国内VC投資、24年度は過去最高の3850億円 ディープテック大型化で記録更新 25年度見通し、市川理事長「楽観はできず」

ジョルダンニュース編集部

ベンチャーエンタープライズセンター(VEC)は12月8日、2024年度の国内ベンチャーキャピタル(VC)による投資動向を発表した。投資総額は3850億円となり、ITバブル期や前回のピークだった2020年度を上回り、過去最高額を記録した。AI(人工知能)やディープテック(深層技術)分野への1件あたりの投資額が増加したことが市場を押し上げた。一方で、市川隆治理事長は米国など海外の金融環境の影響を受けやすい現状を指摘。2025年度以降の投資拡大には、海外マネーの再流入や大学発ベンチャーの成長が不可欠との見通しを示した。

2024年度のVC投資金額は前年度に比べて3割以上増えた

件数減でも金額増、投資構造に変化

VECの市川理事長が説明会で明らかにした。国内VC投資は、リーマン・ショック後の2009年度に875億円まで落ち込んだが、その後は順調に拡大基調を維持している。新型コロナウイルスの影響で対面での投資相談が停滞し、一時的な足踏みが見られたものの、オンラインの投資相談の定着などによりV字回復を果たした形だ。

投資構造の質的な変化も鮮明だ。2024年度の投資件数は2129件と、2000年度(3736件)と比較して大幅に減少している。それにも関わらず総額が過去最高となった背景について、市川氏は「2000年代初頭はスマホアプリやゲームなど小規模な案件が中心だったが、近年はディープテックを含め、多額の資金を要する大規模なビジネスへの投資が成立している」と分析する。

大企業のオープンイノベーションに伴う投資が期待される

2025年度の投資環境、慎重な見方

過去最高額を達成したものの、2025年度の投資環境について市川氏は「手放しで喜べる状況ではない」と慎重な見方を示す。最大の懸念材料は、振れ幅の大きい海外からの投資動向だ。

2025年の投資金額は前年を下回って推移している

VECの調査には表れにくい金融機関や海外投資家を含めた統計(STARTUP DB等参照)によると、2021年には米国などから巨額の資金が流入したが、翌年以降は米国の金融引き締めなどの影響で急減した経緯がある。日本のスタートアップ市場は依然として対外的な経済環境に左右されやすい構造にあり、2025年度も米国の金利政策や市場環境が、日本の投資総額を大きく変動させるリスク要因となる。

仏と拮抗、世界基準への挑戦

世界との距離は依然として大きい。米国の2024年のVC投資額は約32兆6000億円と、日本の約85倍の規模だ。米国では特定の技術や人材に特化した「マイクロVC」という新たな潮流も生まれており、市場の厚みを見せつける。

投資金額は米国を大きく下回る

こうした中、日本がベンチマークすべきは欧州だ。フランスの投資規模は日本円換算で約3700億円と、現在の日本とほぼ拮抗している。フランスでは「グランゼコール(高等専門教育機関)」出身のエリート層が起業に関心を持ち始め、インキュベーション施設「ステーションF」がエコシステムの中核を担う。市川氏は「フランスやドイツの動向は日本の参考になる」と指摘し、国を挙げた環境整備の重要性を訴えた。

起業の裾野を広げることが課題だ

日本での起業については、国内では「親ブロック」や「嫁ブロック」といった起業に対する心理的なハードルや、中高生向けのアントレプレナーシップ教育の遅れなど、課題も残る。過去最高額を更新した勢いを2025年度以降も維持し、「1兆円」規模の市場へ定着させるためには、海外資金への過度な依存を脱却し、国内機関投資家や大企業のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)からの安定的な資金供給、そして失敗を許容する教育・社会風土の醸成が急務となる。

記事提供元:タビリス