大企業の「埋蔵技術」事業化へ熱気 CEATECでピッチイベント アフリカで道路作る元ホンダ社員ら受賞

ジョルダンニュース編集部

大企業に眠る技術や人材を独立させ、新たな成長の担い手とする「カーブアウト」「スピンオフ」の動きが広がってきた。スタートアップ支援の01Booster Capital(東京・千代田)は10月17日、最先端技術が集う展示会「CEATEC 2025」で、大企業発の新規事業案を競うピッチイベントを開いた。元ホンダ技術研究所の社員が立ち上げた、アフリカの道路インフラ課題に取り組む事業が最優秀賞に選ばれるなど、社会課題解決や独自技術に根ざした事業の卵が熱気を帯びた。企業がイノベーションのジレンマを乗り越え、持続的成長を模索する中で、社内からの事業創出は重要な一手となりつつある。

プレゼンに登壇した大企業の新規事業担当者ら

最優秀賞には、本田技術研究所出身の伊賀将之氏が代表を務めるPathAhead(パスアヘッド)が選ばれた。最優秀賞に輝いたPathAheadの伊賀氏は、アフリカの未舗装路問題を解決するため、砂漠の砂を固めてつくる道路舗装材「Rising Sand」を開発した。持続可能なインフラ構築を目指す事業構想が、来場者のオンライン投票で最も優れた事業として最多得点を得て選定されました。観衆から最も高い評価を得た。

最優秀賞に輝いたPathAheadの伊賀将之氏(左)

このほか、ロームの矢熊宏司氏が手がける、地図を使わずに自律走行するロボット技術「NoMaDbot(ノマドボット)」がDEEPTECH賞を受賞。DICの東條健太氏による、遺伝子操作なしで生花を発光させるシステム「RADilys(ラディリス)」は「埋もれている技術が光るで賞」に選ばれた。いずれも大企業の研究開発部門で生まれた独自技術を応用したものだ。

イベントは01Booster Capitalが運営する事業創出支援プログラム「SPINX」の一環。NTTデータや三菱地所、ローム、DICなど大手企業の現役社員や元社員が登壇し、温めてきた事業構想を発表した。審査は来場者のオンライン投票で行われ、事業性だけでなく、社会実装への熱意や挑戦する姿勢も評価された。

主催した01Booster Capitalは「企業内で眠る技術を事業として社会実装するため、出口設計まで伴走するのがSPINXの役割」と説明する。今後もプログラムを継続し、大企業からの新事業創出エコシステムを強化していく考えだ。

カーブアウトとは、企業が事業の一部門を切り出し、新会社として独立させる経営手法を指す。元の親会社は新会社の株式の一部を保持し、戦略的パートナーとして関係を維持することが多い。一方、親会社の支配が及ばない形で独立する場合はスピンアウトと呼ばれる。スピンオフは、親会社が新会社の株式を自社の株主に分配する形での分離・独立を指すことが多いが、広義にはカーブアウトと同義で使われることもある。

近年、日本企業でカーブアウトが注目される背景には、経営の迅速化と企業価値向上の要請がある。親会社の事業ポートフォリオから外れたり、意思決定のスピードが求められたりする新規事業を独立させることで、機動的な経営や外部からの資金調達が可能になる。従業員にとってはストックオプションなどのインセンティブを得る機会も生まれ、優秀な人材の獲得・維持にもつながる。政府もこうした動きを後押しする。スタートアップ育成を成長戦略の柱に据える中、大企業が持つ技術や人材という「資産」を活用するカーブアウトは、国内のイノベーションを加速させる有効な手段として期待されている。

記事提供元:タビリス