有力スタートアップが選ぶ「イノベーティブ大企業2026」発表 KDDIが9年連続首位、不動産や銀行で首位交代

ジョルダンニュース編集部

アジア最大のオープンイノベーションイベント「ILS2026」。11月の開催に先立ち、恒例の招待制プレイベント「ILSキックオフカンファレンス」が6月29日、虎ノ門ヒルズおよびオンラインのハイブリッド形式で開催された。同カンファレンス内で、ILS運営事務局は有望スタートアップが選ぶ「イノベーティブ大企業ランキング調査2026」の結果を発表した。総合ランキングではKDDIが9年連続で首位の座を守ったものの、大企業全体の取り組みの底上げが進んでおり、不動産や銀行などの業界で順位の逆転や大幅な躍進が見られるなど、オープンイノベーションの競争激化が浮き彫りとなった。

同ランキングは今年で9回目を迎える。スタートアップ側が「どの大企業にアプローチすべきか分からない」という課題を解消し、イノベーション創出に積極的な大企業を可視化する目的で実施されている。国内外の有力ベンチャーキャピタリストなどによって選出された有望スタートアップを対象に調査が行われた。

今年の総合ランキングでは、KDDIが首位を堅持したものの、得票率は低下傾向にある。これは、同社への評価が下がったというよりも、他社の取り組みが強化され、スタートアップからの支持が分散していることを意味する。KDDIの担当者も「全体的なレベルが上がり、票が割れてくるのは良いことだ」と分析している。

総合ランキングで特に目を引くのは、着実に順位を上げる企業の躍進だ。大日本印刷(DNP)は15位、12位、10位と3年連続で順位を上げ、トップ10入りを果たした。花王も26位、17位、14位とトップ10をうかがう位置まで上昇している。さらに、ダイキン工業、三菱ケミカルグループ、デンソー、ロート製薬、アステラス製薬なども3年連続でランクアップを達成した。また、みずほフィナンシャルグループ、村田製作所、三菱電機、三菱重工業が大きく順位を上げ、大躍進を遂げている。

業界別の動向に目を向けると、これまで上位を維持してきた企業の牙城が崩れる「下克上」とも呼べる順位の逆転が相次いだ。

不動産業界では、これまで5年連続で首位を維持し、ファンド活動なども活発に行ってきた三井不動産を抑え、三菱地所が初の首位を獲得する波乱があった。東京建物も飛躍し、初のランクインを果たしている。銀行業界でも大きな地殻変動が起きた。みずほフィナンシャルグループが得票率を昨年の約2倍に伸ばし、2ランクアップで初の首位に躍り出た。食品業界は非常に混戦となっているが、明治ホールディングスが5位、4位、1位と票を伸ばし、同じく2ランクアップを果たしたアサヒグループホールディングスと並んで初の同率首位を獲得した。

また、医薬品業界ではロート製薬が得票率を伸ばし、初の単独首位となった。自動車・輸送機業界はトヨタ自動車が6年連続で首位を守っているが、デンソーが4位、3位、2位と着実に順位を上げ、トヨタの背中を追っている。情報通信・サービス業界でも、KDDIが6年連続首位とはいえ、ソフトバンクが猛追しており、いい意味で競争は激しさを増している。

一方で、圧倒的な強さを見せつけた企業もある。運輸・物流業界で6年連続首位を獲得したJR東日本だ。2位との得票率の差は昨年の1.3ポイントから1.9ポイントへと拡大した。同社は、駅などの場所を活用した実証実験から社会実装への移行が非常にスムーズであり、そのスピード感がスタートアップから高く評価されている。

■ 現場への権限移譲と「調達目線」からの脱却が成否を分ける

今回のカンファレンスでは、総合トップ30に入った企業と、それ以外の企業(30位圏外の72社)における、オープンイノベーションの取り組み方の「差」についても詳細な分析が発表された。

アンケート結果によると、上位企業では「スタートアップの投資資金を確保している」「オープンでフェアな付き合いができている」といった項目の該当率が著しく高かった。

対照的に、30位圏外の企業では「役員クラスが進んで参加する」「経営トップが意思決定をリードする」といった項目の割合が、トップ30企業よりも高かった。一見すると、経営層のコミットメントは良い傾向に思える。しかし、実態は異なる。スタートアップとの協業がルール化され、実績が積み上がってくると、意思決定権限は自然と現場の事業部門へと移譲されていく。つまり、経営トップのリードが目立つ企業は、まだ「現場への権限移譲が進んでいない、トップダウンの初期段階」にとどまっていることを示唆していると見てとれる。実際、9年連続首位のKDDIなど上位企業では、協業に関する意思決定の多くが現場レベルに委ねられており、スピーディーな判断が可能になっている。

さらに深刻な課題として浮上したのが、特に製造業に見られる「調達目線」から脱却できていない点だ。既存のサプライチェーンにおける部品調達と同じ感覚でスタートアップに接してしまい、細かいスペックを要求するなどして、新たな事業を共創する段階に進めないケースが散見されるという。事業部門とオープンイノベーション推進部門との間にギャップが存在し、一緒にモノづくりをしていくフローが社内で構築しきれていないことが要因として挙げられる。

この課題に対する一つの最適解を提示しているのがKDDIである。同社は、スタートアップの技術を自社の製品に取り込むのではなく、スタートアップの事業に対して自社のアセットを提供し「ブースト(後押し)」するアプローチを主流としている。大企業・中小企業向けの強力な営業網や集客力はもちろんのこと、法務、知財、経理といった、スタートアップがリソース不足に陥りがちな管理部門の専門人材を派遣し、事業の穴を埋める支援まで行っているという。

特定の市場に対して深く入り込み、顧客の解像度が高いスタートアップを、大企業が持つ豊富な経営資源で支援し、共にサービスを仕立てていく。こうした「市場起点」「ニーズ起点」でのフラットな協業姿勢こそが、スピーディーな事業展開を可能にし、スタートアップからの高い評価、ひいてはランキングの順位へと直結しているといえそうだ。大企業のオープンイノベーションは、技術探索の段階から、対等なパートナーシップによる市場開拓へと、そのフェーズを確実に移行させている。

記事提供元:タビリス