SBI、メディア事業へ本格参入 異業種23社と「感情経済圏」構想

ジョルダンニュース編集部

SBIホールディングスは2026年5月19日、メディア・エンターテインメント事業への本格参入を発表した。北尾吉孝会長兼社長が「感情経済圏の構築」という新たな戦略構想を掲げ、月間1億人のユニークユーザーを持つライブドアやアニメ制作会社など、23社の企業群と連携して「ネオメディア生態系」を構築する。AI(人工知能)やWeb3(分散型ウェブ)といった最新技術を活用し、既存のメディアが抱える情報の信頼性や利益分配の偏りといった課題の解決を図る。事業展開を加速するため1000億円規模のファンドを組成するほか、日本経済新聞社の元副社長である平田喜裕氏を親会社の社外取締役に迎えるなど、経営体制も大幅に強化する。

メディア・エンターテインメント事業への本格参入を発表したSBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長

■ 熱狂の原体験が契機に

「人は合理的な判断をするという前提で経済学はなされてきたが、実際の経済判断はそれだけではなされていない」。北尾会長兼社長は、人々の「共感」や「熱狂」といった心理的要素が経済行動を動かす実態に着目した。

参入の強力な動機となったのは、現場での圧倒的な熱狂体験である。SBIグループがメインスポンサーを務めたボクシング・井上尚弥選手の世界スーパーバンタム級タイトルマッチ「THE DAY」では、東京ドームを5万5000人の観衆が埋め尽くし、国内外のメディアを通じて絶大な反響を呼んだ。また、韓国の音楽グループであるBLACKPINKの東京ドーム公演では、3日間で16.5万人を動員し、チケット需要だけで最低25億円規模の経済効果を生み出した。

北尾氏はこれらの熱狂を目の当たりにし、「単にスポンサーとして資金や広告を出すだけでは不十分であり、自らが生態系を作らなければならない」と確信。既存の金融生態系、デジタル生態系に次ぐ第三の柱として、異業種23社を結集したネオメディア生態系の立ち上げを決断した。

東京ドームに5万5000人を動員した井上尚弥選手の世界戦。現場での熱狂が構想の原動力となった。

■ AIとWeb3で既存メディアの課題を打破

新事業を技術面で支える中核となるのが、AIとWeb3の活用である。北尾氏はこれらを「感情経済圏を支える裏方」と位置づける。

情報発信のあり方について、北尾氏は過去にAI生成のフェイク画像によって米ダウ工業株30種平均が一時80ドル近く下落した事例を挙げ、旧来のメディアの検証不足や一方向的な情報伝達の限界を指摘した。この課題に対し、SBIはAIキャスターやAIエージェントによるリアルタイムなファクトチェックシステムを導入し、メディアを「信用プラットフォーム」へと進化させる構えだ。

さらに、コンテンツ産業の構造的課題にもメスを入れる。現在はプラットフォーム企業が利益の大部分を吸収し、監督や俳優、原作者らクリエイターに十分な還元がなされていない。SBIはコンテンツをトークン化し、ユーザーが直接投資できる仕組みを構築する。これにより、クリエイターへの直接的な利益還元と公平な分配を目指す。この実現に向けて、安全かつ迅速な決済インフラとして、Startale(スターテイル)社と共に日本初の信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」を6月末にも発行する予定だ。

真偽不明な情報が市場形成を歪ませる課題に対し、AIエージェントの活用などでメディアの信頼性を飛躍的に高める。

■ 1000億円規模のファンドを組成

資金面での強力な後ろ盾として、「SBIネオコンテンツファンド」の組成も発表された。規模は1000億円を目指しており、6月末のファーストクローズの時点で約700億円の資金が集まる見通しだという。

同ファンドへのリミテッド・パートナー(LP)出資の第1号案件として、東急不動産ホールディングスが50億円の拠出を決定している。金融の枠組みにとどまらず、国内外のエンターテインメント、出版、映像、ゲームといった文化創造の重点分野に積極的な投資を行う方針だ。

メディア事業の成長資金として1000億円規模のファンドを立ち上げ、エコシステム参画企業への支援を強化する。

■ 都市開発と連動した地方創生へ

構想はデジタル空間にとどまらず、現実の都市開発と連動する「都市のメディア化」へと広がる。北尾氏は、中東のドバイが石油資源に依存せず、都市のメディア化を通じて現在の国際的な地位を確立した点に注目している。

具体的な取り組みとして、前述の東急不動産ホールディングスと連携し、広域渋谷圏のエンタテインメントシティ化プロジェクトに参画する。また、地方創生の文脈では、島根銀行やバルニバービ社等と連携し、島根県内の海岸エリアに複合施設やミシュランキー選出のリゾートホテルを開発。年間約6万人が訪れる集客スポットへと変貌させた実績をベースに、さらなる地域活性化を推進する。静岡県清水港でのスタジアム建設などを含む大規模なまちづくりにも関与していく。

島根県内の海岸エリアにおけるリゾート施設開発など、地域の特色を生かした「都市のメディア化」による地方創生を進める。

■ 外部プロフェッショナルの招聘で体制強化

未知の領域への挑戦にあたり、経営体制の強化も急ぐ。親会社であるSBIホールディングスは新任の独立社外取締役候補として、日本経済新聞社でデジタル事業やメディアビジネスを統括し、副社長を歴任した平田喜裕氏を起用する。メディアとジャーナリズムの第一線を知り尽くした人物を迎えることで、事業の信頼性担保と組織運営の強化を図る。

また、同社の社外取締役候補には、AIソリューションを手がけるRidge-iの柳原尚史社長や、Web3事業を展開するStartale Groupの渡辺創太CEOも名を連ねており、先端技術領域の知見も厚くする。

事業の中核を担うSBIネオメディアホールディングスにおいても、エンターテインメント界から秋元康氏を社外取締役に招聘したほか、ネクシーズグループの近藤太香巳代表が副会長として参画している。異業種の知見と最新テクノロジーを掛け合わせることで、SBIグループは最終的に「1億顧客」の基盤形成を目指す。

記事提供元:タビリス