ジャン・レノ氏、自身の半生を語る一人芝居「らくだ」を日本で上演——コロナ禍の孤独から生まれた「家族への遺産」
2026/5/7 11:18 ジョルダンニュース編集部

フランスを代表する世界的俳優、ジャン・レノ氏が、自身初の挑戦となる一人芝居「らくだ」の日本公演に合わせ、東京都内で開かれた特別トークイベントに登壇した。本イベントは、在日フランス商工会議所が展開するプロジェクト「ボンジュール・フランス」が主催したものだ。ジャーナリストのフローラン・ダバディ氏がモデレーターを務める中、映画「グラン・ブルー」や「レオン」など数々の名作で知られる名優は、なぜ今、自らの人生を舞台で語ることを選んだのか。トークショーでは、世界的スターの知られざる素顔や仕事への哲学、そして尽きることのない日本への愛が、彼自身の豊かな言葉でたっぷりと語られた。

■ 自身の軌跡を「らくだ」に重ねて —— コロナ禍がもたらした「遺産」
本作は、レノ氏が自ら脚本を手がけ、モロッコ・カサブランカで過ごした幼少期から世界的スターに至るまでの軌跡を語る一人芝居だ。舞台にはピアニストのパブロ・ランティ氏が伴奏として参加し、レノ氏自身が歌も披露するという。
執筆のきっかけは、新型コロナウイルスのパンデミックだった。レノ氏は「コロナ禍で家に閉じこもっていた際、ひどい孤独を感じてパニックになり、何かを書きたいという衝動に駆られた」と振り返る。その背景には自身のルーツへの深い思いがあった。スペイン市民戦争を逃れて北アフリカへ渡った父を持ち、自身の祖父母について知る手がかりが少なかったことから、6人の子どもたちへ「自分が生きてきた道のりを遺産(ヘリテージ)として残したい」という切実な思いが原動力となったのだ。
タイトルを「らくだ」とした理由についてダバディ氏から問われると、これまでに犬や馬、ペンギンなど様々な動物と仕事をしてきた経験に触れつつ、自身を動物に例えた際、「自分の内なる動物とは何かと考えたとき、明白な答えがらくだだった」と語った。若い頃から俳優としての確固たるビジョンがあったわけではなく、ただ「演技がしたい」という衝動から出発したというレノ氏。夢に到達するまでに多くの犠牲を払い、重い荷物を背負いながらゆっくりと、しかし着実に歩みを進めてきた自らの険しい人生を、らくだの姿に重ね合わせている。

■ 「冒険」を体現し、未知の領域へ —— リスクを恐れぬ表現者魂
本イベントを主催した「ボンジュール・フランス」は、今年で11回目を迎え、そのテーマに「アバンチュール(冒険)」を掲げている。まさにレノ氏があえてこの年齢で一人芝居に挑むことは、ひとつの大きな冒険だ。演出を務めるフランス演劇界の気鋭、ラディスラス・ショラー氏も「アーティストにとって、コンフォートゾーン(安全圏)にとどまるのは良くない。リスクを取って挑戦する姿は素晴らしい」と賞賛を惜しまない。
映画では、リュック・ベッソン監督作品などで「漫画のキャラクター」のような特異な人物を演じることも多かったレノ氏だが、役作りについて「最初から『漫画の人物だ』と決め込んで始めるのではなく、フィクションである脚本から解釈し、フレームを作り上げていくのが俳優の仕事だ」と真摯な姿勢を明かした。「成功やお金といった結果だけを求めていては、俳優としての新鮮さを失い腐ってしまう」と語る言葉には、表現者としての確固たる哲学が滲む。
また、レノ氏は俳優にとって「声」が極めて重要だと力説する。ショラー氏も、感受性が豊かで「素晴らしいストーリーテラー」であるレノ氏の「声」の魅力を最大限に引き出し、感情を直に伝える緻密な演出を試みているという。

■ 尽きることのない「日本への愛」と普遍的な芸術の力
日本とは縁が深いレノ氏。トークでは、15年以上にわたり出演したトヨタ自動車のCM撮影について「全員が同じ場所を目指して集中するCM現場は、芸術家同士が対立しがちな映画よりも物事がスムーズで、素晴らしい思い出だ」と振り返った。さらに、宮崎駿監督の「紅の豚」フランス語版でポルコ・ロッソの声を担当した際、宮崎監督から贈られた赤い飛行機の直筆デッサンを自宅に飾っているという微笑ましいエピソードも披露された。

「なぜ日本が好きなのか」という問いに対し、レノ氏は自身の過去の離婚経験を引き合いに出し「うまくいかない結婚生活では常に『なぜ』という自問自答が絶えなかったが、日本への愛情については一切の疑問が生じない。答えは明白だからだ」と独特のユーモアで会場を沸かせた。ショラー氏も「日本の四季の美しさはもちろん、日本人の傾聴の姿勢や、技術スタッフ(東京芸術劇場や照明スタッフなど)の精緻な技術と仕事への厳しく正確な態度を愛している」と全幅の信頼を寄せた。
「自分の語りが誠実であれば、それは必ず人々に届く。芸術の感動は文化や国境を越える」と語る彼ら。名声にあぐらをかくことなく自らの内面と向き合い、誠実に紡ぎ出された言葉の数々は、観客の胸に深く響くことだろう。世界的スターの知られざる素顔と人生の深みに触れる、貴重な舞台となりそうだ。
<公演情報> ジャン・レノ ソロパフォーマンス『らくだ』
作・出演: ジャン・レノ
演出: ラディスラス・ショラー
ピアノ: パブロ・ランティ
日程: 2026年5月10日(日)〜5月24日(日)
会場: 東京芸術劇場 シアターウエスト(東京・池袋)
備考: フランス語上演・日本語字幕付
※富山、兵庫、静岡、宮城、石川、高知、福岡、山口、京都、愛知、岡山公演あり
公演に関する最新情報などは、『らくだ』の公式ホームページ https://www.jeanreno-rakuda.jp で、ご確認いただけます。









