観光を起爆剤に誇れるわが街に 渡部晶(財務省勤務) マスク然り、世界の流れから取り残されている
2023/5/26 11:31 ジョルダンニュース編集部
朝日新聞(5月2日付朝刊)がこのような記事を掲載した。
「星野リゾート(長野県)は8日から、従業員のマスク着用をやめる。『スタッフが笑顔で迎え、歓迎する気持ちを伝えることが観光業にとって大切なことだと考えている』と広報担当者。これまでは屋内か屋外かなど、接客状況に応じて施設ごとに判断していた」
この方針についてはネット上で賛否両論が沸き起こったようだ。そして、5月19日付の朝日新聞朝刊には、星野佳路代表のインタビュー記事「コロナ後、新たな観光モデルを」が掲載された。この中で、マスクなしの件について問われた星野氏は、
「このタイミングで決断しなければ、二度とチャンスはありません。合理的な経営判断をするかどうか、その姿勢が社員から問われています。これだけマスクにこだわっている方がたくさんいる国は、日本だけだと思います。全員がピタッと着け始め、誰かが合理的な理由で『外してよい』と言わない限りは外さない。日本人の性質、価値観、文化でしょうか。そうしたものが、日本経済や政治のあり方に影響していると感じました」と答えている。星野代表のこの達見には、まったくもって脱帽させられた。
このマスクの問題に鋭く切り込んでいるのが、深い教養に裏打ちされた評論活動に定評のある與那覇潤(よなは じゅん)氏だ。
與那覇氏は、ニューズウィーク日本版ホームページ連載のコラム「歴史もたまには役に立つ」(注1)の最新記事「『医学的な根拠はない』のに、マスクを外せない... 『キリシタンの踏絵』と化したコロナ対策の末路」(4月28日掲載)の中でこう指摘する。
「マスクをつける人こそが『科学的』であり、パンデミックの克服に協力するよき市民だとするイメージは、一時期あらゆるメディアを席巻した。しかしすでに見たとおり、その主張には医学的に十分な根拠がない。むしろ私たちがマスクを着け続けてきたのは、近代科学とはまったく異なる別の理由によるものだ。それは日常生活で接する周囲のローカルな集団に対して、『私はまじめですよ』『みなさんの調和を破りませんよ』との信仰を互いに告白しあう、一種の民俗宗教だろう」と。
與那覇氏は、言論プラットフォーム「アゴラ」を主宰する池田信夫氏との対談本『長い江戸時代のおわり』(ビジネス社 2022年8月)のしめくくりの発言で「有史以来、ユーラシア大陸の激動から海で隔離されてきた日本には、歴史的にみてもガラパゴスめいた、珍獣・奇獣にも比すべき特異な文化が育ちました。そうしたシェルター(避難所)の存在を喜んでくれる人たちを海外から広く受け入れて、一緒に楽しんでゆくモデルもあるんだよと、あえて『楽観』していくのも大事だと思っています」という。
この発想は、ノンフィクション作家の高野秀行氏が、日経ビジネス電子版(2022年3月15日付)のインタビュー記事「辺境の地になった日本 生き残る道は世界の“古都”」に通じるものがある。マスクにしてもそうだが、明らかに日本は世界の流れから取り残されている。例えば、「今は、ラオスのホテルでも、エコロジーのために毎日シーツは取り換えませんとか、備え付けの歯ブラシは置きませんとかいったことを案内している。特別高級じゃないラオスの普通のホテルで、ですよ。一方で日本のホテルはといえば、ほとんどそうした環境への配慮はありえません。しかも分かっていてあえてやっていないのではなくて、世界の潮流を知らないんですよね。(以下略)」と指摘する。
また、「自分たちがスタンダードだと思っていて、よそ者は表向きにしか受け入れない。だから日本は世界の古都なんです。いや応なくこの方向に進んでいって止まらないのだろうなと思います。」という。ただ、自然が豊かで、歴史も伝統も感じられるし、日本のローカル文化もものすごく多様であり、これも悪くないというのだ。そして身の丈のライバルはスペイン、ポルトガルあたりでいいじゃないかという。人口減少・高齢化による社会の停滞が続く日本は、この「古都」路線で生きていくという可能性はかなり高いのではないだろうか。
世界の中で取り残されつつある日本の観光は「古都」路線として死活的なものとなってきた。
(本稿は個人的見解である)
渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省大臣官房政策立案総括審議官。いわき応援大使。学習院大学法学部政治学科非常勤講師(2023年度前期)。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。
(注1)https://www.newsweekjapan.jp/yonaha/
「星野リゾート(長野県)は8日から、従業員のマスク着用をやめる。『スタッフが笑顔で迎え、歓迎する気持ちを伝えることが観光業にとって大切なことだと考えている』と広報担当者。これまでは屋内か屋外かなど、接客状況に応じて施設ごとに判断していた」
この方針についてはネット上で賛否両論が沸き起こったようだ。そして、5月19日付の朝日新聞朝刊には、星野佳路代表のインタビュー記事「コロナ後、新たな観光モデルを」が掲載された。この中で、マスクなしの件について問われた星野氏は、
「このタイミングで決断しなければ、二度とチャンスはありません。合理的な経営判断をするかどうか、その姿勢が社員から問われています。これだけマスクにこだわっている方がたくさんいる国は、日本だけだと思います。全員がピタッと着け始め、誰かが合理的な理由で『外してよい』と言わない限りは外さない。日本人の性質、価値観、文化でしょうか。そうしたものが、日本経済や政治のあり方に影響していると感じました」と答えている。星野代表のこの達見には、まったくもって脱帽させられた。
ガラパゴスめいた特異な文化が育った日本
このマスクの問題に鋭く切り込んでいるのが、深い教養に裏打ちされた評論活動に定評のある與那覇潤(よなは じゅん)氏だ。
與那覇氏は、ニューズウィーク日本版ホームページ連載のコラム「歴史もたまには役に立つ」(注1)の最新記事「『医学的な根拠はない』のに、マスクを外せない... 『キリシタンの踏絵』と化したコロナ対策の末路」(4月28日掲載)の中でこう指摘する。
「マスクをつける人こそが『科学的』であり、パンデミックの克服に協力するよき市民だとするイメージは、一時期あらゆるメディアを席巻した。しかしすでに見たとおり、その主張には医学的に十分な根拠がない。むしろ私たちがマスクを着け続けてきたのは、近代科学とはまったく異なる別の理由によるものだ。それは日常生活で接する周囲のローカルな集団に対して、『私はまじめですよ』『みなさんの調和を破りませんよ』との信仰を互いに告白しあう、一種の民俗宗教だろう」と。
與那覇氏は、言論プラットフォーム「アゴラ」を主宰する池田信夫氏との対談本『長い江戸時代のおわり』(ビジネス社 2022年8月)のしめくくりの発言で「有史以来、ユーラシア大陸の激動から海で隔離されてきた日本には、歴史的にみてもガラパゴスめいた、珍獣・奇獣にも比すべき特異な文化が育ちました。そうしたシェルター(避難所)の存在を喜んでくれる人たちを海外から広く受け入れて、一緒に楽しんでゆくモデルもあるんだよと、あえて『楽観』していくのも大事だと思っています」という。
辺境の地になり、生き残りは世界の“古都”路線
この発想は、ノンフィクション作家の高野秀行氏が、日経ビジネス電子版(2022年3月15日付)のインタビュー記事「辺境の地になった日本 生き残る道は世界の“古都”」に通じるものがある。マスクにしてもそうだが、明らかに日本は世界の流れから取り残されている。例えば、「今は、ラオスのホテルでも、エコロジーのために毎日シーツは取り換えませんとか、備え付けの歯ブラシは置きませんとかいったことを案内している。特別高級じゃないラオスの普通のホテルで、ですよ。一方で日本のホテルはといえば、ほとんどそうした環境への配慮はありえません。しかも分かっていてあえてやっていないのではなくて、世界の潮流を知らないんですよね。(以下略)」と指摘する。
また、「自分たちがスタンダードだと思っていて、よそ者は表向きにしか受け入れない。だから日本は世界の古都なんです。いや応なくこの方向に進んでいって止まらないのだろうなと思います。」という。ただ、自然が豊かで、歴史も伝統も感じられるし、日本のローカル文化もものすごく多様であり、これも悪くないというのだ。そして身の丈のライバルはスペイン、ポルトガルあたりでいいじゃないかという。人口減少・高齢化による社会の停滞が続く日本は、この「古都」路線で生きていくという可能性はかなり高いのではないだろうか。
世界の中で取り残されつつある日本の観光は「古都」路線として死活的なものとなってきた。
(本稿は個人的見解である)
渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省大臣官房政策立案総括審議官。いわき応援大使。学習院大学法学部政治学科非常勤講師(2023年度前期)。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。
(注1)https://www.newsweekjapan.jp/yonaha/
記事提供元:タビリス