短期連載 中国の身近なIT事情 キャッシュレスは庶民の味方

李海(ジョルダン)

キャッシュレス支払いの普及前に比べ、紙幣を持ち歩くことは少なくなった。


  日本は便利な国だ。コンビニさえあれば支払いはなんでもできる。日本で暮らした19年間で感じたことの一つにコンビニの便利さがある。自宅近くだろうが、勤務先だろうが、移動の途中だろうが、いろいろな請求書をコンビニに持ち込み、保険料や水道料金、電話代、チケット代金などの支払いができた。ただ、こうした請求書を数枚まとめて持っていくと、店員は慌ててハンコを押したり、お客さんが保管する部分を千切ったりするので、時たま行列ができ、後ろで待っている客さんに申し訳ない気持ちになったことがしばしばあった。

 中国に帰国して、このような光景とは無縁になった。お金に関することは全部と言っていいほど、スマホ1台で完了してしまう。前回も書いたが、「財布を持たずに外出することはあっても、スマホを忘れて外出ことはない」

 これを可能にしたのは、読者の皆さんも耳にするアリババやテンセントなどの中国の巨大IT企業の凄まじいイノベーションによるものだと思う。中国でのビジネス展開は決して簡単ではないが、利用者の大きな支持が得られるかどうかは決め手になった。その結果、スマホのネットワークは、もはや不可欠のインフラといえるだろう。

銀行手数料が無料に、窓口の行列はなくなった


銀行のATMの前に行列する人たちの姿は減った。日本では給料日には長い行列を目にした。


 キャッシュレス支払いの普及前では、中国四大国有銀行では、利用者が銀行に預けたお金を引き出したり、振り込んだりするときには、手数料を支払わなければならなかった。銀行が金融業界をほぼ独占しているから、利用者=庶民は、銀行に従うしかなかったのだ。ところが、スマホやパソコンの金融決済サービス、AliPay(支付宝、アリババの電子マネーアプリ)やWechatPay(微信支付、テンセントの電子マネーアプリ)が世に現れてから、銀行の個人業務は激減し、それに伴い銀行の収入も減少した。顧客を繋ぎ止めるために、銀行ATMからお金の引き出すにも、同じ銀行間の振込も無料に変わってしまった。銀行のATMやカウンターで行列を作るのは、今ではなかなか見られなくなった。

 総じて、中国のキャッシュレス社会の目覚ましい発展は国民の生活に便利さをもたらした。現金払いが一般的だった10年前では、銀行とのかかわりは不便であり、時間がかかったことも多かった。

 その背景にはいくつかの理由が挙げられる。一つは偽札を見分ける必要があった。100元、50元といった高額紙幣を店員に出せば、店員はお札の透かしをライトに照らしたり、買い物客の目の前で、あたかも偽札ではないだろうかとばかりの不審な表情で確認したりする。日本ではお目にかかれない光景で、しばしば不愉快な体験した。

 二つ目は、中国大陸の紙幣は最大でも100元で、日本円に両替すれば、1700円くらいだ。物価が上昇した中国では、大量の現金を持ち歩くと財布がパンパンになって、失くしてしまうではないかと心配で仕方がない。それが、今ではお札を持ち歩かなくても不便さを感じない。金銭はただの数字、物やサービスの価格を知るうえでの手段にすぎないのかもしれない。このような便利さを一度、味わってしまうと、今後、中国政府が遂行しようとするデジタル通貨も民衆に簡単に受け入れるのではなかろうか。

李海(り・はい) 1982年中国四川省生まれ、2001年に来日。2014年名古屋大学文学博士号。東京で約7年間香港メディアの特派員。2019年9月中国に戻り、現在、貴州省の貴州民族大学外国語学院準教授。著書に『日本亡命期の梁啓超』など。