【人インタビュー】全但バス・小坂祐司常務 (下)地域住民が担い手となるバス型ライドシェア『たけの~る』の仕組みと波及効果

ジョルダンニュース編集部

Q:全国初の「バス型ライドシェア」である『たけの~る』の具体的な仕組みと、従来のバスとの違いを教えてください。

小坂: 『たけの~る』は、予約型のデマンドバスサービスです。これまでの竹野地域では、全但バスだけでも路線バス3人、市営バス2人、スクールバス2人の合計7人の運転手が投入されていました。しかし、今後は二種免許の運転手だけでこの地域の移動を支えるのは不可能です。そこで、バス、スクールバス、そして(もともと地域にいなかった)タクシーの機能を、一種免許を持つ一人の住民運転手がマルチに担えるよう、仕事を束ねることを国に働きかけ、実証として制度を変えてもらいました。

運行時間は月曜日から金曜日は朝7時から夜19時まで、土曜日は時短運行(8時から14時)です。路線バスのバス停が約30~40箇所だったのに対し、今回のデマンドバスでは、ました。これにより、幹線道路沿いだけでなく、住民の家や集落に近い場所からも乗降が可能になりました。利用者はウェブまたは予約センターへの電話で、「乗りたい場所」「降りたい場所」「乗りたい時間」を伝えます。高齢の方が多い地域ですので、電話での予約も必須としています。9人乗り程度の自家用ミニバンやセダンなど(市の車両)3台を使用し、一種免許を持つ地域住民ドライバーが運行します。予約システムが、予約内容を調整し、乗り合わせを検討しながら配車します。ただし、現状の利用実態としては、乗り合わせることはほとんどありません。これは、それだけ個々の移動需要が細分化していたことの裏返しでもあります。

地域内に細かく約132カ所の新しいバス停を設け、ウェブまたは予約センターへの電話で予約

料金体系と利用状況

Q:料金はこれまでの路線バスと比べてどう変わりましたか?

小坂: 料金は、エリア運賃を採用しています。竹野エリアを3つのエリアに分け、同一エリア内の移動は定額300円、隣接エリアへの移動は500円、竹野エリアから豊岡市街地への移動は最大1,000円と定めています。

従来の路線バスで市街地まで行くのに約900円かかっていたのに対し、地域内移動が300円からと、利用しやすくなっています。エリア内での移動は、概ね安くなっていると考えています。

Q:サービス開始直後の現在の利用状況はいかがでしょうか?

小坂: 現在は1日あたり10人から十数人程度のご利用です。旧路線バスの利用者が1日30人程度だったので、まだ周知不足や、予約に不慣れな高齢者が多いためか、潜在的な利用者を拾いきれていない状況だと見ています。利用者は主に70代、80代の高齢者で、移動目的は病院や買い物といった生活のための移動が中心です。車を持たない、あるいは運転できない移動弱者の方々が最後の手段として使ってくださっているレベルです。免許返納者や障害者の方々のご利用も目立ちます。

利用者は主に70代、80代の高齢者で、病院や買い物のための移動が中心

収支構造の転換と「ドライバーズバンク」構想による地域活性化

Q:現在の利用者数では赤字だと想像しますが、この事業をどのように成立させていくのでしょうか。収支がトントンになる目標はありますか?

小坂: 正直に申し上げれば、移動サービス単体で収支トントンになることは難しいと想定しています。過疎地域では、収入と費用が見合わないのが前提であり、私たちはそのギャップをどれだけ縮小できるかを目標としています。

この取り組みの最大の目標は、移動サービスを確保しつつ、行政が負担する地域全体の移動に係る費用の「総額」を縮小することです。

Q:費用の総額の縮小とは、具体的にどういうことでしょうか。

小坂: これまでは、路線バスには国・県・市からの補助金、市営バスには運営委託費、スクールバスには教育委員会からの委託料と、すべて縦割りで費用が支払われていました。例えば、これら全体で地域に1,000万円の費用がかかっていたとします。

私たちは、これらの費用を一本化し、輸送全体を全但バスが束ねて効率化します。一人の運転手がマルチに運行を担うことで、今まで7人必要だった運転手を3人に絞れるようになります。これにより、これまで1,000万円かかっていた費用を、800万円、700万円と削減していくことを目指しています。これができれば、市の財政負担としては小さくなり、その上でサービスを維持・向上させることができるというわけです。

Q:つまり、行政の財政とサービスの維持を両立させるための仕組みであり、その要となるのが地域住民のドライバー育成なのですね。

小坂: その通りです。この取り組みで最も重要なのが、地域に新たな雇用と稼ぎの場を生み出す「ドライバーズバンク」構想です。

現在、13名の住民ドライバーが登録していますが、高齢化が進む地方では、ボランティアベースの輸送は継続できません。そこで、私たちは住民ドライバーの継続的な確保と育成のために、彼らが安定して稼げるような仕組みを導入します。

Q:ドライバーズバンクとは、どのような仕組みでしょうか。

小坂: 従来の「路線バス専任」「市営バス専任」といった運転手の垣根を取り払い、一人の住民ドライバーが、デマンドバス、スクールバス、福祉輸送、そして将来的に観光輸送といった様々な仕事を兼務できるようにするものです。

来年4月からは、この兼務によって一人当たりの「稼ぎ」を上げられるように、給与体系を整備します。これまでのボランティアベースの報酬ではなく、きちんとした仕事として成り立つようにすることで、40代、50代の若手の兼業ドライバーも、安心して参加できるようになります。現在、13名のうち、70代が最も多く、40代・50代の兼業(民宿経営者、自営業者など)の方も参加しています。

Q:スキマ時間を活用するためのシステムも開発されているそうですね。

小坂: はい。現在は、朝から晩までのフルタイム勤務が難しい方が増えています。そこで、12月頃に「ドライバーズマッチングアプリ」を地域で開発し、導入する予定です。これは、「午前中だけ」「1時から2時の間だけ」といった住民のスキマ時間を活用し、その日の必要な運行台数に仕事を割り振る仕組みです。

さらに、地域の交通が充足し、余剰ドライバーが出た場合、このアプリを通じて、観光交通(城崎温泉など)への輸送に振り向け、インバウンド向けの周遊コースなどを販売することで、「域内経済循環」を生み出すことを目指しています。生活交通だけでなく、観光交通にも広げることで、地域全体で交通を賄えるような仕組みを目指しています。

Q:福祉輸送との連携も視野に入れていると伺っています。小坂:予約センターを社会福祉協議会の事務局に持っていただいています。これは、本来バス会社内に置くことが多いのですが、福祉側にもバスの運行状況を把握してもらうことで、「この時間帯はバスが空いているから、福祉の送迎にも回せるのではないか」という発想が生まれることを期待しています。福祉側も人手不足ですので、この連携によって、福祉の送迎ドライバーの負担も軽減できる可能性があります。

法制度改正への訴えと自動運転への展望

Q:今回の取り組みは、全国の過疎地域に波及していくと思われますか?

小坂: 地方の抱える悩みは全国共通だと思います。この取り組みが成功し、一定の条件のもとバスとタクシーの垣根(乗車定員など)をなくすといった法制度の改正につながれば、地域の担い手が少なくても済むようになり、全国に広がっていくでしょう。

私たちは、国交省に対して、何十年も手がついていなかった制度を、地方の実情に合わせて柔軟に運用してほしいと訴え続けています。例えば、「乗車定員10人以下はタクシー、11人以上はバス」という法律上の線引きは、田舎では無意味な規制です。この定員の違いだけで運行管理の手間が大きく変わってしまうからです。私たちは、この規制緩和を訴え、一部は通達改正として実現していただいています。

Q:それは、バス事業者として、自らの事業のハードルを下げることにもつながり、競合が参入するリスクもあるのではありませんか?

小坂: おっしゃる通りです。制度のハードルを下げることは、これまで制度上守られてきた部分を失うことにもなり、競合が参入する可能性も生じます。しかし、それ以上に、このままでは地域の公共交通が立ち行かなくなるという危機感が上回っています。地方のタクシー会社がこの制度を活用できるチャンスにもなるかもしれません。私たちは、新しい時代に対応した交通サービスを自ら作り出すという覚悟を持っています。

Q:最後に、今後の地域の交通は、自動運転によってどう変わるとお考えでしょうか。

小坂: 自動運転技術の進化は、私たちのような人手不足の地域にとっては大きな期待です。実際に、昨年から地元養父市でボードリー社の自動運転バスを使った実証実験を行っています。自動運転が担い手に置き換わってくれればという期待は半分あります。

しかし、同時に危機感も半分です。無人で動く「レベル4」以上が実現した場合、システム会社さえあれば、私たちバス会社は必要なくなるかもしれません。そうなったときに、バス会社としての存在意義が問われることになります。

だからこそ、技術が進んでも「人」を活かした地域交通のあり方を、今、必死で模索しているのです。この『たけの~る』の挑戦は、たとえ将来、自動運転が普及したとしても、地域住民が主体となってサービスを運営し、人と人との繋がりを維持できる仕組みを確立するための、大きな一歩だと考えています。

更なる未来に向けての視野も良好。自動運転と「人」が融合するハイブリッドも実験中

記事提供元:タビリス