【人インタビュー】独自AIで移動の「もったいない」を解消:ニアミー髙原幸一郎代表に聞く(上)

ジョルダンニュース編集部

グローバルキャリアを経て「地域課題」へ回帰

独自のAIを活用した「予約でおトク、ラクちん。」な移動体験を提供するシャトルサービス「NearMe / ニアミー」を展開する株式会社NearMe(東京・中央)は、創業から約8年を迎えるスタートアップだ。同社代表の髙原 幸一郎氏は、SAPや楽天といったグローバル企業でキャリアを積み、海外でのM&Aや事業開発を経験した異色の経歴を持つ。

髙原氏がなぜ、故郷である日本の「地域課題」、特に移動の問題解決に挑むことになったのか。その原体験と、グローバルな視点から生み出された「NearMe」の事業構想、そして創業期の苦労について、全2回にわたって詳しく聞いた。

ジャパンモビリティショー(2023年)のピッチコンテストでプレゼンする髙原氏

Q:まず、NearMeを創業された経緯と、その背景にある思いをお聞かせください。

A: 私は個人としても、この会社を立ち上げた経緯についてお話ししたいと思います。ニアミーという会社は2018年に設立しました。私自身が「地域課題に向き合いたい」という強い思いで立ち上げた会社です。今のニアミーのロゴもモビリティっぽくないと言われますが、それは「私の近くがより便利になる」とか、「私の近くの良いものを発見しやすい」ような仕組みを作りたいという、より大きな思想から始まっているからです。

スタート当初はモビリティだけではなく、色々な事業アイデアがありました。その中で、どうすれば社会にインパクトを出せるか、どうすればユニークで持続可能なモデルを作れるかを検討した結果、モビリティの領域が地域課題に対して最もインパクトを出せるのではないかという結論に至りました。それで創業当初からモビリティの領域でスタートアップとしてやっています。

当社のコンセプトは、暮らしの「もったいない」をなくし、「次のあたりまえ」をつくる。です。今、ゼロから一を新しく生むというよりも、今あるアセット(資産)を有効活用しながら、持続可能な仕組みを作っていくことが非常に重要だと考えています。移動についても同じで、移動の「もったいない」(非効率な空車の多さなど)を解決することによって、一人でも多くの人が、結果として「好きなまちに住み続ける社会を作りたい」という、そんな大きなミッションで取り組んでいます。

Q:髙原代表のこれまでのキャリアと、それがNearMeの事業にどう繋がったのか、詳しくお聞かせください。

A: 私自身はどちらかというと、それまで海外志向が強く、「インパクト」というテーマは新卒からずっと持っていました。特に「インパクト足す(+)グローバル」という視点で、キャリアのスタートからニアミーを始める直前まで邁進してきたところがあります。最初のキャリアであるSAPというソフトウェアの会社を選んだのは、グローバルという点では業界の中で世界一の会社に行きたいという思いがあったこと、そしてインパクトという点では、自分の力以上のことができるようなインパクトを世の中に出したいと思ったからです。

そこで、インフラの中でも「情報インフラ(ソフトウェア)」が面白いと考えました。ソフトウェアは見えないけれども、導入されることで企業の変革が起きたり、大きなインパクトが広がりを持って出ていくところにワクワクを覚えたのです。

そこで約10年間、国内外のいわゆる大手企業に対し、業務改革プロジェクトというテーマで向き合ってきました。上流の要件定義から導入後の保守・改善まで、一通り様々なフェーズを経験し、その中で、SAPのグローバルの組織の中で、社内転職をするような形で、より全体の動きに関わるポジションに進んでいきました。

Q:楽天への転職と、そこで得られた「地域アセット活用」の気づきは何でしたか。

A: もっと意思決定、つまりプロダクト自体を作っていくとか、グローバルな意思決定により関わるポジションに行きたいと思った時に、もう一度、進学したいと考えました。それでアメリカに留学し、大学院に行きました。留学後は、SAPの本社に戻るつもりでしたが、その時に「日本の会社がこれから世界一を目指す」というロマンを感じ、2012年に楽天に転職するという選択をしました。

楽天時代の髙原氏(左)

海外にいることで自分が日本人としての自覚や自意識を感じながら、「日本と世界をつなぐ触媒のような役割」になれないかという思いを持ったからです。

楽天には約5年半在籍しました。最初の2年間が国内事業で、後半の3年半が私が志願した海外展開の事業を担当することになりますが、実はニアミーの事業構想につながるような体験は、前半2年の国内事業で得られました。

具体的には、物流事業の立ち上げをやっていました。当時の課題として、ラストワンマイルの非効率さや人材不足がある中で、たまたま地域を移動するタクシーのような移動体も、地域の物流ネットワークになるのではないかという発想を持ちました。その後、日用品系の事業を担当したのですが、水やおむつなど重いものを「すぐ届ける」には、物理的に近くないと早く届かないという壁に直面しました。遠くの倉庫から持ってくるのではなく、近所のスーパーやドラッグストアなどの地域のアセットを繋いでいかないと、この世界は実現できないと気づいたんです。

この時の気づきは、生活に関わるようなサービスは、テクノロジーが進化していくと、その地域の中で循環していく仕組みに活用されていくのではないかということでした。Uber Eatsのようなサービスも、プラットフォームはグローバルでも、お店も配達する人も、食べる人も皆ローカルなアセットです。こうしたローカルなアセットをある意味で仕組み化していくことが、世の中をアップデートしていく、という可能性を感じました。私にとって、生活者に向き合う、手触り感のある仕組みづくりは非常に魅力的でした。

Q:海外事業での経験が、起業への決定打になったのはなぜでしょうか。

A: その後、海外志向が強かったこともあり、手を挙げて、アメリカで買収した会社のPMI(経営統合)と事業開発を約3年半担当し、最後はフランスにあるグループ会社の責任者も務めました。この海外での経験で、買収した会社の創業者たちと接する機会が多くありました。彼らは、自分で好きで立ち上げて成長させ、会社を売却した後も、その事業に対して強い思いを持って、すごく楽しそうにコミットしていました。それを見て、自分も何か、日常的な生活をより豊かにしていくことにコミットし、熱中したいという思いが強くなりました。

それが、国内事業で気づいた「地域の中で仕組みを作ることに向き合う」ことであり、さらに冒頭申し上げた「地域社会の課題に向き合いたい」という思いに繋がりました。その中でも、自分の原体験から、「移動の課題」は大きいと確信しました。そして、日本の地域課題に向き合って、自分が育った日本のためにもっと尽くしていきたいという強い思いがあり、日本に戻ることを決意し、2018年1月にNearMe(ニアミー)という会社を立ち上げました。

ニアミーのロゴを表示したタクシー車両

Q:移動課題への強い思いを持つに至った「原体験」について、より具体的にお聞かせください。

A: 私は都内で育ちましたが、社会人になってから、あえて郊外の自然豊かなところに住むことを選びました。都心にはない地域性や魅力に、昔からすごく憧れがあったからです。

私が住んだのは、埼玉の郊外で、バスで行かないと帰れないような場所でした。例えば、最寄り駅まで終電で帰ってきても、バスはすでに終了していました。ほとんどの日で終バスに間に合わず、そうすると駅前にはタクシー待ちの長い行列が毎日できていました。一人一台乗っていくことへの非効率さや、待つ時間の不便さ、そして安くはないタクシー代という「もったいなさ」を、生活の中で痛感しました。雨が降ったり雪が降ったりしたら、もう絶望的です。

住環境自体は良かったのですが、移動が不便なことによって、時には陸の孤島化してしまう。これは生活における非常に大きな「ペイン(痛み)」だと感じました。

さらに、私が住んでいたのは、中古の団地をリノベーションした場所で、当時の平均年齢は70代でした。これは日本の高齢化という構造的な課題が凝縮された場所だと感じました。400世帯ぐらいの大きな団地だったので、この人たちの10年後の未来を考えたとき、移動の問題は本当にやばいな、と当時から思っていました。町に住むことと、移動という要素は非常に重要であり、これは自分のこととして、自分の想いを込められる領域だと確信したのが、この原体験です。

Q:創業時のチーム組成、特に「仲間集め」はどのように進められたのでしょうか。

A: 立ち上げは、もともと機械学習の領域でPhDを取得し、エンジニアとして働いていた細田謙二(現CTO)と、二人で始めました。彼とは共通の友人の紹介で出会い、私が起業の構想を話している中で、二人でスタートを切りました。

仲間集めという意味では、単に採用活動をするだけでなく、「バイブス(方向性や価値観)が合う」人を大切にしています。ある程度、一定の方向感が合う人たちで、タイミングの良い時に出会って仲間になってくれたケースが多いです。

メンバーには地域課題や社会課題、地域創生といったテーマに共感している人が多いのが特徴です。例えば、大学院で公共政策を専攻していたメンバーや、建築をやっていて町づくりに関心があったメンバーもいます。

仲間集めでは、私たちが目指す方向への共感性、スタートアップとして不確実なことに向き合えるマインドセット、そして必要なスキルや経験のこの三つを大事にして集めてきました。その結果集まった仲間が、今この瞬間に約30名いるという状況です。

記事提供元:タビリス