ドローン磁気探査で斜面災害のリスク評価
2026/3/4 16:27 共同通信PRワイヤー

ポイント
・ 火山地域や急峻地形など、人が立ち入ることが困難な危険地帯において、ドローンを用いた高解像度な磁気探査技術を実証、その有効性を確認
・ 熱水変質帯や斜面崩壊に関連する地質構造を可視化し、斜面災害リスクの高い脆弱部を推定
・ 斜面災害リスク評価や資源調査、インフラ管理の新たな調査手法として期待
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202602264633-O1-89H4437N】
概 要
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)地質情報研究部門を中心とした研究グループは、人が立ち入ることが難しい危険地帯において無人航空機(ドローン)を用いた空中磁気探査を実施し、地下構造を高解像度で可視化することに成功しました。
斜面災害の発生リスクが高くなる要因と考えられる地下の脆弱部の把握は防災の観点で重要です。地下構造を推定する手法の一つとして、岩石ごとの磁性の違いを利用する磁気探査が有効と考えられています。しかし、地上からの観測においては観測機器を持ち込める地域が限られており、火山地域や急峻な斜面などの危険地帯では十分な測線密度で測定することが困難です。一方、有人航空機による空中磁気探査は、運用コストがかかる上に、地形に沿った測線密度の高い観測は困難です。そのため、地すべりの発生リスクが高いと考えられる火山地域や急峻な斜面ほど観測が難しいという問題がありました。
今回、過去に地すべりが発生した熊本県の阿蘇火山中央火口丘西麓(阿蘇火山西麓)を対象に、ドローンを用いて低高度かつ高測線密度の空中磁気探査を行い、従来のヘリコプターを使った探査に比べて4倍以上の空間解像度でのデータを取得しました。さらに、産総研独自の3次元磁気インバージョン解析を利用することで地下構造の可視化に成功し、熱水変質帯の詳細な分布を明らかにしました。この結果は、地下の脆弱部など、周囲と比較して磁気的な特徴の異なる場所を遠隔・非破壊で把握できる技術として、斜面災害リスク評価や資源調査、インフラ管理など幅広い分野への応用の可能性を示すものです。
なお、この研究成果の詳細は、2026年3月4日に「Progress in Earth and Planetary Science」に掲載されます。
下線部は【用語解説】参照
開発の社会的背景
日本各地で豪雨や地震の際に土砂崩れや地すべりといった斜面災害が発生し、大きな被害が問題となっています。これらの災害は、植生などに覆われ地表からは見えない地下の脆弱な部分が原因となる場合があり、危険性の高い場所を事前に把握することが被害軽減につながると考えられます。特に火山地域では、火山ガスや熱水の影響によって岩石が化学的に変化し、強度が低下(脆弱化)した熱水変質帯が地下に形成されることが地質調査などから知られています。こうした変質帯の分布を正確に把握することは、防災の観点から重要です。
地下構造を推定する主な手法の一つに磁気探査があります。地球を構成する岩石には磁鉄鉱など磁性をもつ鉱物が含まれており、その量や変質の程度に応じて地表で観察される地磁気(地球磁場)の強さは変化します。磁気探査は、その場所の地磁気の強さを測定し、標準的な地磁気分布との差分(地磁気異常)を解析して、地下の岩石分布や磁気的特性が周囲と異なる場所を推定する調査で、これまで地質調査や資源探査などの分野で活用されてきました。急峻な斜面や火山地帯などにおいては、安全上の理由から人が立ち入っての十分な観測が困難な場合が多いため、広域を短時間で調査できるヘリコプターなどの航空機に磁気センサーを搭載する空中磁気探査が行われてきました。地下の磁気構造を高い空間分解能で求めるには、地表に近い場所で狭い測線間隔で測定することが必要ですが、有人航空機では安全上の制約から、地形に沿った低高度での柔軟な観測は困難な上、運用コストもかかります。そこで近年、ドローン技術を磁気探査に応用する取り組みが進められていますが、火山地域のように地形が急峻で環境条件の厳しい場所での適用例は限られていました。
研究の経緯
産総研 地質調査総合センター(以下「GSJ」という)はこれまで、ヘリコプターなどの航空機やドローンを用いた空中磁気探査の測定技術の高度化、および3次元磁気インバージョン解析をはじめとするデータ解析手法の開発に取り組んできました。またGSJは、令和2年閣議決定および関連する経済産業省の「第3期知的基盤整備計画」を受けて、「防災・減災のための高精度デジタル地質情報の整備事業」を令和4年度から実施してきました。本研究はその一環として、斜面災害に関わるリスク評価のための空中磁気異常情報の整備として実施したものです。
研究の内容
本研究では、人が立ち入ることが困難な火山地域や急峻な斜面において、地下の脆弱部を高解像度で把握することを目的として、ドローンを用いた空中磁気探査と、磁気データから地下構造を推定する3次元磁気インバージョン解析を組み合わせた手法の適用性を検証しました。対象地域として、過去の地すべりや斜面崩壊の履歴を残す熊本県阿蘇火山西麓を選定しました。
まず広域的な地下構造を把握するため、既存のヘリコプター搭載磁気探査データを再解析し、阿蘇火山中央火口丘西麓一帯の地磁気異常分布を整理しました。その結果、噴気地帯や温泉が分布する地域では、周辺に比べて磁気的特性(磁化強度)が弱い領域が面的に分布していることが確認されました。これらの磁化強度の弱い領域は、過去の地質調査で熱水変質帯が分布するとされてきた場所とよく一致しており、地下深部から浅部にかけて熱水の影響を受けた変質帯が広く存在している可能性を示唆します。
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次に、より浅部の詳細な地下構造を把握するため、過去に地すべりが発生し、かつ熱水変質帯が分布する阿蘇火山西麓を対象にドローンを用いた低高度・高測線密度の空中磁気探査を実施しました(図1)。飛行高度100 m以下、測線間隔25 mという従来に比べて低高度かつ4倍の測線密度での測定を行うことで、有人航空機による探査では困難であった極めて高い空間分解能の地磁気異常のデータを取得しました(図2)。また、ドローン搭載機器から生じる磁気ノイズを低減する工夫を施すことで、斜面付近においても安定した観測を実現しました。
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取得した地磁気異常データに対して産総研独自の3次元磁気インバージョン解析を適用して、地下の岩石・地質の磁化強度の分布を推定しました。その結果、地表から深さ数十メートルにかけて、磁化強度の著しく低い領域が深度方向に連続的に分布し、深部では磁化強度の低い領域が水平方向に広がっていることが明らかになりました(図3)。現地の地質調査や岩石試料の磁気特性の測定値と比較したところ、浅部の低磁化領域は粘土鉱物を多く含む、熱水変質を受けた火山岩に対応していることが確認されました。熱水変質により、岩石中に粘土鉱物が生成するとともに、磁性鉱物が破壊されることで磁化が低下していると考えられます。磁気探査によって地下数十メートルに至る範囲の熱水変質による粘土化領域を遠隔・非破壊で把握できることが示されました。
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さらに、過去に発生した地すべり地形と磁化強度分布を比較した結果、過去の地すべりが、こうした低磁化領域の地表付近で発生していることが分かりました。特に、溶結火砕岩からなる崖地形の縁辺部では、局所的な低磁化帯と地震に伴う地割れ・崩壊の発生位置が一致しており、地下に存在する変質部が斜面の不安定化に関与している可能性が示唆されました(図4)。
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従来、斜面災害の危険性評価は地形の急峻さなど、地表に現れた情報を中心に行われてきましたが、本研究は、地下の地質構造や熱水変質帯の分布といった「目に見えない要素」が災害発生に深く関わっていることを示すものです。また、ドローン空中磁気探査と3次元磁気インバージョン解析を組み合わせた本手法は、危険地帯に立ち入ることなく地下の脆弱部を把握できるため、火山地域や急傾斜地における斜面災害リスク評価の高度化に貢献すると期待されます。
今後の予定
今後、本手法を他の火山地域や斜面災害多発地域に適用することで、国や自治体による防災・減災計画の立案や、重点的な監視・対策区域の選定など、実践的な防災施策検討の基礎データとして活用されることが期待されます。
また、今回実施された調査・解析手法は、斜面災害リスクの評価に限らず、地表からの調査が困難な状況において高解像度で地下の地質構造の把握が必要なさまざまな場面での活用が期待されます。例えば、山間部での橋やダム・トンネルなどの構造物の建設に関する地質調査や、鉱物資源や天然水素などのエネルギー資源のポテンシャル評価への適用も期待されます。
論文情報
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science
タイトル:UAV-based magnetic survey for detecting hydrothermal alteration zones relevant to landslides: A case study at Aso Volcano, Japan
著者名:Shigeo Okuma, Ayumu Miyakawa, Hikari Yonekura, Keiichi Sakaguchi, Hideo Hoshizumi, Tomoya Abe, Daisaku Kawabata, Yoshinori Miyachi, Nobuo Matsushima
DOI:10.1186/s40645-026-00800-3
研究者情報
産総研
地質情報研究部門
大熊 茂雄 テクニカルスタッフ、宮川 歩夢 研究グループ長、
米倉 光 リサーチアシスタント(当時)、阪口 圭一 テクニカルスタッフ、
星住 英夫 テクニカルスタッフ、阿部 朋弥 主任研究員、川畑 大作 主任研究員、
宮地 良典 副研究部門長
活断層・火山研究部門
松島 喜雄 テクニカルスタッフ
用語解説
空中磁気探査
航空機やドローンに磁力計を搭載し、地表上空から地磁気(地球磁場)の主として強さを測定する物理探査手法。地下に分布する岩石の磁性の違いによって生じる地磁気分布の変化を捉え、地下構造や地質の不均一性を推定するために用いられる。
地下構造
地表の下に存在する岩石や地層の分布、形状、重なり方、物性の違いなどからなる構造の総称。断層や変質帯、地層境界などを含み、地形形成や斜面災害・地震などの自然災害、天然資源の分布などに強く影響する。
3次元磁気インバージョン解析
観測された磁気異常を再現する地下の地質構造を計算により求める手法。解析を3次元的に実施することにより、地下の地質構造の分布を推定することができる。
熱水変質帯
地下深部から上昇した高温の水やガスが岩石と化学反応し、鉱物組成や性質が変化した領域。しばしば粘土鉱物の生成などにより岩石が軟化・脆弱化する。火山・地熱地域や熱水鉱床地域に分布する。
地磁気(地球磁場)・地磁気異常
地磁気(地球磁場)とは、地球がもつ磁場のことで、一般的には方位磁石が北を指すことで知られる。地磁気異常は観測された地磁気の強さの標準的な地磁気分布からのずれを指す。地磁気異常は、地表および地下の岩石がもつ磁性鉱物の量や磁化の違いによって生じ、地下構造や地質分布を推定する手がかりとなる。
磁化・磁化強度
磁化は物質の磁性に応じて、磁場の影響によって磁気的な状態が変わること、またはその変化の程度を指す。身近な例では、鉄が磁石に触れると一時的に磁石のように振る舞うが、これは鉄が磁化した状態である。地磁気の影響によっても、岩石はその磁性に応じて磁化される。
磁化強度は、磁化の程度を定量的に表す量で、物質がどの程度強く磁化しているかを示す指標である。
溶結火砕岩
高温を保ったまま堆積した火山灰や軽石などの火砕物が、熱と自重で塑性変形し、固結した岩石である。
一般に緻密で硬く、未変質の場合は磁化を保持しやすい。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20260304/pr20260304.html
記事提供元:タビリス









