東大新総長に藤垣裕子氏 世界競う「稼げる大学」へ 企業とのイノベーション創出で産業競争力の維持・強化に取り組む

ジョルダンニュース編集部

東京大学の総長選考・監察会議は、次期総長予定者に同大理事・副学長の藤垣裕子教授を選出したと発表した。英誌の世界大学ランキングで東大が27位に下落しアジア勢が台頭するなか、同大初の女性総長として財務基盤の強化や異分野融合によるイノベーション創出を推進する。社会課題解決と世界水準の研究力を両立させる自律的な経営改革は、我が国の産業競争力と学術の将来を左右する。

▲東京大学次期総長予定者の藤垣裕子氏

◾選考会議が独自評価で選出 世界大学ランキングは下落

選考会議は9月28日、現理事・副学長の藤垣裕子氏を次期総長予定者に選出。専門は科学技術社会論で、科学技術政策研究所(NISTEP)での研究や文理融合、科学技術と社会のコミュニケーション研究を重ねてきた。2027年に創立150周年を迎える東京大学で初の女性総長となる。
28日実施の学内意向投票で藤垣氏は2位の得票数にとどまった。総長選考・監察会議の国谷裕子議長は選考理由について、「激変する社会環境の課題解決には新たな価値創造が不可欠だ。専門分野外の科学技術を社会に伝えるコミュニケーション能力や、多様な知を生かしてリスクに対応する強い能力を備えている」と説明。「今後6年間を託すに値する能力と資質を検討した結果であり、責任を持って選出した」と語った。

▲総長選考・監察会議の国谷裕子議長

一方、英教育データ機関タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)が30日発表した2026年世界大学ランキングで、東京大学は昨年の26位から27位に下落した。1位の英オックスフォード大学をはじめトップ10を英米勢が占める一方、中国の清華大学(11位)や北京大学(13位)、シンガポール国立大学(15位)などアジア勢が台頭。THEが「学術界の勢力が西から東に移りつつある」と分析するなか、日本最高峰の東京大学にとっても世界的な研究競争の激化と地盤沈下への危機感は切実だ。

◾欧米校追い「稼げる大学」へ 中長期の財務戦略確立

国立大学を巡る環境が厳しさを増すなか、政府の運営費交付金への依存から脱却し自律的に資金を獲得・運用する「稼げる大学」への変革は、最高学府である東京大学にとっても重要な経営課題だ。
藤垣氏はボローニャ大学(1088年設立)、オックスフォード大学(1096年)、ハーバード大学(1636年)などの歴史に触れつつ、創立150周年を迎える東大の原点を提示。そのうえで、「国立大学法人化以降の制度改正に即応し、手元資金のプールや運用を進めてきたが、英米の大学と比較すればまだ助走期間にすぎない」と指摘。「任期となる6年間でできる限り安定した財務基盤を確立し、25年後、50年後の学術と社会からの信頼に責任を持つ」と述べ、中長期的な財務戦略の実行に強い意欲を示した。
具体的取り組みとして、「グローバル・リサーチ・インテグレーション構築に向けた部局との対話」「中長期の財務戦略確立」「大学システムの将来に向けた社会・政府への問いかけ」の3つの層(レイヤー)を提示。米国のような財政的自立モデルをお手本にしつつも、学術への信頼低下は反面教師とし、安定した独自財源の構築を目指す。独自の財務基盤確立は、優秀な研究者や留学生の獲得、先進研究設備の維持、民間企業との共同研究やイノベーション創出を持続的に支える土台となる。

▲記者会見に臨む関係者

◾異分野融合と留学生獲得 産業界への波及効果

政府の「国際卓越研究大学」制度で、東京大学は認定候補大学として審査が継続している。認定には世界最高水準の研究成果に加え、責任あるガバナンス体制の構築や研究成果の社会実装・事業化が求められる。国谷議長は「卓越研究大学の動向やガバナンス改革への取り組みは選考における重要な判断材料だった」と明かした。
イノベーション創出に向け、藤垣氏は既存分野を横断する新組織「カレッジ・オブ・デザイン」構想に言及。NISTEPのデータを引き、「日本は既成分野の間をつなぐ境界領域の研究割合が海外と比べて低い」と指摘し、新組織を通じて弱点を補い新産業の芽を育てる考えを示した。
また、少子化に伴う大学の規模縮小(ダウンサイジング)論に対し、藤垣氏は「日本の18歳人口だけを見て縮小を議論するのは再考すべきだ。海外からの留学生や研究者の受け入れを拡大し、研究領域の途絶を防ぐ必要がある」と強調。国際的な人材獲得と学問基盤の維持が、日本の産業競争力の維持・強化につながるという視点を示した。

◾学内対話とガバナンス確立 社会を駆動する拠点へ

新体制の始動にあたっては、意向投票1位でない選出に対する教職員との信頼構築や、過去の不祥事を教訓としたリスクガバナンスの定着が今後の焦点となる。
学内コミュニケーションについて藤垣氏は、「意向投票での支持に感謝しつつ、学内コミュニケーションの充実を通じて分断を乗り越えたい。全学構成員が課題を自分事として捉えられる場や情報共有の仕組みを整える」と表明。藤井輝夫現総長が掲げた「UTokyo Compass」を継承する姿勢を示した。

▲記者会見の冒頭で挨拶する東京大学次期総長予定者の藤垣裕子氏

藤垣氏はオックスフォード大学元学長の「大学は経済推進の源泉であり、文化の守護者、社会変革の駆動者だ」という言葉を引いて大学の果たすべき役割を強調した。欧米校との資金格差やアジア勢の台頭という世界的な競争環境のなか、最高学府である東京大学が自律経営とイノベーション創出を両立させ、産業界と共創できるか。新総長のもとで始動する改革は、我が国の経済成長と学術の未来を占う試金石となる。

(ジョルダニュース編集部)

記事提供元:タビリス