演歌歌手の嘆きとコロナ・上 収入100分の1、仕事が溶けてなくなった

ジョルダンニュース編集部



「コロナは怖い。だけど食べていかなくてはいけないから、仕事を選んでいるわけにはいかない」

40代の男性演歌歌手は自分を励ますように言って、今日も歌謡スナックでの営業にでかけた。

 2020年2月、新型コロナウィルスが猛威を奮い始めてから1年8か月以上が経ち、ようやく東京都などの緊急事態宣言が解除された。しかし、油断は禁物。ワクチン接種も普及したとはいえ、パンデミックの第6波に備えなくてはならない。

 こうした苦境のなかで、エンタメ関係者は喘いでいる。先の男性歌手に限らず、東京より感染者が少なかった地方に出向いてスナック、カラオケ酒場などの営業は欠かしたことがないし、これからも止めるつもりもない――こう言い切る歌手はたくさんいる。

 こんな時代にスナックなどにお客さんが来るのかといえば、楽しみはカラオケしかないという男女も多い。シニア層が「ワクチンを打ったのだから、感染はしないだろう」と足を運び、自らマイクを握り、訪れた歌手の歌を楽しみ、時にはデュエットに興じるのだ。



 この男性歌手と何度も一緒のステージに立ったことのある女性演歌歌手が嘆いた。

「知り合いのスナックで感染者が出たこともあり、お仕事は選ばせてもらっています。というより仕事そのものが溶けてなくなりました。2020年3月以降ずっと冬眠中よ、冬眠。売上は2019年の100分の1、つまりほぼゼロ。それでいて衣装代や美容代はかかる」

 所属音楽事務所の歌手仲間は一人去り、二人去り、事務所自体が風前の灯火で、ギャラの遅配、マネージャーらの人減らしなどが続いている。仲間の歌手や事務所スタッフの消息も耳にはいってくる。実家に戻り家業を手伝ったり、居酒屋でアルバイトをしたりしているほか、タクシー運転手となったとも聞いた。

 業界でほんの一握りに過ぎない大手音楽事務所とて事情は変わらない。多数の裏方のスタッフを抱えているからだ。小規模な事務所とは違った悩みをかかえる。(つづく)
記事提供元:タビリス