国内初、民間フル電動旅客船が定期就航 日本橋〜豊洲間で日常の足へ 三井不動産
2026/4/28 17:28 ジョルダンニュース編集部

三井不動産は26日、日本橋と豊洲を結ぶフル電動旅客船の定期航路の運航を開始した。民間企業がフル電動旅客船による定期航路を開設するのは国内初となる。
同社が船主となって始動した舟運プロジェクト「&CRUISE」の第1弾。新造された「Nihonbashi e-LINER」は、全長17メートル、総トン数約17トンの低頭型船舶だ。国内最大級となる約300キロワット時の大容量リチウムイオン二次電池を搭載し、主機関などの内燃機関を全廃している。これにより航行中の二酸化炭素(CO2)排出をゼロにした実質ゼロエミッション船となっており、充電は「アーバンドック ららぽーと豊洲」に新設された専用の給電設備から行う。運航事業は観光汽船興業が担う。

運賃は5月末までのキャンペーン期間中は片道900円(小学生450円)で、1隻体制でスタートする。6月以降は1000〜1500円に改定し、2隻体制への移行や増便を目指すという。三井不動産の担当者は「事業単体での黒字化は容易ではなく、乗船率をいかに高めるかが鍵になる」と語る。また、今後の航路拡大に向けては、公共桟橋に給電設備が存在しないことが大きな障壁になっているという。
それでも同社は、通勤や日常の移動、観光客の足としての定着を狙う。将来的には2030年代の築地市場跡地のまちびらきに合わせ、日本橋・豊洲・築地の新旧三大市場を結ぶ舟運ネットワークへの拡大も視野に入れている。いずれも三井不動産が主体となって開発する拠点でもある。
【乗船ルポ】水面すれすれ、橋脚を縫う「神業」 圧倒的な静寂とスリルが交錯するEV船クルーズ
「出発進行!」
4月25日、豊洲船着場。地元・小学3年生の子供船長による元気な号令とともに、真新しい電動船「Nihonbashi e-LINER」はゆっくりと岸を離れた。三井不動産が満を持して就航させた、国内初の民間フル電動旅客船による体験クルーズの幕開けだ。
煙突のない外観と、環境に配慮したこだわりの内装
乗船してまず目を引くのは、シンプルながら機能的な船の造りだ。車椅子のまま乗船でき、バリアフリー対応のトイレやフリーWi-Fi、充電コンセントも完備している。外観の特徴として、通常の船にはあるはずの排気用の煙突が見当たらない。船尾にはEV自動車と同じようなプラグの差し込み口が2箇所並んでおり、2本のケーブルで同時に充電できる仕組みだ。
内装には強いこだわりが見える。今回乗船した「2号艇」のシートは、汚れへの耐性を見極めるために1号艇の素材(人工スエード)から水色の合皮に変更されており、床には水色を基調とした廃棄漁網再利用のカーペットが敷かれている。
特筆すべきは、客室の座席下だ。ここには国内最大級となる240個ものリチウムイオン二次電池が敷き詰められている。この重いバッテリー群が船の重心を極限まで下げており、水面から船底までの深さ(喫水)を浅く保つフラットな形状を作り出しているのだ。

匂いも音もない、水面を滑るような疾走感
豊洲の海へと滑り出すと、圧倒的な「静けさ」と「空気の綺麗さ」に驚かされる。内燃機関が一切ないため、ディーゼルエンジン特有の重低音や振動がなく、鼻をつく排気ガスの匂いが全くしない。聞こえるのは、微かなモーター音と水を切る音だけだ。
速度は約7ノット(時速14キロ弱)。決して猛スピードではないが、重心が低く乗客の目線が水面からわずか50〜60センチと極端に近い位置にあるため、想像以上のスピード感と水との一体感を味わうことができる。
景色は一変、日本橋川の難所を攻めるスリリングな操船
開けた東京湾のクルーズから、江戸橋を越えて日本橋川へと入り込むと、優雅な雰囲気は一転してスリリングな冒険へと様変わりした。

頭上を首都高速道路の高架が覆い、古い橋脚が複雑に入り組む狭い水路を、船は縫うように進んでいく。潮位が高い時には、橋桁との隙間がわずか10〜15センチにまで迫るというから冷や汗ものだ。操舵室の船長は、水深や川底の地形を映し出す赤いモニター(魚群探知機兼水深計)と、左右のカメラ映像、そして潮位を鋭い目つきで交互に確認しながら、慎重に舵を切っていく。

わずか3メートルのゆとり、息を呑む着岸作業
終着の日本橋船着場への着岸は、このクルーズ最大のライマックスだった。日本橋の船着場は全長20メートル。そこに全長17メートルの船体をピタリと寄せるのだから、前後のゆとりはわずか3メートルしかない。
さらに、船底がフラットで水に深く沈んでいないこの船は、風や波の影響を非常に受けやすいという弱点を持つ。川の狭さや水流も相まって、通常の船以上に極めて高度な操船技術が求められるのだ。
着岸時、船底からモーター音が響く。横移動用のスラスター(電気モーター)を巧みに駆動させ、水流の抵抗と風を読みながら、船体をミリ単位で桟橋へとすり寄せていく。見事に着岸を果たした瞬間、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。
日常の都市風景を水面すれすれから見上げる非日常感と、環境配慮の静寂、そして手に汗握る操船のスリル。「Nihonbashi e-LINER」は、単なるエコな移動手段という枠を超え、東京の新たなエンターテインメントとしてのポテンシャルを存分に体感させてくれる水上クルーズだった。
【記者の目】
江戸時代、日本橋は五街道の起点として陸上交通の中心であっただけでなく、橋のたもとには活気あふれる魚河岸が設けられていた。「日に千両が落ちる」と謳われたその繁栄は、東京湾から新鮮な海産物を運び込む無数の小舟によって支えられており、日本橋はまさに「水都・江戸」の心臓部であった。
高度経済成長期、効率を優先した東京では川の上に巨大な首都高速道路が建設され、水辺の風景は失われてしまった。しかし現在は、2040年ごろの高架橋撤去に向け、再び「空と川に開かれた街」を取り戻す「日本橋リバーウォーク」構想が進められている。今回就航したフル電動旅客船「Nihonbashi e-LINER」は、内燃機関を廃してCO2排出ゼロという現代の環境要請に応えるだけでなく、かつて水陸交通の要衝であった日本橋に舟運を呼び戻す挑戦である。将来的には日本橋・豊洲・築地という「新旧三大市場」を水上で結ぶ計画もあり、かつての魚河岸の賑わいと舟運の記憶を現代の「Well-beingな移動」へとアップデートする、壮大な「温故知新」のプロジェクトと言える。
公共桟橋における給電設備の不足や、事業としての採算性確保には課題も山積している。しかし、目先の経済合理性だけにとらわれず、数十年先を見据えて都市の風景と人々の生活の質を豊かにしていく大局的な視座こそが、成熟した街づくりには求められているのではないだろうか。









