誰がアートの値段を決めるのか? アートディーラーの仕事 アートが変える社会と経済
2024/11/27 14:43 ジョルダンニュース編集部
アートが変える社会と経済: AI、NFT、メタバース時代のビジネスと投資の未来
本記事は書籍「アートが変える社会と経済: AI、NFT、メタバース時代のビジネスと投資の未来(著:倉田陽一郎)」の内容を抜粋したものです。
投資としてのアートは、2018年にナサニエル・カーン監督が作った映画『アートのお値段1』を観ると、わかりやすいでしょう。
映画の中で1億ドルの値がついた作品に、「実際のところ、本当の価値はどれくらいだと思いますか?」と聞かれ、「80ドルくらいはあるだろう」と作品を保有している本人が発言している場面があります。それは、その作品の材料費だけで考えれば80ドル程度のものなのに、オークションではとんでもない高額で取引されることへの問題提起でしょう。アートの価値は、たとえ高額で取引されたものであっても、「その価格には意味があるのか?」とあえて発言をしていました。何人もの人を雇い、工業製品のようにウケのいい作品を大量生産する現代アーティスト。その一方で、貧しい仙人のような暮らしをしながら、投資家の目に止まらない作品を作り続ける画家……。映画はさまざまな立場から、現代アートが抱える問題を浮き彫りにしています。
ただ、コレクターや専門家に評価され、資産として値段がつくからこそ、アーティストが大成していくのは事実でしょう。たとえば日本が生み出した現代アートの巨匠に、草間彌生さんがいます。1960年代に彼女はニューヨークで不安定な精神状態の中で創作活動をしていました。彼女の作品は80年代まで、版画が2万円から5万円くらい、本画2でも小さいサイズの作品が数十万円で売られている程度でした。それが現在では、版画でも500万円以上の値で取引され、本画の小さな作品でも6000万円以上の価格でオークションで落札されます。30年くらいの間で、その値上がりが約100倍ですから、その上がり幅は、初期のApple への投資に匹敵します。
1人のアーティストに投資することでそれだけのうま味が出るのならば、映画『アートのお値段』ではありませんが、世界中の投資家がこの世界にこぞって興味を持つのも当然です。
アート投資はベンチャー投資よりも評価価値に魅力あり
ただし、アート作品の売買を成立させていくアートディーラーの仕事というのは、派手な仕事ではなく、地道にアーティストを育て、生業を立てています。
株の世界にもエンジェル投資家がいます。数多くある起業したばかりの会社の中から光る存在を見つけ出して、その会社の株式を購入することで投資する人たちです。結果的にその会社が成長すれば儲かることになりますが、もちろんそうなるのはごく限られた会社です。それでもベンチャーが成功し、いい会社が育っていくことで世の中がより良くなっていくことを期待し、若い会社への投資を続けていきます。そんな存在がエンジェル投資家ですが、アート界でのアートディーラーの立場も、本来的にはそういうものだと思います。
実際、私も個人的に600点程度のアートコレクションを持っています。そのうち資産性を持った作品は数が限られています。そういったアート作品に出会う確率は、ベンチャー投資の成功率よりも低いかもしれませんが、数少ない作品の価値の上昇により、投資金額の評価価値に関しては、ベンチャー投資よりも魅力的です。とくに、自分が一生懸命に推しているアーティストがブレイクするときは本当に嬉しいものです。アイドルやアスリートのファンになったことがある方なら、その気持ちがわかると思います。間違いなく〝推し〞のアーティストの価値が高まることは、国の文化だけでなく、その国の経済も押し上げることになるのです。それがアート市場におけるアートディーラーの仕事だと私は考えています。
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