ルクセンブルク、スマートモビリティの欧州拠点目指す 新支援施設とインフラ投資で自動運転を推進 金融の「次」を創る産業多角化
2026/6/23 17:27 ジョルダンニュース編集部

ルクセンブルクが、金融業に次ぐ新たな基幹産業の一つとして「スマートモビリティ」分野の育成に取り組んでいる。国立イノベーション機関や政府系インキュベーターが中心となり、モビリティ特化型の支援拠点を新設するなど、海外スタートアップの誘致を積極的に進めている。数年前から実施されている世界初の「公共交通機関の完全無料化」も、実は将来のスマートモビリティ社会への移行を見据えた布石として位置づけられている。直近に開催された同国最大級のテックサミット「NEXUS Luxembourg 2026」においても、次世代交通に関する議論は大きな注目を集めた。
■国家戦略を推進するルクスイノベーション
ルクセンブルク政府は現在、2028年までに自動運転技術を全国規模で提供する初のEU加盟国となることを目標に掲げている。この国家戦略のもとで企業誘致を担うのが、国立イノベーション機関「ルクスイノベーション(Luxinnovation)」である。
同機関で国際ビジネス関係部門のトップを務めるジェニー・ハレン・ヘドバーグ(Jenny Hallen Hedberg)氏は、同国の環境について「ドイツとフランスという巨大市場の間に位置し、英語が広くビジネスで通用する」と説明する。大国のような規模はないものの、コンパクトな国だからこそ産官学のエコシステムが緊密であり、新しい企業を国全体で支援しやすい体制が整っているという。

同国は商用化に向けた優先領域として「ロボタクシー」「ラストマイル配送」「高速道路での自動運転」「自動バレーパーキング」「遠隔監視・物流」の5つを設定している。どこに住んでいてもシームレスな移動ができる社会の実現を目指し、取り組みを進めている。

■スタートアップを支える「テクノポート」の新拠点
こうしたイノベーションの受け皿となっているのが、設立から27年以上の歴史を持つ国内初のインキュベーション施設「テクノポート(Technoport)」である。約1年半前には、中部の町ビッセン(Bissen)にモビリティ特化型の新拠点「テクノポート・オートモビリティ・インキュベーター」を開設した。

同拠点でシニア・ビジネス・ディベロップメント&スタートアップ・アドバイザーを務めるマルティーヌ・ストレング(Martine Streng)氏によると、同施設は政府機関の支援を受けつつも、入居企業から株式の譲渡(エクイティ)を求めず、国内経済の活性化を主目的としている。過去の受け入れ実績において、企業の生存率は80%を超えるという。
最大40社を収容可能なビッセンの新拠点には、開設から比較的短期間で自動運転関連など約15社が入居している。施設内にはオフィスや実験用ガレージが完備され、今後は国立科学技術研究所(LIST)と連携したスマートシティ向けの「デジタルツイン」設備も導入される予定だ。隣接地には米タイヤ大手グッドイヤーのグローバル研究開発センターなどが立地し、開発に適した環境が整備されつつある。

■産官学の実証実験とNEXUSでの議論
国を挙げた支援体制のもと、国内各地で産官学連携の実証実験も進んでいる。その実装においてキーパーソンの一人となるのが、ニュージーランド発の自動運転シャトル企業オーミオ(Ohmio)でEMEA(欧州・中東・アフリカ)およびコーポレート開発ディレクターを務めるヨースト・オルティエンス(Joost Ortjens)氏である。
同氏らが推進するプロジェクトの一つに、ルクセンブルク国鉄(CFL)やLIST、国立研究基金(FNR)と共同で進める自動シャトルの運行実証(COMBOプロジェクト)がある。複雑な都市環境下での運行や、AIを活用した意思決定支援システムの開発が行われている。
このモビリティ・イノベーションの熱気は、2026年6月10日から11日にかけて開催された国際テックサミット「NEXUS Luxembourg 2026」でも顕著だった。Ohmioは同イベントに出展し、オルティエンス氏自身も「モビリティの再構築(Mobility Reimagined)」と題したパネルディスカッションに登壇し、AIやソフトウェアがもたらす移動の未来について議論を交わした。

また、有望スタートアップが競い合うピッチアリーナの「スマートモビリティ&自動運転」部門では、テクノポートのストレング氏も審査員を務めた。同部門では、車両センサーデータを活用してドライバーの疲労をAIで検知するイスラエルの「CorrActions(コアアクションズ)」が優勝を果たしている。
■スマートモビリティの布石としての「公共交通無料化」
これらの技術開発を根底で支えるのが、国内のデジタルインフラである。国土全体をカバーする通信網に加え、欧州トップクラスとなる8つの「ティア4」データセンターが集積している。さらに、スーパーコンピューター「MeluXina(メルジーナ)」は今年、AIおよび量子コンピューティング向けに拡張され、スタートアップの研究開発にも活用される予定だ。
注目すべきは、ルクセンブルクが数年前から実施している「公共交通機関の完全無料化」である。これは単なる住民サービスではなく、「サステナビリティ」と「デジタル化」を両立させた次世代スマートモビリティ社会への移行をスムーズにするための布石(インフラ)として機能している。無料の交通網を軸としつつ、ラストマイルなどを自動シャトルで補完することで、統合された移動インフラの構築を目指している。
長らく金融業を中心に経済を成長させてきたルクセンブルクだが、現在は産官学の連携とインフラ投資を軸に産業の多角化を進めており、次世代交通分野で着実な歩みを進めている。









