【人インタビュー】テクノロジーで未来の社会を創る──「旗振り役」ハタプログループ伊澤諒太CEOが仕掛けるAI、教育、まちづくり
2025/12/2 12:12 ジョルダンニュース編集部

【下】街ごと未来へ:教育、港区のまちづくり、そして「AI生物種」
未来の起業家を育む「Startup H(スタートアップエイチ)」
Q. 「他の人の夢を応援する」という軸から、教育分野での新しい取り組みも始めているそうですね。
伊澤: テクノロジーだけでなく、「人の未来を見据えた取り組み」として、広尾学園高校の現役教員と、NTTドコモの新規事業担当者、そして私で、共同代表を務める形で会社を設立しました。
株式会社Startup H(スタートアップエイチ)という、中高生の起業家教育を行う会社です。2025年に東京タワーで設立発表会を行い、文部科学省と日本経済団体連合会(経団連)にもご後援いただきました。教育界と経済界の両方が後援についていただけたのは、非常にユニークで必要とされている取り組みだからだと感じています。

Q. どのような教育プログラムを行っているのでしょうか。
伊澤: ただ単に起業家教育のプログラムを提供するだけでなく、中高生が自ら、年間を通して「本物の株式会社」を実際に経営するという取り組みです。生徒たちを中心に先生と大企業の新規事業担当者と地域の町会・商店会の関係者たちと一緒に、財務体系など会社経営のあらゆることを経験しながら、街の社会課題を解決する複数の共同事業を展開しています。
大学や大企業の研究所発の最先端のテクノロジーも取り入れ、地域の方々と一緒に本質的な社会課題を考え、未来のために街ぐるみの「社会実装」を様々な形で共創しています。
Q. 設立から約半年で、既に具体的な成果は出始めていますか。
伊澤: 成果を何に捉えるかにもよりますが、設立時4チームだったのが、今は8チームに増えています。これらのカンパニーが、街に出て様々な社会課題を解決する事業を、それぞれの領域で日常的に行っています。
例えば、海外に日本の文化や伝統工芸品を発信・販売するチームは、麻布台商店会と赤坂通りまちづくりの会(赤坂の商店会・町会・地元企業・住民・有志等で地域活性化の活動をしているまちづくり組織)との繋がりで、TBSの赤坂でのイベントと連携して販売活動を行いました。これまでは大使館などが集まるイベントでしたが、そこに初めて「日本代表」のような形で高校生たちが参加し、日本の商店街の店舗と共創したお茶などを海外に向けて発信する取り組みを行いました。
伝統と革新が織りなす形で、地域を大切にしながら未来へ向けた価値創造を実践しました。多世代でまちづくりの未来に貢献しながら、高校生たちも学びになっているとおり、当初掲げていた目標は、ある程度達成できています。
地域から世界へ:港区の新しいまちづくり
Q. 教育事業だけでなく、地域創生にも深く関わっていらっしゃいます。港区の麻布台周辺エリアの商店会(街)の会長にも就任されたそうですね。
伊澤: はい。港区の新しいまちづくりの流れの中で、麻布台と周辺エリアの商店街を形成する商店会の会長を務めています。私はスタートアップの代表でありながら、商店の経営者でもあり、大企業の新規事業を推進する立場でもあります。
そういった様々な立場を理解できる特殊な立ち位置を、社会に還元したいという思いがあります。この麻布台エリアを、世界と地域を結ぶイノベーションのハブ」にしていきたいと考えています。

Q. 具体的にはどのような活動を行っているのでしょうか。
伊澤: 商店街の会長はご年配の方が多い中、私は38歳で若手ではありますが、これまでのテクノロジーでの社会課題解決の実績を生かして、新しい動きをしています。
商店会を形成し、地域の町会・自治会、さらには森トラストさんのような大手デベロッパーとも連携協定を結び、住民・商店・大手企業が連携する新しいまちづくりを、住民起点で行っています。
麻布台は今、ベンチャーキャピタルやスタートアップが集積し、今後アマゾンも進出するなど盛り上がっています。その中で、商店街のエリアには東京タワー通りも含まれており、世界中から観光客が集まる場所です。
この地域性を生かし、地域内だけでなく、地域外から来る人たちも巻き込んで、このエリアから面白い新しい企画が生まれる取り組みをしています。
Q. その具体例として、どのような企画がありますか。
伊澤: 住民とAIが一緒に考えたコースで、スタートアップの技術を生かしたスタンプラリーなども行っています。商店街が起点となりつつ、企画には麻布台ヒルズさん、東京タワーさん、東京メトロさん、森トラストさんなどが協力してくださり、港区が後援についています。テクノロジーの要素も入れています。

実は、広尾学園さんとの起業家教育の会社設立も、この商店会から始まったムーブメントとして行っています。伝統と革新を組み合わせた様々な企画をどんどん進めています。
AIと自然から学ぶ「美術館」と「学校」の創造
Q. 現在、伊澤さんが力を入れている「これからの挑戦」についてお聞かせください。
伊澤: ロボットを作る、商店会の会長になるなど、「無謀に思えること」をやってきましたが、さらに今は「学校を作る」ということや「美術館を作る」ということにチャレンジしています。ロボットやAIといった “テクノロジーを使った生命表現” を長年続けてきた延長に、 「自然のしくみをAIで再構築し、教育やアートに実装する」という挑戦があります。
Q. 「学校」と「美術館」ですか。詳しく教えてください。
伊澤: ハタプロ単独ではなく、広告会社の博報堂さんと一緒に、自然やAI、創造性をテーマにしたアトリエ型のスクールを立ち上げていきます。2026年4月頃の開校を目指しています。
これは、ネイチャーポジティブという、生態系や自然を大事にする世界的な概念をテーマにした新しい学びの場です。自然や環境を学ぶだけでなく、AIなどのテクノロジーにも触れながら、「今の大人たちでは解決できなかった問題も解決できるような子どもたち」を、街ぐるみで育てていこうという取り組みです。
具体的には、ハタプロと東京大学 大学院医学系研究科・医学部、そして台湾大学発のスタートアップと協業して開発した、タブレットが顕微鏡になるツールを使います。AIと接続しやすく、子どもたちがグループで楽しく観察・記録できる新しい教材です。
Q. その教材を使って、どのようなことを学ぶのでしょうか。
伊澤: このツールを使って、まず子どもたちが生き物や植物を観察し、 自然の中にある“かたちや動きの理由”を自分の言葉で捉えるところから学びが始まります。その気づきをもとに、私たちは 「AI生物種(AI Species)」 と呼んでいる、 自然から着想を得てつくられる新しいデジタルの生命のような存在を生み出します。これは単なるキャラクターづくりではありません。自然界の構造を理解し、 その法則性をAIで表現していく「科学 × 創造」の探究プロセスです。

子どもたちが創ったAI生物種は、 それぞれの特性を持ち、 共生したり、繁殖したり、ときには絶滅したりしながら、 オンライン上に 「AI生物種のデジタル生態系」 として広がっていきます。さらにリアルの場では、 それらのふるまいをもとにした 「子どもたち自身がデザインした世界に入り込める没入型の空間」 として表現する計画です。自然観察、科学的思考、AIによる創造、生態系の理解まで、 これからの社会に必要とされる学びを、一つの流れとして体験できる仕組みになっています。
これが広い意味での「学校作り」と「美術館作り」です。
Q. AIと教育、アートを融合させた最先端のプロジェクトですね。今後はどのように展開しますか。
伊澤: このプログラムは、2026年の開校に向け、既に始動しています。 博報堂さんとの協業で赤坂に立ち上げるアトリエ型スクールを中心に、 麻布台のハタプロ常設教室や地域の研究フィールドとも連動させながら、 赤坂と麻布台の両エリアで 街そのものを“学びのフィールド”にしていく構想です。
協定を結んでいる森トラストさん(麻布台・神谷町と赤坂の双方で都市開発を推進)や、 地域の町会・商店会が中心となって設立された港区の「区民発意のまちづくり組織」との連携もさらに深め、 教育・文化・街づくりが一体となったプロジェクトへと進化させていきます。
また私たちは、食やウェルビーイングといった 街に欠かせない領域についても、 大企業と協働しながら未来の形をつくる取り組みを進めています。 これらはあくまで、学校や美術館づくりと同じく、 街の価値を高める一つのピースとして位置づけています。
そして、東京大学 大学院医学系研究科・医学部との共同研究も、この「食とウェルビーイング」、「学びと創造」の領域での新たな社会実装を目指しています。 今年12月27日には、東京大学とハタプロの共同研究発表会とともに、実際に街で社会実装に取り組む子供たちと中高生と大企業の発表も行い、多世代が共に学び共創する取り組みを推進していきます。
Q. 最後に、伊澤CEOにとって「テクノロジーを社会実装する」ことの最終的なゴールは何でしょうか。
伊澤: 私の生き方は、「冒険者の生き方」です。常にその時代に合わせた最適なことや、やりたいことをベースに、会社を作ったり、プロジェクトを立ち上げたりしています。

そして、それは決して一人ではなく、大企業、自治体、学校、そして地域の人たちと一緒に、未来を見据えた動きをすること。自分の夢だけを追うのではなく、他の人の夢を応援し、共に達成していくのです。
高校時代に学んだ「身の丈以上の相手に常にチャレンジする」という精神を胸に、これからもテクノロジーを軸に、人々の情熱と夢が実現する社会、そして未来の社会を創る「旗振り役」を続けていきたいと考えています。









