【人インタビュー】【上】「おてつたび」永岡里菜CEO〜地方創生に「お手伝い」で挑む 〜人手不足を「出会いのチャンス」に変える〜

ジョルダンニュース編集部

日本の地方が抱える最も深刻な課題、それが「人手不足」だ。少子高齢化と都市部への人口集中が加速する中、多くの地方自治体や地域事業者が存続の危機に立たされている。この構造的なピンチを、地域外の人々との「出会いのチャンス」へと鮮やかに転換させようと奮闘するスタートアップがある。株式会社おてつたび(東京・品川)だ。

同社は、季節的・短期的な人手不足に悩む農家や旅館などの地域事業者と、働きながら地域での暮らしや交流を体験したい旅行者を結びつけるマッチングプラットフォームを展開している。2018年の創業から約8年、当初は「そんなサービス、一体誰が使うのか」「旅行は羽を伸ばすものなのに、なぜ働きに行くのか」といった疑問の声も多かったという。しかし、今や登録者は9万5000人を超え、受け入れ事業者は全国2000カ所以上に拡大した。

シリーズAの資金調達も実施し、事業のさらなるスケールを目指す同社。単なる労働力の提供にとどまらず、地域に愛着を持つ「関係人口」を持続的に生み出し、ひいては移住や定住、地域経済の活性化にまで波及効果をもたらしている。同社の永岡里菜代表取締役CEOに、創業の原点からコロナ禍での急成長の舞台裏、そして人口減少社会の日本において100年先も続く「持続可能な関係人口エコシステム」の構築に向けた今後の展望を余すところなく聞いた。

おてつたびの永岡里菜代表取締役CEO

――まずは、「おてつたび」というサービスの概要と、その特徴について教えてください。

永岡里菜氏(以下、永岡):「おてつたび」は、「お手伝い」と「旅」を掛け合わせた造語です。季節的・短期的な人手不足に悩む地域事業者(旅館・ホテル・農家など)と、働きながら地域での暮らしや交流を体験したい人をつなぐ人材マッチングサービスとなっています。

大きな特徴は2つあります。1つ目は、参加者が地域でお手伝い(アルバイト)をすることで報酬が得られるため、現地への交通費や旅費の負担を気にせずに足を運ぶことができる点です。給与に加えて宿泊場所(寮など)が原則無料で、提供される仕組みになっています。

2つ目は、日本各地のまだまだ知られていない地域に「お手伝い」という新しい旅の目的地を作る点です。著名な観光名所がなくても、人が訪れるきっかけを作ることができます。地域に入り、お手伝いという「役割」をもらうことで、参加者は単なるお客さんではなく、地域の一員として迎え入れられます。これにより、その地域のことをより深く知り、好きになって帰っていただくことができる。そんな新しい旅の形を目指しているサービスです。

――起業を思い立ったきっかけや、ご自身の原体験はどのようなものだったのでしょうか。

永岡:大きなきっかけというよりは、自分自身のバックグラウンドが強く影響しています。私は三重県尾鷲市の出身です。尾鷲市は漁業と林業の町ですが、人口は約1.6万人で高齢化率は約45%にも達する過疎地域です。東京に出てきて「尾鷲出身です」と言っても、誰も分かってくれないというもどかしさをずっと抱えていました。

もともと私は教育学部に進学し、小学校の教員になりたいと考えていました。しかし、教育実習に行った際、子どもたちに伝えられる自分自身の「引き出し」の少なさに自信をなくしてしまいました。そこで、まずは民間企業で3年間修行してから教育の畑に戻ろうと考え、新卒で社員30名前後のPRやプロモーションに強い企画制作会社に入社しました。

そこでの仕事は非常に楽しく、民間企業でさらに頑張りたいと思うようになりました。ただ、1社目はBtoBの仕事が多かったため、もっとエンドユーザーの顔が見える仕事、自分の人生や魂を燃やせるテーマを探したいと考え、2社目は地域活性化に特化した社員5名ほどのベンチャー企業に転職しました。そこで全国を飛び回る中で、私の故郷である尾鷲市のような、魅力があるのに知られていない地域が日本全国に無数にあることに気づいたのです。そうした地域にスポットライトが当たる未来を作ることに自分の人生を使いたいと強く思い、2018年に独立・起業しました。

――サービス開始当初は、ビジネスモデルに対する風当たりも強かったと伺っています。どのような苦労がありましたか。

永岡:はい、創業当初は本当に苦労しました。当時はまだ働き方や旅の多様化が進んでおらず、「スポットワーク」という概念も一般的ではありませんでした。「ニッチなことをやるね〜」「本当に、株式会社でやるつもりなの?」と多くの人に言われました。

また、旅行といえば「温泉旅館でのんびりする」「リゾートホテルで贅沢する」というイメージが強く、「旅先で働くなんて誰がするんだ」「旅はリラックスするものなのに、なぜわざわざ大変なことをするのか」と、7〜8割の方から厳しいご意見をいただきました。

しかし、残りの2割ほどの方からは「面白い」と言っていただけましたし、何より私自身が「こういうサービスが欲しい」と強く思っていました。世の中にないサービスだからこそ、受け入れられるかは分からない。それでも、これからの日本の地域には絶対に必要な仕組みだと信じ、ある種の「謎の使命感」と「根拠なき自信」で着実にサービスを育てていきました。

創業後、ピッチコンテストで、事業内容を紹介した永岡CEO

――その後、コロナ禍という未曾有の事態が訪れます。事業への影響はいかがでしたか。

永岡:シードでの資金調達を終え、兆しが見えてきた矢先に新型コロナウイルスが直撃しました。「おてつたび」は人の移動を伴うサービスですので、売上がほぼゼロになる月もあり、大きな打撃を受けました。

しかし、ピンチの中にチャンスがありました。海外に行けなくなったことで国内に目を向ける人が増え、さらには生き方そのものを見つめ直し、地方や地域への関心を高める人が急増したのです。この変化が追い風となり、コロナ禍においてサービスは急成長を遂げました。タイミーさんなどのスポットワークの普及も相まって、時と場所を選ばない柔軟な働き方が一般化し、「おてつたび」のような新しい旅の形が世の中に受け入れられつつあるという強い実感を得ました。

――日本社会が直面している「労働力不足」という構造的な課題に対して、御社はどのように向き合っているのでしょうか。

永岡:日本の労働力不足は、もはや待ったなしの状況です。リクルートワークス研究所のシミュレーションデータによれば、2040年には1,100万人を超える労働力が不足すると予測されています。特にその影響は都市部以外の地域に集中し、2040年には東京都を除くすべての道府県で労働力不足に陥ると推定されています。

都道府県別シミュレーションを見ると、例えば2040年時点で新潟県は不足率34.4%、長野県は33.5%、京都府は39.4%、愛媛県は32.4%と、極めて深刻な労働需給ギャップが生じることが示されています。もはや、一人が一役を担うだけでは社会が回らない時代がすぐそこまで来ているのです。

私たちは、地域に課題が集積し、物理的な人が地域内だけでは足りないのであれば、外からも適切に支える「新しい社会構造」が必要だと考えています。一人が何役も担いながら循環させる、地域と都市の新しい関係性を築くプラットフォームが求められているのです。

――事業が軌道に乗る中で、ブレイクスルーとなったような初期の成功体験があれば教えてください。

永岡:まだ事業の価値を証明しきれていなかった初期の頃、長野県の山ノ内町(志賀高原があるエリア)のお宿さんでの事例が、私にとって大きな自信につながりました。

お手伝いに参加してくれたのは、建築学部に通う大学生でした。彼が滞在中に「毎日座学ばかりで、もっと現場で建築のことを知りたい」とポロッとこぼしたところ、受け入れ先の方が「この辺りは空き家がいっぱいあって困っているんだ。一緒に利活用を考えようよ」と意気投合したのです。

その後、その学生はプライベートで友人を20名ほど連れて再び山ノ内町を訪れ、空き家活用のアイデアソンを開催しました。最終的には実際に着工まで進み、その後も後輩たちに活動が引き継がれ、毎年学生たちがそのエリアを訪れるという流れが生まれました。単なる「人手不足の解消」が、人と人が出会うことによって想像以上の「化学反応」を起こし、地域の新しいプロジェクトにまで発展する。この出来事は、「人手不足は地域との出会いのチャンスになる」という私たちの仮説が確信に変わった瞬間でした。

――現在の事業の規模感を教えてください。また、なぜ著名な観光地ではない地方の求人にも多くの人が集まるのか、その理由を教えてください。

永岡:現在、公表している数字として、ユーザー登録者数は約9万5000人、登録事業者数は全国で2300カ所以上に達しています。参加者の属性も非常に幅広く、10〜20代が47%を占める一方で、30代13%、40代11%、50代17%、60代以上12%と、シニア層も含めた多世代に拡大しています。最高年齢は84歳の方にもご活用いただいています。

なぜ地方に人が集まるのか。求人公開から最初の申し込みまでの時間は平均17時間、定員1名に対して平均2.75人が申し込み、申込倍率は平均275%に達しています。この背景には、私たちが単なる時給や条件だけでなく、「受け入れ先のストーリー」や「地域のおすすめスポット」といった魅力を丁寧に可視化していることがあります。また、参加者と事業者の相互レビュー機能により、過去のリアルな声が蓄積され、信頼性が向上しています。アクセスが不便で観光名所がない地域でも、「知られざる地域こそ行ってみたい」という参加者の好奇心がかき立てられ、魅力的な目的地へと変わっているのです。

――マッチングのアルゴリズムや、参加者が意図せず地域に惹かれる「セレンディピティ」についてはどのようにお考えですか。

永岡:私たちは単なる労働力のマッチングを行いたいわけではありません。人手不足解消は大前提ですが、そこに「プラスアルファの出会い」を作りたいと考えています。そのため、私たちが大事にしたい価値観を組み込んだ独自のアルゴリズムやデータの利活用を日々ブラッシュアップしています。

参加者の多くは「お手伝いに参加したい」という動機でサイトを訪れ、自分の都合の良い日程で検索します。その結果、たまたまマッチングしたのが山形県の西川町だったりする。こうした偶然の出会いを皆さんに楽しんでいただいています。

参加者の実に81%が「おてつたびがなければその地域を訪れる予定はなかった」と回答し、70%が「その地域を初めて訪れた」と答えています。著名な観光名所以外の地域に足を運ぶ強力な仕掛けとして機能していることが、このデータからも証明されていると自負しています。

チームメンバーとの記念撮影する永岡CEO(前列左から3人目)

次週「下」に続く

記事提供元:タビリス