【人インタビュー】独自AIで移動の「もったいない」を解消:ニアミー髙原幸一郎代表に聞く(下)

ジョルダンニュース編集部

空港送迎で磨いたAI配車技術を「地域の足」へ応用

株式会社NearMe代表の髙原 幸一郎氏は、自身の原体験とグローバルな知見から、日本の深刻な移動課題解決に挑んでいる。AIを活用した「シェア乗り」シャトルサービス「NearMe / ニアミー」は、現在、空港送迎サービスを主軸に急成長を遂げ、その仕組みを「観光の足」「地域の足」へと応用し始めている。

NearMeの事業の進化と、その根幹を支えるAI配車技術、そして将来の展望について、引き続き髙原氏に聞いた。

国土交通省や熊本県、西武ホールディングス、春秋航空グループ、阿宝などと、新たな事業戦略を発表した(2025年10月28日)

Q:創業当初から、 「シェアによって、おトクでスムーズな移動」を掲げ、現在はそのシェアの価値を軸に「予約でおトク、ラクちん。配車サービス NearMe |ニアミー」」という事業内容に取り組んでいます。

A: 「移動課題に向き合いたい」という大きなテーマは、当初から変わっていません。ドライバー不足と需要増加による需給バランスの崩壊は深刻な課題であり、これは誰かが解決しなければならない大きなマーケットだと考えていました。

その中で、半分以上が空気を運んでいるタクシーの「もったいなさ」を解決するため、ドライバーの「量」を増やすというよりも、一台に複数人を乗り合わせるという「質」のアプローチ、つまりタクシーをより「バス化」していくべきだという考えは、当初から一貫して変わりません。

ただ、事業の「山の登り方」にはピボットがありました。当初は、深夜の駅前のタクシー行列を解消するために、ユーザー同士をマッチングさせてタクシーを割り勘で乗るサービスを考えていましたが、ユーザーを増やすのに時間もお金もかかると判断しました。そこで、最初のユースケースを、予約がフライトによって先に発生している「空港」に大きく着目し、空港送迎のサービスをまず始めました。

この空港で作った仕組みを横展開して、元々考えていた日常的な移動や観光といった普段使いにも使ってもらえるようなプロダクトにしていくという戦略をとりました。

Q:空港送迎サービスで確立された「仕組み」について、詳しくご説明いただけますか。

A: この仕組みの核は、「予約」を起点にAIが複数人を乗り合わせる点にあります。空港送迎の場合、ユーザーの方にはフライト番号を入れていただくと、そこから逆算してピックアップの時間が自動設定されます。

裏側では、「何時に空港に到着したいか」という情報をもとに、AIが複数人を組み合わせて運行グループを自動生成しています。例えば、9時に到着したい周辺の人たちを集めてマッチングさせ、どういう順番で、何時にどこにピックアップすれば最も効率的かを常に自動で生成しています。前日になるとピックアップ時間が決定され、当日はバンに乗っていただきながら何箇所か回って空港に行く、というサービスです。

このサービスは、ユーザー側の需要をAIエンジンでバンドルしていく(束ねる)というマッチングと、タクシー会社さんやバス会社さんが簡単に運行いただけるようにする計画配車の仕組みで成り立っています。即時移動のタクシーではなく、予約を受け付けて運行を増やしていく仕掛けを持つことで、事前予約によって往復利用など効率の良い配車を組みやすくなり、無駄に走らない自動車配車の仕組みが成長を支えています。

そして、このB2Cの空港送迎で磨いた仕組みを、現在、主に三つの領域に展開しています。一つ目は、空港や観光地などで展開するNearMeブランドでのB2Cサービスです。二つ目は、旅行代理店やホテル、企業とのB2B2C連携で、当社のシステムを連携企業のブランドで使っていただくケースです。そして三つ目が、自治体向けへのシステム提供(SaaS)で、我々の配車システム自体を、コミュニティバスやオンデマンド交通の運行効率化に活用いただくという形をとっています。

Q:このシェア乗りサービスは、どのような利用者層をターゲットにしているのでしょうか。

A: タクシーは、いわゆる公共交通機関のうち、ユーザーはたった4%しかいません。我々のターゲットは、普段電車やバスを使う人たち、または自家用車を使う人たちであり、そもそもタクシー利用者ではない層です。

そういう意味で、タクシー会社としても新しいユーザーが作れているというメリットがあります。我々としては、ドア・トゥー・ドアの移動をうまく活用し、シェアすることでバスライクな、そしておトクな移動を提供し、特に電車・バスユーザーの補完、つまりバス停がない、あるいはバスが走っていない時間帯・エリアの移動手段として応えていきたいと考えています。

当初はタクシー車両の有効活用からスタートしましたが、最近はJRさんなど鉄道会社さんと一緒に路線バスの補完のような形で連携したり、行政が主体的にコミュニティバスの配車後の移動をどうしようかという時に、我々のシステム自体を提供して対応するケースが増えています。それが今、全国で半分以上の都道府県に何らかのサービスを提供できるまでになっているという状況です。

ジャパンモビリティショー公式送迎サービスとしても採用されました。2023年のジャパンモビリティショーのピッチコンテストで優勝したこともあり、当社の進捗を共有させていただいていました。今回、新橋などからビッグサイトまで、シェアでおトクな送迎サービスを提供しています。

ジャパンモビリティショー(2023年)のピッチコンテストでは優勝した(中央が髙原氏)

Q:利用者、交通事業者、自治体からは、どのような反響が寄せられていますか。

A: そうですね。まず自社サービスについては、現在累計予約人数が約125万人にまで成長しており、リピーターも多いです。特に空港送迎では、タクシーと比較して輸送料(乗車人数)を最大で6倍程度まで増やせるというポテンシャルがあり、現在も高い効率を実現できています。

利用者の視点では、観光客の足の確保、特にインバウンド対応で効果が出ています。例えば、東北のスキー場など、駅から現地まで公共交通機関がない地域において、自治体や地元交通業者と連携し、事前予約制のシャトルサービスを提供しました。その結果、今まで移動できなかった観光客が行けるようになり、利用者の満足度が向上しました。交通事業者さんも、需要に応えられていなかったところを解決できたという点で嬉しい、自治体も観光の足としてインフラが一つ作れたという点で嬉しいという、良い事例になっています。

また、行政や交通事業者からは、特にオンデマンド交通のコスト効率化で大きな反響をいただいています。山形市や愛知県西尾市などでの事例がありますが、従来のオンデマンド交通は、ドライバーと車両を固定的に確保するため、使っていない時間帯や誰も乗っていない場合でもコストが発生し、収支率が10%前後と低いことが課題でした。我々のシステムは、走っているタクシーの相乗り制度をうまく活用します。自治体は固定費用を払わず、実際に走った分だけタクシー会社に支払えば良いという仕組みが作れます。これにより、行政のコストが下がり、収支率は35%以上を達成しました。これは従来の10%前後と比較して非常に高い水準です。利用者はワンコイン(500円程度)でバスライクに利用でき、タクシー会社も普段使わない層の利用が増えるため、この仕組みは「三方よし」のポジティブな結果を生み出しています。

Q:今後の展開について、5年後、10年後(2030年)を見据えて、どのような世界の実現を目指していますか。

髙原氏は、「予約でおトク、ラクちん。」を掲げ、2030年問題の解決に挑む

A: 一つの区切りは2030年だと考えています。2030年には、観光客6,000万人を目指す国家戦略がある中で、交通の供給不足は深刻化し、地域の足、観光の足は非常に厳しい状況になると見ています。僕らは、テクノロジーを使って、地域交通と観光交通の垣根を越え、需給のバランスの社会課題を解決していく存在になりたいと思っています。

我々の言う観光立国とは、観光客が単に増える国ではなく、観光を通じて地域が持続可能になっていく仕組みがある国だと捉えています。その仕組みの基本はシェア乗りですが、ドライバーが全くいない地域では、自動運転や公共ライドシェアもうまく組み合わせながら、「予約」という力で交通全体を最適化していくことを目指します。

現在、春秋航空さんなどと連携し、インバウンド向けのテーマで動いています。彼らの利用者が日本で安心して地方部も含めて移動できるような世界を作っていくというテーマです。

これまで、私たちは「シェア乗りでおトクに空港送迎」というブランドでしたが、今は「予約でおトク、ラクちん。」というコンセプトにアップデートしています。このコンセプトで様々な接点を広げていきたいです。具体的には、まず「仮想バス停」を設置することで、リムジンバスなどの既存交通機関が行けないエリアや時間帯を補完していきたいと考えています。また、乗り換え案内サービスなど、より多くのパートナーと連携し、ニアミーという選択肢を広げていくことも重要です。そして、空港以外の観光や地域の足として、この仕組みを横展開していくという、この三つの方向で注力していきます。

ゆくゆくは自動運転のある世界が来ると見ていますが、その世界でも、「一人で一台に乗っている場合じゃない」という社会課題は残ります。ですから、自動運転の世界でもバスライクなドアツードアのシェアが当たり前になると想像しています。私たちは、今からこのシェア乗りを当たり前にし、「予約でおトクラクちん。」を浸透させることで、地域交通と観光の交通の需給ミスマッチを解決しながら、自動運転になる世界に繋げていきたい。2030年は、それが一定実現できたモメンタムができている状況にしたいと考えています。

配車サービスにかける髙原氏
記事提供元:タビリス