東京建物とFIRST CVC、東京駅前にCVC新拠点 協業を「構造化」 AIとリアルでエコシステム底上げ

ジョルダンニュース編集部

大企業のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)や新規事業担当者が集う日本初の特化型イノベーション拠点「JAPAN CVC BASECAMP」が2026年6月1日、東京駅前に本格始動した。運営するFIRST CVCと東京建物は5月27日午前に記者説明会を開いた。同日午後には本格始動に先立ちキックオフイベント「CVC VS 2026」を開催。国やメディア、金融機関なども登壇し、想定の2倍となる1200名超が参加する盛況ぶりを見せた。スタートアップの出口戦略が多様化し、大企業との連携が重要性を増す中、これまで「偶発性」に頼っていたオープンイノベーションを「構造化」する狙いがある。

■人事異動で途切れるノウハウ

スタートアップ投資において、事業会社やCVCが占める割合は年々高まっている(投影資料より)

日本のCVC設立数は過去10年で約4倍に急増し、スタートアップ投資額の約45%、全投資家のうち約40%を事業会社やCVCが占めるまでになった。しかし、大企業の現場では課題が山積している。

「CVCに異動して3~5年でキャリアを積み、ようやく息が合ってきたと思ったら次の部署へ異動してしまう」とFIRST CVCの山田一慶代表取締役は語り、担当者のノウハウやネットワークが蓄積されにくい日本の人事制度の課題を指摘する。

FIRST CVCの山田一慶代表取締役

大企業とスタートアップでは行動様式も大きく異なる。三菱倉庫のCVCであるMLCベンチャーズ(東京・日本橋)の関本峻治取締役投資部長は「大企業は前例主義や稟議、合意形成などリスクを最小化する行動様式が重視されがちだが、スタートアップはいかに打席に立つかが求められる」と両者の文化の違いを語る。

大和証券の平野倫之執行役員は、金融機関の立場から双方の課題を指摘する。大企業は成果を数字で見せることが難しくリスクテイクできない傾向がある一方、スタートアップも大企業特有の「お作法」が分からないまま話を進めようとしてしまうことが多いと語り、個社の問題ではなくエコシステム全体で解決すべき課題だと強調する。

■業界を超えた「本音の場」を提供

CVCへの調査では、オフィスエリアとして東京駅周辺を望む声や、他社との交流を求めるニーズが強かった(投影資料より)

こうした課題を解決するため、東京建物とFIRST CVCがタッグを組み、東京駅直結のビル「TOFROM YAESU TOWER」の41階に新拠点を開設した。施設の利用料金は1シート月額10万円で提供され、年内に100社の利用を目標としている。すでに全産業を網羅する約550社のCVCがコミュニティに参加している。

拠点の目玉となるのが、物流や食品、ヘルスケアなど12業界に分かれた業界別交流会(FORUM)だ。同業他社が本音で課題や出資事例を共有し、ノウハウ不足を補う。さらに、異業種間を掛け合わせる「CROSS FORUM」も実施する。

12業界に分かれた業界別フォーラムには、日本を代表する大企業が続々と参画している(投影資料より)

山田氏は「例えば物流とヘルスケアを掛け合わせれば、医薬品のコールドチェーンなど新しいソリューションの話ができる」と語り、フォーラムを掛け算してかなりの頻度で開催したいと意気込む。

■AIによる精度の高いマッチング

独自開発のAIプラットフォーム「CATALYST」。事業ニーズに合わせた協業先の探索から検討資料の自動生成までを支援する(投影資料より)

リアルの交流に加え、デジタル技術も駆使する。拠点の会員は、FIRST CVCが独自開発したAIプラットフォーム「CATALYST」を利用できる。自社の事業ニーズをテキスト入力するだけで、AIが約5000社のスタートアップから最適な協業先を自動抽出・評価し、商談や社内検討資料の作成までをワンストップで支援する仕組みだ。

これまで展示会やピッチイベントでの出会いなど「偶発性」に依存していたマッチングを、AIとコミュニティの力で「再現可能な構造」へと変革する。

■M&A時代、問われる大企業の真価

エコシステム全体を底上げするため、大和証券などの大手金融機関や独立系ベンチャーキャピタルとも連携する。平野氏は「ベースキャンプを活用して皆様の課題や知見が集約されることで、金融機関としても大きな支援ができるようになる」と期待を寄せる。東京建物の小島靖弘まちづくり推進部課長も「東京駅前というグローバルや地方とのハブになる立地を生かし、海外のVCや地方のスタートアップと大企業をつなぐ場にしたい」と語り、日本全体の国際競争力向上への貢献を目指す。

東証の上場維持基準が厳格化されたことなどにより、スタートアップの出口戦略は新規株式公開(IPO)からM&Aへシフトする傾向が強まっている。キャピタルゲインだけでなく、自社事業とのシナジーといった「戦略リターン」を重視する大企業の存在感はかつてなく大きい。日本特有の「お作法」や縦割りの壁を越え、次なる産業を創出できるか。新拠点の始動は、日本のオープンイノベーションの試金石となりそうだ。

記事提供元:タビリス