IFA2026より_中国勢が拓くモビリティとスマートライフの融合とは_”車から家電が整い、空を飛んで渋滞を回避、AIが経済的に車両を充電”するそんな未来⁉

ジョルダンニュース編集部

2026年9月、ドイツ・ベルリンのメッセ・ベルリンで開催された世界最大級の家電・IT見本市「IFA 2026」(主催:IFA Management)では、産業構造の変化が鮮明となった。中国のシャオミ(Xiaomi)や小鵬汽車(XPENG)をはじめとする先端企業は、電気自動車(EV)や空飛ぶクルマ、独自開発のAI(人工知能)チップ、スマートホームOS(基本ソフト)を高度に融合。移動空間と生活空間をシームレスに結びつける新たな事業戦略を提示した。100年以上の歴史を誇る伝統の見本市は、単なる家庭用電気製品の発表会から、陸・空・住宅が一体化する次世代モビリティとスマートライフの巨大な実験場へと変貌を遂げている。

▲シャオミの未来モビリティビジョンを体現したバーチャルコンセプトカーXiaomi Vision Gran Turismo(シャオミのプレスリリースより

◾家電から移動空間へ、IFAで起きた産業境界の消滅

毎年9月に世界中からエレクトロニクスメーカーやIT大手、主要メディアが集結する「IFA Berlin」は、テレビや冷蔵庫、スマートフォンといった「家庭内」や「手元」のデバイスを主役としてきた。しかし今年、広大なメッセ・ベルリンの会場で繰り広げられたのは、家庭用デバイスとEV、さらには垂直離着陸型の航空機や自律走行AIチップが直接連動する展示であった。
IFA Managementの最高経営責任者(CEO)を務めるライフ・リンドナー(Leif Lindner)氏は、「今日のイノベーションの基準は、製品がどれだけ時間を節約し、日常生活を簡単にするかという実質的メリットにある」と強調した。テクノロジーが生活空間全体へ透過していくなかで、自動車は単なる移動手段というハードウェアの域を脱し、ユーザーの意図や文脈を先回りして理解する「インテリジェントな移動空間」へと急速に変貌している。消費者の体験価値が製品単体の性能からエコシステム全体の調和へとシフトするなか、業界の競争軸そのものが再定義されつつある。

▲IFA ManagementのCEOであるレイフ・リンドナー(Leif Lindner)氏(左)と、GFUのマネージングディレクターであるカリーヌ・シャルドン(Carine Chardon)氏(主催者提供)

◾シャオミが挑む半導体垂直統合と「人・車・家」の生態系戦略

今回のIFAに初出展を果たした中国テック大手のシャオミは、バスケットボールコート約8面分に相当する3,360平方メートルの巨大ブースを構え、同社が掲げる包括戦略「Human × Car × Home(人 × 車 × 家)」を全面的に打ち出した。
プレスカンファレンス「Xiaomi プレスカンファレンス」に登壇したシャオミ・グループのパートナー兼プレジデント、ウィリアム・ルー(William Lu)氏は、同社のエコシステムに接続されたデバイス数が11億6000万台を突破したことを明かした。さらに自動車事業「シャオミ・オート(Xiaomi Auto)」においても、セダン型EV「SU7」および「W7」の累計納車台数が7万台を超えたと報告した。
シャオミは過酷なサーキット走行を自社技術の検証場として位置づけている。ハイパフォーマンスモデル「SU7 Ultra」が市販EVとしての世界最速記録を更新したほか、SUVモデル「7G」はドイツのニュルブルクリンクで最速SUV記録を樹立した。さらに、トラックパッケージを装着したコンセプトモデル「Xiaomi V7 GT」は、ニュルブルクリンクにおいて人間のドライバーを乗せない完全無人自動運転による周回記録を打ち立てた。ルー氏は「サーキットは高負荷環境で技術の高品質とパフォーマンスを証明する実験場だ」と述べ、自社の技術水準に胸を張った。

▲Xiaomi SU7 Ultra(シャオミのプレスリリースより)

同社が競合EVメーカーに対して保持する最大の参入障壁は、車体設計にとどまらず、自動運転やエコシステム全体を支える半導体を自社で垂直統合開発している点にある。ルー氏は壇上で、自社開発した最先端の3ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)プロセスを採用したフラッグシップ・チップセット基盤を発表した。発表されたのは、スマートフォンや次世代AI向けのSOC「X3 O3」、従来比16倍の帯域幅を誇るAIアクセラレーター「X00」、そして自動運転専用に設計された「G100」の3種である。
これらのオンデバイスAIチップ群は、2027年から市販デバイスおよび車載システムへ順次搭載される計画だ。シャオミはドイツ・ミュンヘンに欧州デザインセンターを設立したほか、欧州7箇所のテストセンターで実走チューニングを開始。2027年からの欧州市場への正式参入に向け、会場ではドイツの大手ディーラーパートナーとの間で基本合意書(MOU)の署名式も執り行われた。
ブース内の実演デモでは、「車」と「家」が完全に連動するインタラクティブな世界観が提示された。ドライバーが「SU7」に乗車した瞬間、自宅のスマートホームシステムがその行動を自動察知。アプリ操作や音声コマンドを介することなく、リビングのテレビやエアコン、空気清浄機が停止し、カーテンが閉まって防犯カメラが起動する。帰宅時にも車が自宅に接近するだけでエアコンが適温に設定され、調理機器やレンジフード、食洗機、ロボット掃除機に至るまでが自律的に連携動作する。スマートフォン(Human)、EV(Car)、スマート家電(Home)が同一のAI OSとチップセット基盤上で連携し、生活空間全体が1つの巨大なアンビエント空間として機能する未来像が示された。

■ XPENGが提示する「3次元モビリティ」と法制度の壁


シャオミと並び注目を集めたのが、中国の新興EVメーカーである小鵬汽車(XPENG)である。同社は「IFA Media Days 2026」におけるプレスカンファレンスにおいて、インテリジェントEVに加え、身長約180センチメートルの人型ヒューマノイドロボット「IRON(アイアン)」、そして「モジュラー・フライング・カー(空飛ぶクルマ)」を同時公開した。
XPENGが提案する空飛ぶクルマは、地上走行を担う6輪EVキャリヤー(母車)と、車体後部に収納・分離可能な電動垂直離着陸(eVTOL)型航空機からなるモジュラー構造を採用している。都市部の道路は地上走行モードで移動し、渋滞エリアや緊急時には飛行モジュールを自律分離させて空中を移動する。直感的な自動パイロットシステムを備えることで、専門的な操縦ライセンスを持たない一般ユーザーでも安全に空中移動を行えるよう設計されている。

▲XPENGの空飛ぶ”クルマ”と母艦となる自動車(XPENG公式サイトより)

この展示は、モビリティにおけるAIの役割が単なる運転支援にとどまらず、走行データ、気象、3D空間マッピング、空中航路の自律最適化までを統括する「3D移動プラットフォーム」へと進化したことを印象づけた。
しかし、3次元移動の実現には法規制という大きなハードルが立ちはだかる。プレスカンファレンスのQ&Aセッションにおいて、欧州メディアから「ベルリンの電波塔(Funkturm)上空を空飛ぶクルマが飛び交う許可はいつ下りるのか」という不躾ながら本質的な質問が飛ぶ場面があった。これに対しIFA関係者は、「欧州の航空規制や安全性検証のハードルは高いが、数年内の実証実験を見据えて法整備当局との対話が進んでいる」と回答した。平面的制約を持つ道路から空中へと移動空間を拡張するロードマップが提示された意義は大きい。

■ 電力網と融合する「アンビエント充電」、家電大手のエネルギー経営戦略

モビリティの統合は、住宅のエネルギーマネジメント領域にも波及している。EV普及に伴い家庭の電力消費構造が変化するなか、IFA 2026では単なる急速充電のスペック競争から、スマートホームOSが地域電力網や家庭用太陽光・蓄電池と連動して充電を自動制御する段階への移行が始まった。
グローバル家電大手のハイセンス(Hisense)は、スマートテレビを司令塔とするオペレーティングシステム「V AIOS」およびAIoTクラウドプラットフォーム「Connect Life」を発表した。セッション「Hisense 『V AIOS』プレゼンテーション」において、同社のシニアコミュニケーションディレクターであるデニス・オシュティア(Dennis Oshtier)氏は、週末の「サッカー観戦日」を例にとり、AIOSが住人のスケジュールに合わせて家電や環境を裏側で最適制御するデモを披露した。

オシュティア氏の解説によると、夜間に住人が就寝準備に入ると、AIOSは電力会社の動的料金プラン(Dynamic Tariff)を参照し、電気代が一日のうちで最も安価になる時間帯を特定。ガレージに停車中のEVに対し、無人かつ自動で充電を開始する。

■ 競争軸はハード性能からシームレスな体験価値へ

かつて自動車産業の競争力は、エンジンの排気量や馬力、最高速度、デザインといったハードウェアの単体性能によって決定づけられていた。しかし、シャオミやXPENG、ハイセンスなどの異業種・先進企業が示したのは、自社開発のAIチップ、オンデバイス大言語モデル(LLM)、そして環境と人に調和するOSが融合した「移動と日常の境界が存在しない世界」である。
車に乗れば自宅の家電が整い、空を飛んで渋滞を回避し、夜間帰宅すればAIが最も経済的な電力で車両を充電する。こうした一連のシームレスな体験は、従来の自動車メーカー(OEM)と家電・ITメーカーとの境界線を急速に消失させている。今後は、エコシステム全体の囲い込みを狙う中国勢に対し、既存の自動車大手や欧米家電メーカーがどのように対抗するかが焦点となる。
法制度や航空規制、各国電力網との接続規格など解決すべき課題は山積しているものの、IFA 2026が提示した産業の融合モデルは不可逆な潮流となりつつある。家電見本市という枠組みを超え、人々の生きる空間全体を再定義する主導権争いが、ベルリンの地から世界へと広がる。

(ジョルダンニュース編集部)

記事提供元:タビリス