東南アジア最大級のイノベーションイベント「SWITCH 2025」、10回目を開催 シンガポール、「世界と東南アジアを結ぶイノベーションハブ」に ピッチコンテスト、英国のセキュリティ企業が最優秀賞
2025/11/4 15:13 ジョルダンニュース編集部

アジア最大級のイノベーションの祭典「SWITCH(Singapore Week of Innovation & Technology)2025」が2025年10月29日から31日まで、シンガポールのマリーナベイ・サンズで開催された。今年はシンガポール建国60周年とSWITCH開催10周年が重なり、例年以上の注目を集め、400超の出展者、過去最多25000人以上の参加者が世界から参加した。ピッチコンテストで最優秀賞に選ばれたのは、英国のサイバーセキュリティ企業、Goldilock(ゴルディロック)だった。

SWITCHは、Enterprise Singapore(シンガポール企業庁)が主催する国際的なイノベーションイベント。今年は、デジタルトランスフォーメーション(DX)や医療・バイオメディカル、環境・エネルギー・グリーン技術、量子コンピューティングなどの幅広い分野で、世界のスタートアップや投資家、大手企業、研究機関が集結した。
ガン・キム・ヨン副首相兼通商産業相はオープニングスピーチで、今年で10周年を迎えたSWITCHと建国60周年を迎えるシンガポールのイノベーションの歩みを重ね合わせ、量子技術や気候技術、エンボディドAI(具現化されたAI)といったディープテック分野への国家的な投資を継続すると表明した。

副首相は、「分断化する世界において、イノベーションと企業活動は、信頼や接続性、そしてコラボレーションに引き続き依存することになる」と強調。シンガポールについて、「アジアの成長市場と世界の他の地域を結びつける架け橋であり、グローバルな課題に取り組むためのプラットフォームである。世界のイノベーターと企業にとって信頼できるホームグラウンドとなることを目指す」と訴えた。
シンガポールは、イノベーションの取り組みの鍵として「ディープテック」に焦点を当てている。量子技術については、アジアの食品大手Japfa(シンガポール)が地元のスタートアップEntropica Labsの量子アルゴリズムを農業オペレーションに活用している例を挙げた。
また、持続可能性に不可欠な気候技術を「新しい成長機会の強力な原動力」と位置づけ、Breakthrough EnergyやWavemaker Impactなどとのパートナーシップを通じて、スタートアップを支援していることを説明した。
さらに、AI領域での成長戦略を掲げた。ロボットやインテリジェントシステムが現実世界で学習・行動するエンボディドAIを戦略的に強化し、製造業などの基幹産業への導入を進める考えを示した。エンタープラズ・シンガポールとマイクロソフト、シンガポール国立大学(NUS)のスタートアップ支援組織「Block71」の三者パートナーシップを発表したうえで、3年間で150社のAIスタートアップを拡大発展させると表明した。
AIへの注力は、直後の基調講演でも見て取れた。メインステージに立ったのは、エージェントAI「Manus AI」の運営会社、Butterfly Effectの共同創業者兼CPOであるTao Zhang氏だった。同社は中国発だが、今年夏、今後の世界展開を見据えて、シンガポールに開発拠点を移した。

Zhang氏は、エージェントAIは「自律的に考え、行動し、学習する主体性(エージェンシー)」だと定義。「私のManusは毎朝、カレンダーで今日のスケジュールをチェックします。外部のパートナーとのミーティングがあれば、その外部パートナーについてリサーチし、会議のための準備をしてくれます。エージェントはバックグラウンドで24時間働いてくれるます。これこそが、未来のエージェントAIの真の魔法だと考えています」とAIの今後の方向性について語った。
そのうえで、「20年前、新しい仕事を得るためにはコンピューターの操作方法を学ぶ必要がありました。2025年の今年は、ジェネレーティブAIとの協働方法を学び始めるべき最初の年かもしれません」との洞察を披露した。「Manusがやろうとしていることは、人間の知能の境界を拡張することです。過去7ヶ月間、多くのユーザーが、Manusによる問題解決事例と教えてくれました。それらはすべて、私たちの予想を超えていたのです」とエージェントAIの可能性に言及した。
SWITCH内で開催されたピッチコンテスト「SLINGSHOT 2025」を制したのは、英国を拠点とするサイバーセキュリティ企業、Goldilockだった。 同社は、データとシステムの安全なオンデマンドの接続または切断を可能にし、常時接続インフラに関連する脆弱性を効果的に排除することで、サイバーリスクを最小限に抑えるサービスを提供する。SLINGSHOTは、ディープテック系スタートアップ企業をシンガポールに呼び寄せる役割を持ち、地域内外で事業を拡大する機会を提供する。Goldilockが今後、シンガポールを中心とする東南アジア地域で事業成長することが期待される。

シンガポール建国60周年とSWITCH開催10周年という節目の年に開催された今回のイベントは、量子技術からエージェントAIまで次世代技術の展望を示すとともに、英国企業の最優秀賞受賞が象徴するように、シンガポールが目指す「世界と東南アジアを結ぶイノベーションハブ」としての地位を改めて印象づけた。副首相はまた、「シンガポール発のブレークスルーが世界中に有意義な影響をもたらすエコシステムを構築できると確信している」と語った。分断化する世界情勢の中で、技術と人材が国境を越えて集結するシンガポールとSWITCHの存在意義は、今後ますます高まりそうだ。









