いておいて、まずは転職活動をしてみることをお勧めしたいです」と話します。

   「転職」という言葉には重みがありますが、「転職活動」は、自分の市場価値を知り、これまで培ってきたスキルや経験が他社でどのように通用するのか、どんな選択肢があるのかを知る自己理解のプロセスにもなります。

   最初から明確な目標を持って転職活動に臨む人は少ないかもしれませんが、「少しでも気になるなら、始めてみる」ことが重要です。

・まずはどこか一社にエントリーシートだけでも出してみる。
・自分の経歴書をブラッシュアップし、キャリアの棚卸しをしてみる。

   このような小さな一歩踏み出すことで、少しずつ自分のことが分かり、それが自信となり、納得のいくキャリア選択につながっていくでしょう。転職だけでなく、社内での異動について考えたり、興味のあることに副業から始めてみたりすることもできます。



【プロフィール】
キャリアアドバイザー 進藤聡/商業施設の施設管理で販促担当の経験を積み、2022年にリクルートに入社。キャリアアドバイザーとして、さまざまな業界・職種の求職者の転職を支援。転職する・しないかかわらず、転職活動を通して今後のキャリアに向き合う機会にしていただけるようサポートしている。

記事提供元:タビリス