10倍堪能!海外旅行の超スキル② 初めての街で市内周遊 小柳淳

ジョルダンニュース編集部

突如車窓に映った世界遺産 普通の路線バスの贅沢

 海外に行き初めての街に着く。すぐにはリアルな市街の佇まいや空間の広がりは分からない。いきなり目的の古城や展望台、美術館、レストランに向かってもよいのだが、ホテルの周囲を少し歩くだけでも街の雰囲気を感じることができる。街行く人々の様子や街区の美しさ、逆に汚れも見えてくる。せっかく訪れた土地なのだから、点と線から面に広がる風景を感じたい。

路線バスで街の空気を感じる


 特急列車でローマに着いたとき、遅い午後の中途半端な時間に散歩に出た。とりたてて観光ポイントのないエリアを歩く。慣れないと歩きにくい石畳の緩い坂道が続き、道で子供たちが遊んでいる。道はやがて階段となり、降り切ると大通りに出た。路線バスが来たので飛び乗る。行先表示のイタリア語は分からないけれど、夕食をしようと考えていたトラステベレの方に向いてはいた。しばらく車窓には地味な石造りの建物が続いていたが、突如古代ローマの円形闘技場であるコロセウムが現れた。まるで世界遺産見学バスに乗った気分だ。もちろん、ただの路線バスだから、コロセウムを半周すると、すうっと離れてゆく。

簡単で安心なレッスン


 初めての街に着いて少し時間があったなら、バスかトラム(路面電車)に乗るのがお勧めだ。街なかを走るバスやトラムは車窓の視線が低く、スピードもさほど速くないので、街を眺めるのにちょうどいいのだ。

ウィーントラムのリンク路線 リンクの環状線に出入りする電車も多いので注意

 ウィーンには、リンクといって市街中心部に環状線のトラム路線がある。沿線にはオペラ座、美術史美術館、王宮、市庁舎などある。半周か一周すると、市内観光の簡単で安全なレッスンができてしまうのだ。このリンクは、かつて外敵から都市を守る城壁があった跡地が道路になったという。
 もちろん、どの都市にも環状線があるわけではない。でも、バスやトラムの路線によっては市内見物にぴったりのものがあるのだ。適当にバスやトラムに乗って、車窓を楽しんだら降車してしまえばいい。どこにいるか分からなくても、同じ番号の路線で逆方向に乗れば元の場所に戻れる。

目的地決めずに乗ってみる


 トラムといえば香港には二階建の電車が走る。密集市街地をゆっくり往き来しているので、その二階席は市内見物に最適。超高層ビルが林立する中心市街地、中環(Central)の辺りから東向きに15分くらい乗ると、ビジネスエリア、下町、ショッピングゾーンを次々と見ることができる。

香港の市街に溶け込んでいる路面電車

 先日京都でも市内観光ルートに出会った。もちろん普通の路線バスである。市バス201番が中心部を四角く周回していたのだ。祇園~四条通(西向き)~二条駅~千本通(北向き)~今出川通(東向き)~鴨川~百万遍~東大路(南向き)を走る。一周1時間近くかかるが、一周しないで気に入ったところで降車してもいい。
 交通機関はどこか目的地に行くためのものではあるけれど、初めての街を感じるために目的地を決めずになしで乗ってみるのも楽しい。 
 ところで、ウィーンのリンクからは放射状に何本もの路線が出入りしている。リンクに乗ったつもりでも、どこかで曲がって別の線に入ってしまうこともあるのでご注意。
(写真:小柳淳)

小柳淳(こやなぎ・じゅん):1958年東京都生まれ。東京都立大学法学部卒。海外渡航122回、国内未踏3県。交通、旅行、ホテル業などを経て、旅行作家。VISIT JAPAN大使、日本旅行作家協会会員、日本香港協会理事。著書に『旅のことばを読む』、『香港ストリート物語』など。

10倍堪能! 海外旅行の超スキル① コロナ禍空白で鈍った勘 小柳淳
記事提供元:タビリス