観光を起爆剤に誇れるわが街に 渡部晶(財務省勤務) 残念ながら遅れている観光業のデジタル化
2022/10/28 11:01 ジョルダンニュース編集部
経済学者で一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏は、新著『どうすれば日本人の賃金は上がるのか』(日本経済新聞社出版)で、日本の賃金が20年間上がらない基本的な原因は、企業の稼ぐ力が停滞していることによると断じる。最近だんだんと広く理解されてきたが、日本はそのため「いまや韓国より低賃金」なのだ。そして、その打開策として、野口氏は、デジタル化投資による生産性向上効果に注目している。日本でも、他の先進国同様、情報によって収益を得られる新しい経済活動を発展させることが必要なのだ。日本の観光でも必要なことは、デジタル化により情報によって収益を上げることである。
また、野口氏は、「日本の統計は時代遅れで、パートタイマーの増加への対応ができない」ことを次のように指摘する。「観光業」を構成する重要な業種である「飲食サービス業」は、パートタイム労働者が多く、他の産業より生産性が著しく低いが、これを国際的に標準的な考え方で調整すると、他の産業との格差は縮小することが示される。パートタイマーについて適切な統計データを創り出して、観光でも、はじめて根拠のある政策形成を行うことができるのである。
この2つの課題のうち、デジタル化については、日本政府も大変な力をいれてきている。観光庁では、観光分野におけるデジタル技術の導入やDX(注1)の推進により、旅行者の消費機会の拡大と消費額の増加を目指した取組を行っている。また、経済産業省でも、2020年3月に「スマートリゾートハンドブック」(言葉が混乱するが、「スマートリゾート」と「スマートツーリズム」は経産省は同じ意味だとしている)を発表するなどして「スマートツーリズム」を後押ししている。この背景には、今後の世界において主流となる「デジタルネイティブ世代」(注2)の台頭がある。
「スマートツーリズム」には、VR(バーチャルリアリティ)やAR(拡張現実)を利用した観光体験のほか、旅行中の観光客の興味や混雑状況、天候などのリアルタイム情報に基づく観光ルートや観光スポットの推薦、緊急災害警報と避難所情報を組み合わせた災害時の避難支援などのサービスがある。
この経産省肝煎りのハンドブックは、「スマートリゾート(=スマートツーリズム)を推進することで訪問者、事業者、住民・行政組織、環境・文化の諸課題を解決し、それぞれの価値を向上させることで地域を活性化し、競争力を高めます」という。
例えば、訪問者=旅行者にとっては、顧客からの問い合わせに対応するためのチャットボットによるリアルタイムな情報の提供や、人気観光施設の混雑解消による快適な滞在経験の享受で、滞在における不便や手間を減らし、滞在経験をより快適で満足感の高いものにでき、また、個人の好みや気分に合わせた滞在プランの提案で、訪問者の好みや気分に合わせたサービスを提供することで訪問経験をよりよいものにできるという。
一方、事業者にとっては、多様なデータの利活用により、単一事業者や統計手法では捕捉できなかった潜在ニーズの可視化して、データに基づいたマーケティングにより稼ぐ力を向上できるし、セルフチェックイン機やロボットを活用した省人化や、AI(人工知能)やIoT(注3)を活用した業務効率化業務の効率化や省人化を図り生産性を高めることができるというのだ。
ただし、現実には、まったく残念ながら、スマートツーリズムを推進し観光業のデジタル化が進むEUに比べて、日本は遅れているという。最近のコロナ禍や、それに続く最近の円安で、日本経済の衰退が誰の目にもはっきりと見えてきた。ここから抜け出るためには、我々は深刻な危機感をもって真剣に直面する課題に取り組む必要がある。観光における「スマートツーリズム」の推進もその1つだ。
(本稿は個人的見解である)
(注1)「DX(Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)」とは、2004年にスウェーデンのウメオ大学の教授、エリック・ストルターマン氏が提唱した「進化し続けるテクノロジーが生活をより良くしていく」という概念。「Transformation」はそもそも、変形、変質、変換という意味の単語で、既存のものを根底から変えることであり、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは、単なるIT活用による作業の効率化ではなく、デジタル技術によって、人々の生活がより良くなるような変革や、既存の価値観を覆す技術の革新がもたらされることを意味する。(参照:観光庁HP『「DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進による観光・地域経済活性化実証事業」における採択事業の公表』https://www.mlit.go.jp/kankocho/page05_000187.html)
(注2)幼い頃からインターネットやパソコン、携帯電話などに囲まれて育ち、デジタルデバイスも日常的に使いこなす人々。
(注3)IoT(Internet of Things)は、あらゆるモノをインターネット(あるいはネットワーク)に接続する技術。日本語ではモノのインターネットと訳される。
渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、財務省大臣官房地方課長、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省大臣官房政策立案総括審議官。いわき応援大使。デジタルアーカイブ学会員。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。
また、野口氏は、「日本の統計は時代遅れで、パートタイマーの増加への対応ができない」ことを次のように指摘する。「観光業」を構成する重要な業種である「飲食サービス業」は、パートタイム労働者が多く、他の産業より生産性が著しく低いが、これを国際的に標準的な考え方で調整すると、他の産業との格差は縮小することが示される。パートタイマーについて適切な統計データを創り出して、観光でも、はじめて根拠のある政策形成を行うことができるのである。
デジタルネイティブ世代の台頭が背景に
この2つの課題のうち、デジタル化については、日本政府も大変な力をいれてきている。観光庁では、観光分野におけるデジタル技術の導入やDX(注1)の推進により、旅行者の消費機会の拡大と消費額の増加を目指した取組を行っている。また、経済産業省でも、2020年3月に「スマートリゾートハンドブック」(言葉が混乱するが、「スマートリゾート」と「スマートツーリズム」は経産省は同じ意味だとしている)を発表するなどして「スマートツーリズム」を後押ししている。この背景には、今後の世界において主流となる「デジタルネイティブ世代」(注2)の台頭がある。
「スマートツーリズム」には、VR(バーチャルリアリティ)やAR(拡張現実)を利用した観光体験のほか、旅行中の観光客の興味や混雑状況、天候などのリアルタイム情報に基づく観光ルートや観光スポットの推薦、緊急災害警報と避難所情報を組み合わせた災害時の避難支援などのサービスがある。
この経産省肝煎りのハンドブックは、「スマートリゾート(=スマートツーリズム)を推進することで訪問者、事業者、住民・行政組織、環境・文化の諸課題を解決し、それぞれの価値を向上させることで地域を活性化し、競争力を高めます」という。
旅行者、事業者双方にメリット
例えば、訪問者=旅行者にとっては、顧客からの問い合わせに対応するためのチャットボットによるリアルタイムな情報の提供や、人気観光施設の混雑解消による快適な滞在経験の享受で、滞在における不便や手間を減らし、滞在経験をより快適で満足感の高いものにでき、また、個人の好みや気分に合わせた滞在プランの提案で、訪問者の好みや気分に合わせたサービスを提供することで訪問経験をよりよいものにできるという。
一方、事業者にとっては、多様なデータの利活用により、単一事業者や統計手法では捕捉できなかった潜在ニーズの可視化して、データに基づいたマーケティングにより稼ぐ力を向上できるし、セルフチェックイン機やロボットを活用した省人化や、AI(人工知能)やIoT(注3)を活用した業務効率化業務の効率化や省人化を図り生産性を高めることができるというのだ。
ただし、現実には、まったく残念ながら、スマートツーリズムを推進し観光業のデジタル化が進むEUに比べて、日本は遅れているという。最近のコロナ禍や、それに続く最近の円安で、日本経済の衰退が誰の目にもはっきりと見えてきた。ここから抜け出るためには、我々は深刻な危機感をもって真剣に直面する課題に取り組む必要がある。観光における「スマートツーリズム」の推進もその1つだ。
(本稿は個人的見解である)
(注1)「DX(Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)」とは、2004年にスウェーデンのウメオ大学の教授、エリック・ストルターマン氏が提唱した「進化し続けるテクノロジーが生活をより良くしていく」という概念。「Transformation」はそもそも、変形、変質、変換という意味の単語で、既存のものを根底から変えることであり、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは、単なるIT活用による作業の効率化ではなく、デジタル技術によって、人々の生活がより良くなるような変革や、既存の価値観を覆す技術の革新がもたらされることを意味する。(参照:観光庁HP『「DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進による観光・地域経済活性化実証事業」における採択事業の公表』https://www.mlit.go.jp/kankocho/page05_000187.html)
(注2)幼い頃からインターネットやパソコン、携帯電話などに囲まれて育ち、デジタルデバイスも日常的に使いこなす人々。
(注3)IoT(Internet of Things)は、あらゆるモノをインターネット(あるいはネットワーク)に接続する技術。日本語ではモノのインターネットと訳される。
渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、財務省大臣官房地方課長、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省大臣官房政策立案総括審議官。いわき応援大使。デジタルアーカイブ学会員。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。
記事提供元:タビリス