ドジャース「イノベーションで競技間競争に勝つ」、テレビ朝日「初期段階のスタートアップに投資」 スポーツ・エンタメ、VC投資が重要に

ジョルダンニュース編集部

放送業界向けの展示会「Inter BEE」(11月19〜21日、幕張メッセ)で、米プロ野球・ロサンゼルス・ドジャース関連のベンチャーキャピタル(VC)と、国内のテレビ局の投資戦略担当者が登壇し、スポーツ・エンターテイメント分野におけるベンチャー投資の意義について議論を交わした。ドジャースの関連投資会社であるElysian Park Venturesのジェイ・アディア(Jay Adya)氏は、イノベーションを取り込むことで競技間の競争に勝ち抜く必要性を強調。一方、テレビ朝日の増澤晃氏は、自社のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)設立の背景を語り、スタートアップとの連携による未来のエンターテイメント創造に意欲を見せた。

このトークセッションのモデレーターは、ベンチャーキャピタル、スクラムベンチャーズの創業者兼ジェネラル・パートナーである宮田拓弥氏が務めた。

記念写真の撮影に応じる登壇者

ドジャースVC「勝利のためイノベーション不可欠」

宮田氏の紹介を受け、ドジャース関連の投資会社であるElysian Park Venturesのマネージングパートナー、ジェイ・アディア氏は、ドジャースがベンチャー投資を行う背景について、スポーツ業界の成長と競争の激化を挙げた。「バスケットボール、野球、サッカーなどの競技間競争が激しい中で、イノベーションに取り組まないと勝てない」と述べ、巨大なチームやリーグであっても、ベンチャー投資を通じて新しい技術やアイデアを取り入れることが不可欠との見方を示した。

Elysian Park Venturesのジェイ・アディア氏

Elysian Park Venturesは、スポーツ分野に特化し、アーリーステージからグロースエクイティまで多様な投資を行っており、現在約70社に投資している。同社の特徴は、投資先企業に対し積極的に関与することだ。例えば、睡眠トラッキングデバイスを提供するOura Ringに投資する際も、ドジャースのチームトレーナーやコーチ陣と連携し、プロアスリートにとっての有用性を確認したという。この球団との密接な連携は、投資判断と事業開発において大きな競争優位性になっている。

また、アディア氏は、スポーツベッティング大手DraftKingsへの投資を成功事例として紹介。ベッティングが観戦者のエンゲージメントを高めるというデータに着目し、投資を決定した。さらに、野球以外の分野にも積極的に投資しており、女子バレーボールのプロリーグと育成クラブを運営するLOVEや、国際的なダンスリーグIDLなど、幅広いスポーツや文化と交差する分野にも目を向けている。

特にスポーツにおけるAI(人工知能)の役割について、アディア氏は「20年前のスカウティングレポートは紙だったが、今や100年分のデータに基づくビッグデータ分析が基本だ」と語った。打者・大谷翔平選手が打席に入る際、AIによる分析が、投手や状況に応じた球種の予測に役立っていることを具体例に挙げた。また、AIは選手の傷害予防の分野でも期待されており、過去の膨大なデータから傷害発生の条件を特定し、選手のトレーニング計画に役立てることで、メジャーリーグにおける傷害の「伝染病」とも言える状況に対処できると見ている。

日本の市場については、「米国に次ぐ第2の市場であり、商業的な機会、エンゲージメントの基盤として非常に大きい」と評価。AIやコンピュータービジョン、コンテンツ制作など、日本発のイノベーションにも注目していると述べた。

テレ朝、エンタメ特化CVCで未来を拓く

一方、テレビ朝日 経営戦略局 投資戦略部 オープンイノベーション担当部長の増澤晃氏は、今年7月に設立した50億円規模のエンターテイメント特化型コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)「ブレイクスルー・エンタテイメント・ファンド」について紹介した。

テレビ朝日の増澤晃氏

増澤氏は、テレビ局という本業を持ちながらスタートアップに投資する意義について、野球の例えを用いて説明した。これまでに、ショートフィルムに特化した事業や、ファンビジネスの最大化をテーマにしたeスポーツ関連の企業など、2社への投資を実行したことを明かした。投資先の選定基準については、「社内で例え話をしているが、甲子園優勝や大学野球で結果を出している人ではなく、リトルリーグの優勝者、つまり初期段階のスタートアップを応援しようというものだ」と述べ、将来的な飛躍に期待をかける考えを示した。

エンターテイメントにおけるAIについては、「表現としてのAI」と「制作過程としてのAI」の二つの側面があると分析。特に制作効率の向上や、多言語でのコンテンツ展開など、制作過程におけるAI活用に大きな可能性を見出している。

さらに、テレビ朝日の新たな事業として、来年3月にオープン予定の有明南地区における大型総合エンタメ施設「TOKYO DREAM PARK」構想を紹介した。5,000人規模のホールや劇場を核とし、放送映像とは異なる形で、スタートアップとの連携を通じた集客やマッチングの可能性を広げていく考えを語った。

モデレーターを務めたスクラムベンチャーズの宮田氏

両氏は、スポーツやエンターテイメントの世界が、AIやベンチャー投資という新たな手法を取り入れ、進化し続けている現状を提示した。宮田氏は「3年後5年後くらいにまた答え合わせできたらいい」と述べ、今後のイノベーションと成長に期待を示してセッションを締めくくった。

記事提供元:タビリス