前橋で初の国際芸術祭、今秋開幕 建築とアート融合で「選ばれる都市」へ
2026/5/26 10:59 ジョルダンニュース編集部

ジンズHD田中会長ら民間主導、ヘラルボニー参画でインクルーシブな祭典に
群馬県前橋市で今秋、初となる「第一回 前橋国際芸術祭 2026」が9月19日から12月20日までの80日間にわたり開催される。25日に都内で開かれたプログラム発表会で、株式会社ジンズホールディングス代表取締役会長CEOで実行委員長を務める田中仁氏らが概要を明らかにした。市が掲げるまちづくりビジョン「めぶく。」の策定から10年の節目に合わせ、現代アートと建築を融合させたプログラムを展開する。民間主導で企業の協賛を呼び込み、人口減少時代における「選ばれる都市」の新たなモデルケースを目指す。

前橋市では近年、田中氏ら民間が主導する官民連携のまちづくりが進行しており、中心市街地には著名建築家によるデザイン性の高い建築物が集積しつつある。田中委員長は「単なるイベントではなく、まちの未来をどう作るかという視点の延長線上に本芸術祭はある」と強調し、「関わってみたいと感じてもらえる都市へのきっかけを生み出したい」と語った。
■「障害のイメージを変える」ヘラルボニーの挑戦
「誰もが関わりたくなる」都市づくりの理念を体現し、本芸術祭で特に注目を集めるのが、福祉実験ユニット「ヘラルボニー」との連携によるプロジェクトだ。株式会社ヘラルボニー代表取締役 Co-CEOを務める松田文登氏は、「私たちは多様な作家とともに、障害のイメージや価値観、概念を変えていくことにチャレンジしている」と力強く語る。
前橋では、全盲のアーティスト、S. Proski(エス・ポロスキ)氏による大規模な制作が行われる。松田氏は「全盲でありながら、むしろ作品を触ってほしいという思いを持っている。群馬の布や工場を回り、そこから生まれる作品を積み重ね、最終的に『触って完成する作品』を作り上げる」と、視覚に頼らない新たなアート体験の構想を明かした。
さらに、会期中の12月には「FUNclusion(ファンクルージョン)」をコンセプトにした体験型ワークショップ・ガーデン「Funclusion Hall」を開催する。松田氏は「例えば花を買う時に、見えない状態でお花の香りだけで選ぶ『見えないまるまる屋さん』などを企画している。多様な感覚に触れていただく機会にしたい」と語り、障害の有無を超えて誰もが共に楽しめるインクルーシブな芸術祭への期待を高めた。

■アートと建築、街の記憶の再生
多様な人々を包摂するアートの展開に加え、都市の余白空間を活用したプログラムも本芸術祭の大きな見どころだ。藤本壮介氏が手がけた「白井屋ホテル」周辺での展示に加え、シャッター通り化したアーケード街や廃ビルが舞台となる。
発表会では、参加アーティストたちが前橋の風土から得た着想を語った。音楽家の渋谷慶一郎氏は、無人となったアーケード商店街などで自動生成のサウンドインスタレーション《Abstract Music》を展開する。「視覚中心の芸術祭の中で、何が起こるか分からない暴力性を含んだ作品をやる」と意気込む。プログラムディレクターの宮本武典氏(東京藝術大学准教授)も「風景は変わらないが、音によって都市体験が変わる」と期待を込めた。
クリエイティブコーダーの田所淳氏は、銀座通りの廃ビル「ハウゼビル」などに巨大なLEDパネルを設置してクラブ空間に再生し、ジム・オルーク氏やカール・ストーン氏ら国際的なミュージシャンによるオープニングライブをプロデュースする。
■前橋の風土・生活文化からの着想
地域の食文化や自然環境も重要な制作テーマとなる。デザイナーのマイク・エーブルソン氏は、群馬県が国内生産の大半を占める「こんにゃく」に焦点を当てた。「97%が水で栄養がゼロ。これを食べ物と呼んでいいのか」と率直な驚きを語りつつ、その製法や歴史の奥深さに魅了され、独自のリサーチに基づいた展示を行う。
映像作家でダンサーの吉開菜央氏は、前橋の冬の強風「からっ風」をテーマに映像作品《風呼び》を制作。「私が撮影に行くと、なぜか風がやんでしまう」と苦労を明かした。宮本氏によれば、前橋に多くの詩人が生まれた理由は「風が強いから」だという。風が街と人をかき混ぜてきた風土を紐解く試みだ。
ファッションデザイナーの山縣良和氏は、自身の子どもが「車やぬいぐるみをトイレに並ばせ、ティッシュを配る」という独特な行列遊びをしているエピソードから着想を得て、「行列と流行」をテーマにファッションの影響力を表現する。同芸術祭では、世界的デザイナー、マルタン・マルジェラの展覧会も開催予定であり、アパレル産業の歴史を持つ前橋ならではの表現の幅広さもアピールした。
■食(ガストロノミー)とアート
「食」のアート性を検証するプログラムも用意されている。美食家の浜田岳文氏は、「味覚を持たないものやメッセージ性のある料理は現代アートの領域に入りうる」と提起。「Food as Art?」と題し、気候変動や食品ロスなどの社会課題を料理で表現する世界有数のレストラン「アルケミスト」(デンマーク)のシェフ、ラスムス・ムンク氏らを招聘し、「食べる側が不安に思う」ような前衛的な食体験を提供する。
■教育・研究との連動と地域への波及
アイドルグループ「アンジュルム」の初代リーダーでアーティストの和田彩花氏は、地元の中学生と街の「音」を採集するワークショップを実施し、芸術人類学者の石倉敏明氏は赤城山の土着信仰と前橋の街を繋ぐ「山と町を往還するアート」をテーマにした研究・展示を行うなど、多角的なアプローチも光る。
運営資金では、メルコグループや三井住友銀行などからの企業版ふるさと納税や協賛を獲得し、地元企業や市民の参画を促す「ローカルサポーター制度」も導入する。パスポートチケットは一般3000円、学生2000円。前橋市民(一般)も3000円だが、市のデジタル地域通貨「めぶくPay」を利用して1000ポイントを還元し、地域経済への波及効果も狙う。インバウンド(訪日客)を意識しつつも、表面的な観光消費にとどまらず、前橋の地域や歴史を深く掘り下げた独自の国際化を打ち出す構えだ。









