三菱商事と東大、革新的スタートアップ創出へ包括支援 6億円投じ全学横断プログラム、産学連携で社会実装を加速 ITイベントレポート:TIDE&WAVE
2025/4/7 11:28 ジョルダンニュース編集部

2024年5月時点東京大学発のベンチャー数は累計で420社を
更にこの10年で年間300件創出目標。
AIなど特定分野に偏らないニーズの高い技術を発掘
三菱商事は3月24日、東京大学へ6億円を寄付し、大学発スタートアップの創出を加速させる支援プログラム「東京大学・三菱商事 Tech Incubation Palette」を開始すると発表した。2025年度から4年間にわたり実施される本プログラムは、東大が持つ有望技術の発掘から事業化までを一気通貫で支援する。民間企業の知見とネットワークを活用した全学横断での技術発掘・起業支援プログラムは、東大にとって初の試みだという。
同日、東京大学の安田講堂で開催した説明会では、東京大学の藤井輝夫総長と三菱商事の中西勝也社長が登壇し、それぞれの狙いを語った。東大の藤井総長は「東大の中の技術シーズを幅広く見つけ、社会実装していく。スタートアップ創出・育成の基盤強化につなげていきたい」と話した。中西三菱商事社長は、「生成AIをはじめとする新しい技術の登場は、私たちの社会や産業に大きな影響を与えている」とした上で、「私たちの知見とグローバルネットワークを提供することによって、東京大学の最先端技術がグローバルな社会課題の解決に貢献できるよう、全力で後押ししていきたい」と宣言した。

本プログラムの特徴は、特定の研究分野に限定せず、幅広く有望技術を発掘・探索する点にある。東大は従来から起業支援に注力してきたものの、複数の課題を抱えていた。AIなど特定分野に起業実績が偏る傾向があり、市場ニーズの高い技術を発掘するための産業知見や評価リソースが学内で不足していた。また、東京大学発スタートアップは、経済産業省の調査結果(2024年5月15日時点)によると、東京大学発の大学発ベンチャー数は累計で420社で、全国の大学の中で最も多いが、さらに高みを目指すため、「10年で年間300件のスタートアップ創出」という野心的な目標の達成が求められている。
新プログラムでは、これらの課題や目標に対応するため、有望技術のマッピングによる可視化や、産業知見を活用した技術発掘などを実施する。分散する関連支援の中核的なプログラムとして機能することが期待されている。

三菱商事は資金面での支援に加え、同社が持つ産業知見やグローバルな企業ネットワークも提供し、技術の社会実装を強力に後押しする。起業家候補の紹介や起業支援など、各開発ステージに応じたきめ細かなサポートを実施する。同社は2023年4月に京都大学との間でも同様のプログラム「Startup Catapult」を立ち上げており、産学連携の取り組みを着実に強化している。急速な技術革新により事業環境が大きく変化する中、最先端技術への理解を深めることは同社にとって喫緊の課題となっている。
日本の大学発スタートアップを取り巻く環境は、近年急速に整備が進んでいるものの、依然として欧米に比べて発展途上の段階にある。本プログラムは、大学の技術シーズと企業の事業化ノウハウを効果的に結びつけることで、日本のスタートアップエコシステムの発展に貢献することが期待される。東大と三菱商事が作り出す新しい仕組みは、研究・技術の社会実装に対する新たな産学連携のモデルケースともなりそうだ。
ジョルダンニュース編集部