米ワールド、ティンダーと連携 「人間証明」日本で先行実施 安心でマッチング

ジョルダンニュース編集部

米オープンAI最高経営責任者(CEO)のサム・アルトマン氏らが創業した人間証明プロジェクト「World(ワールド)」は、マッチングアプリ大手ティンダー(Tinder)とのWorld ID連携機能を日本で世界初導入した。この提携により、深刻化するロマンス詐欺をはじめとするAIを悪用した詐欺を防ぎ、マッチングサービスを日常生活でより便利に使えるものにする狙いだ。

◾実用化へシフトする「フェーズ3」と日本戦略

提携の第一弾として、両社は9月23日、ランニングイベントを共同で開催した。ランニングやカフェなど共通の「好き」を起点とした体験型の場づくりを推進する一環だ。「走る楽しさを共にする中で、気負わず会話が生まれる」ような、新たなつながりの機会を提供する。参加した東京都内在住の20歳代の女性は、「ワールドで認証されていれば、安心してティンダーを使える」と話す。

▲ティンダーとツールズ・フォー・ヒューマニティは、ランニングイベントを開催した(東京・渋谷)

ワールドアプリやその技術の展開を日本で推進しているツールズ・フォー・ヒューマニティ(Tools for Humanity)の日本代表の髙橋正巳氏は「これまでは基盤構築を進めてきたが、日常サービスでWorldIDを活用する『フェーズ3(初期ユーティリティの構築)』に入る」と表明した。

World IDは、個人のスマートフォンに保存される匿名の「人間であることの証明(proof of human)」で、オンライン上で自分が実在する人間であることを証明する。World IDの認証はOrb(オーブ)で行われる。Orbは、顔と目を撮影し、その人が唯一の人間であることを確認するデバイスであり、撮影された画像は暗号化されて本人の端末に送信され、Orbからは直ちに削除される仕組みだ。

2019年創業のワールドは、創業者のアルトマン氏らが策定した「基本戦略(シンプルプラン)」に基づき事業を展開する。フェーズ1の開発、フェーズ2の拡大を経て、フェーズ3では実際の使い道を拡充する「ユーティリティ主導の成長」へ移行する。日本は米国に次ぐ最も重要な拠点(5カ国の一つ)の1つに指定され、累計認証者は世界で1800万人を超えた。髙橋氏は「登録者数の拡大だけでなく、ユーザーが価値を実感できるユースケースの創出が最優先だ」と話す。

◾ティンダー連携と「ヒューマン・バッジ」の導入

今回の先行展開の柱が、マッチングアプリ大手ティンダー(親会社:米マッチグループ)との連携だ。背景には国内で深刻化するSNS型の投資・ロマンス詐欺の横行がある。警察庁などの集計によると、国内の年間被害額は1834億円、認知件数は1万5000件以上に上る。生成AIで偽プロフィールや詐欺ボットを大量生成する手口が急増している。

ワールドID連携により、アプリ上には一人の人間であることを示す「ヒューマンバッジ(青い認証マーク)」が表示される。これにより同一人物による複数アカウント悪用や詐欺ボットを排除できる。髙橋氏は「ティンダーとの連携は世界で初めて日本で開始された。プライバシーを守り信頼性を担保する仕組みは、詐欺対策の決定打となる」と述べている。

▲7月28日に開催した就任会見で事業方針を説明する髙橋氏

Tinder Japanの梅木伴明代表は、オンラインマッチングにおける安全性向上と、共通の趣味を介した自然な出会いの創出に注力する方針を掲げる。梅木氏は「オンラインの相手が実在するかどうかは、安心して一歩を踏み出すうえで大切」と指摘し、マッチ率への影響は検証段階としながらも、「会話を始める安心材料の一つになる。信頼感に裏打ちされた出会いを後押ししたい」と話す。

World IDアプリにはクレデンシャル(証明情報)を保存することもでき、ゼロ知識証明(ZKP)の技術により、匿名性とプライバシーを守ったまま自分に関する事実を証明できる。例えば、マイナンバーカードなどの有効な身分証明書をWorld IDに連携させれば、生年月日などの個人情報を相手に渡すことなく、「18歳以上である」といった年齢条件を満たしていることを証明する。

◾アドフラウド対抗と企業間取引への波及効果

人間証明の必要性は、マクロ経済および企業間取引(BtoB)全般に波及している。現在、ネット上の全トラフィックの約53%がボットによるもので、その約4割が悪質とされる。AIエージェントのトラフィック増加率は7851%に上る。

広告市場では、ボットが閲覧やクリックを偽装する「アドフラウド(広告詐欺)」被害が日本国内だけで年間1592億円に上る。従来のインプレッション型広告モデルが限界を迎えるなか、人間の到達を保証するワールドIDは構造課題の解決策として博報堂などとの実証実験が進む。

ワールドはこうした分野でも対策を強めている。

Web会議大手ズーム(Zoom)とも連携し、オンライン会議でのディープフェイク対策をリアルタイムで行う。具体的には、参加者が最初にOrbで認証した際に撮影された画像、参加者自身の端末でリアルタイムに撮影される生体検知(ライブネス)用のFace Authの自撮り画像、そしてZoom会議中に取得されるライブ映像のフレームの3つを照合することで、会話の相手がディープフェイクではなく実在する人間であることを確認する。
EC(電子商取引)の分野では、ShopifyとGoogleが共同開発したエージェンティック・コマース向けのオープン標準「Universal Commerce Protocol(UCP)」とWorld IDを組み合わせることで、AIエージェントが買い物を完結させる、完全にエージェント型のショッピング体験もできる。UCPを活用すれば、Shopifyの加盟店は、その購入が認証済みの唯一の人間によるものであることを確認できるようになる。

◾信頼インフラの確立と今後の経営課題

ワールドが目指すのは、AIやボットがトラフィックの大半を占める時代でも、人間が安心・安全に活動できる「人間中心のインターネット」の維持だ。「ワールドIDアプリ」を標準のアプリとして利便性を高め、独立させ、分散化の推進や汎用人工知能(AGI)到来時の利益還元を見据える。

課題は生体データ管理に対する懸念の払拭だ。Worldによると、World、Tools for Humanity、World Foundationのいずれも、Orbでの認証時に個人データを保存することはない。Orbで撮影された写真は暗号化されて本人の端末に送信され、Orbからは直ちに削除される。一方で東京大学の松尾豊教授の研究室とのMPC(マルチパーティ計算)研究や暗号化技術により安全性の透明性を高めている。

ウーバー・ジャパンの立ち上げ経験やベンチャーキャピタリストの知見を持つ髙橋氏の代表就任は、日本企業との提携加速に向けた経営意思を示す。生成AIが急速に普及するなか、ワールドIDが「信頼のレイヤー」として定着できるか、真価が試されている。

 (ジョルダンニュース編集部)

記事提供元:タビリス