米決済サービスStripe創業者コリソン氏、DeNA南場氏と語る「AI時代の事業成長」〜経営者の意思決定の変容も日本経済覚醒のカギ〜

ジョルダンニュース編集部

米決済サービス大手Stripe(ストライプ)は9月30日、都内で年次イベント「Stripe Tour Tokyo 2026」を開催し、AI(人工知能)時代の事業成長を支える金融インフラの拡充策を発表した。そのハイライトとなった特別対談「AI時代の事業成長と企業改革」には、同社共同創業者兼プレジデントのジョン・コリソン氏と、ディー・エヌ・エー(DeNA)創業者の南場智子最高経営責任者(CEO)が登壇。激変する技術潮流のなかで、経営者の意思決定の変容と「AIオールイン」の実践、そして日本経済が再び覚醒するための構造改革を熱弁した。
▲対談するストライプの共同創業者兼プレジデントのジョン・コリソン氏(左)とDeNAの南場智子CEO

◾「成長のモメンタムを取り戻す」――創業者の覚悟とAI現場革新

「DeNAの成長モメンタムを再び解き放つ」。その不退転の決意を胸に経営最前線へ復帰した南場智子氏は、全社でAIを事業の中核に組み込む「AIオールイン」に舵を切った。同社が取った戦略は抽象的なスローガンではない。AI専門人材と現場の事業部門がタッグを組む小規模な混成チームを組織し、目の前の泥臭い課題解決にあたる現場主導の実践だった。
変化を警戒する社内の抵抗を打破したのは「劇的な体験」だった。法務部門での膨大な国際法規の検証や、顧客対応、品質保証領域の業務プロセスをゼロからAIベースで再構築。数日を要していた作業が短時間で完結する光景を目にして、社内の風向きは一変した。定型作業から解放された社員は、より高次元で創造的な課題へと情熱を傾け始めた。南場氏は「AIが定型作業を引き受けてくれたことで、従業員はより複雑で本質的な課題に集中できるようになった」と語る。
南場氏自身の働き方も一変した。1日15件におよぶ社内会議の事前準備やタスク追跡は、自作のAIエージェント群と社内データベースを連携させて自動化している。「15年前のCEO時代は私自身がすべての意思決定者だった。だがいまや、適切な情報とデータが現場に共有され、正しい意思決定が下されるシステムを維持することこそが経営者の役割だ」と南場氏は明かす。PC、モバイル、そしてAIへ。怒濤のように押し寄せる技術革新に対し、組織そのものに「変化し続ける能力」を埋め込むことこそが、激動期を生き抜く経営哲学なのだと見破っている。

▲CEOに復帰したDeNAの南場智子氏

◾ スピードと野心の熱量――シリコンバレーの巨大な伝播力

イベントを主催したストライプは日本参入10周年を迎え、国内導入企業が15万社を突破したと発表した。共同創業者のジョン・コリソン氏は、金融インフラの拡張により起業家の挑戦を後押しする強い意欲を示した。「日本で起業家精神が急速に高まっていることは大きな追い風だ。世界経済がAIを中心に再編されるいま、真の課題は優れた企業がいかに過去にないスピードで成長できるかを支援することにある」とコリソン氏は強調した。
コリソン氏は、米国市場で急加速するAIエージェントの浸透に触れ、カスタマーサービスなどの現場でユーザーの受容性が手動対応以上に高まっている実態を提示した。その背景にある米国のテクノロジー・エコシステムの強みとして同氏が挙げたのは、「開発速度」と「高遠な野心」という2つの熱量である。

米国市場では、手堅いだけの事業計画に資本は集まらない。市場構造そのものを根底から変革しようとする壮大な構想にこそ資金が群がる。さらに、IT大手とスタートアップ間で人材が流動的に移動し、知識が伝播し続ける文化が、途切れないイノベーションを生み出している。コリソン氏は「半導体大手エヌビディアのように、一貫して同一の技術領域に取り組み続ける姿勢が巨大な結実をもたらす」と述べ、長期的な視点で基盤技術を磨き抜く重要性を訴えた。

▲ストライプの共同創業者兼プレジデントのジョン・コリソン氏

◾ エージェンティックコマースの衝動と金融インフラの進化

両氏の思索は、AIエージェントが人間の代わりに自律的に購買や財務処理をこなす「エージェンティックコマース」の到来がもたらす産業構造の地殻変動へと向かった。人間が画面の前で操作する時代から、AIエージェント同士やAIと企業が直接プログラム経由で取引を完了させる新たな経済圏が立ち上がる。


この構造変化に対応するため、ストライプは資金調達を自動化・迅速化する「Stripe Capital」の日本導入や、主要QRコード決済対応、AIのトークン消費量に連動した従量課金機能など先進的なプロダクト群を投入する。AIスタートアップや一人起業家「ソロプレナー」が直面する資金や決済の障壁を取り払う試みは、小規模でありながら極めて高効率な組織が、立ち上げ直後から世界市場へ一気に打って出る構造をつくり出す。

◾ 「守り手」から「挑戦者」へ――日本経済の覚醒条件

対談の最後、話題は日本企業がグローバル市場で再び覇権を握るための覚醒条件へと至った。両氏が異口同音に提示したのは、激変する世界において社会全体の「人材の流動性」を高めることであった。

▲対談は、笑いも交えながら盛り上がった

AIと人間の役割分担の境界線が日々書き換わる現在、硬直した雇用システムにとらわれた組織は変化の波に飲み込まれる。コリソン氏は「AIと人間の役割の境界が変化するなか、高い労働移動性を備えた経済圏ほど、構造変化に対して柔軟に人員や資金を再配置できる」と警告を発した。


南場氏もまた、過去数十年にわたって日本から世界を震撼させる挑戦者が生まれてこなかった現状に強い危機感を露わにする。「イノベーションは既存の守り手からではなく、常にリスクを取る挑戦者から生まれる。ビジネスの機会を自ら掴み取るマインドセットの転換が不可欠だ」と吐露した。日本が誇る高品質へのこだわりやおもてなしの心という強みを保持しながらも、リスクテイクを称える組織風土と速断速決の意思決定構造を融合させること。それこそが、日本企業が世界の頂点へと再び上り詰めるための要諦であると締めくくった。

(ジョルダンニュース編集部)

記事提供元:タビリス