【人インタビュー】【下】「おてつたび」永岡里菜CEO 関係人口を創出し、100年先も続く地域をつくる 〜官民連携と持続可能なエコシステム〜
2026/4/14 17:10 ジョルダンニュース編集部

人手不足の解消を入り口に始まった「おてつたび」の取り組みは、今や単なる労働力の補完にとどまらず、地域と多様に関わる「関係人口」を持続的に生み出す新たなフェーズへと突入している。短期滞在を機に地域のファンとなった参加者がリピーターとして再訪し、中には移住や定住、現地での起業に至るケースも全国で次々と生まれている。インバウンド(訪日外国人客)の急増の影で人手不足がさらに深刻化する観光地にとっても、同社のサービスは地域経済を支える不可欠なインフラになりつつある。
インタビューの後編では、累計70に上る自治体との官民連携を通じた、エリア全体での関係人口創出の最前線に迫る。さらに、直近のシリーズA資金調達の背景にある「持続可能な事業のエコシステム」構築への覚悟と、人口減少社会において「一人が何役も担い合う」ことで100年先も続く未来の地域社会像について、永岡里菜代表のビジョンを深掘りする。

――短期的な労働力の提供にとどまらず、地域経済への波及効果や「関係人口」の創出といったインパクトも生まれているようですね。
永岡:はい、そこが私たちが最も重視している点です。参加者が地域のファンになるという点でも大きな成果が出ています。参加者の77%が訪れた地域が「特別な地域になった」と回答し、86%が「地域に再訪したい」と答えています。
例えば、奈良県天理市の柿農家さんの事例では、毎年秋の収穫時期に募集を出していただくのですが、参加者のうち約半分がリピーターの方だというお話を伺っています。私たちが目指す「一過性で終わらない、その後も地域と関わり続ける人たちを増やす」というビジョンが、こうしたリピート率や再訪という形で着実に実現してきているのです。
――短期滞在をきっかけに、中長期的な関係性、さらには定住や移住にまで発展するケースもあるのでしょうか。
永岡:具体的な移住・定住の事例が全国で報告されています。例えば奈良県川上村の老舗旅館におてつたびで訪れた女性が、板前をしていた若旦那と出会い結婚し、現在は若女将として旅館を支えているという素晴らしいご縁がありました。
他にも、鳥取県琴浦町に東京から通ううちに移住を決意し地域おこし協力隊になった女性のケースや、愛媛県今治市大三島で東京と愛媛の二拠点生活を開始した料理人の男性のケースなど、一人ひとりが全く違うストーリーを持ち帰り、人生を変えるような出会いにつながっています。
――そうした関係人口を「点」から「面」へと地域全体に広げるためには、自治体との連携が不可欠かと思います。具体的な取り組みを教えてください。
永岡:本気で地域の関係人口を創出するためには、特定の事業者だけでなく、エリア全体を巻き込んだ官民連携の取り組みが非常に重要です。私たちはすでに累計70の自治体と連携し、補助制度の導入や滞在拠点の提供などのサポートを受けています。
いくつかの具体的なケースをご紹介します。徳島県鳴門市の事例では、市が「半農半X」をコンセプトに移住交流を促進しています。おてつたびのプラットフォームを利用し、参加者は2週間、市が提供する個室付きシェアハウスに宿泊費ゼロで滞在します。半日は地元の農作業を手伝い、残りは自由に過ごすという枠組みで、多くの参加者が訪れ、リピーターにもなっています。中にはこの取り組みをきっかけに移住し、「鳴門らっきょ」の加工品開発で起業した方もいます。

また、奈良県天理市では、特産品である「刀根早生柿」の収穫期に合わせて市が連携し、宿泊場所やレンタサイクル代、おてつたびの利用料を市が負担しています。これにより農家の負担は時給のみとなり、多くの参加者がリピーターとなっています。

さらに、北海道羅臼町の事例では、世界自然遺産・知床を抱える地域ですが、宿泊業や漁業での人材確保を町が支援しています。道外からの参加者が大半で、初めて訪れた人がほとんどです。
新潟県津南町では、なんと町役場自身が受入事業者となり、「暮らし体験ツアー」や「おためし地域おこし協力隊ツアー」を企画しています。若年層を中心に呼び込み、非常に高い申込倍率を記録し、参加者全員が「特別な地域になった」と回答しています。このように、自治体が主体となって受入の土壌を作ることで、関係人口創出のインパクトは飛躍的に高まります。
――一方で、インバウンド需要の回復が地方の観光産業に活気をもたらす反面、課題も浮き彫りになっていると聞きます。
永岡:おっしゃる通りです。インバウンド観光客が急増したことで、逆に人手不足が加速度的に深刻化しているエリアがあります。例えば岐阜県高山市などの人気観光地では、外資系の大型宿泊施設などが次々と建ち、比較的条件の良さから地元の人材がそちらに流れてしまっています。
その結果、これまで地場を支えてきた地域の旅館やホテルに深刻なしわ寄せがきています。「ゴールデンウィークも全室開けたいが、人手が足りずに稼働率を下げざるを得ない」「朝食の提供をやめて素泊まりのみにした」といった悲痛な声を多く耳にします。こうしたインバウンドの影で苦しむ地域の事業者にとって、おてつたびは貴重な労働力確保のセーフティネットとして機能しています。また、英語が話せる参加者がおてつたび先でインバウンド対応のコミュニケーションを担ってくれているという事例も増えています。
――地方創生という領域でスタートアップとして挑戦を続ける中、直近ではシリーズAの資金調達も実施されました。どのような思いが込められているのでしょうか。
永岡:私は二宮尊徳の「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」という言葉を非常に大切にしています。
創業当初、「地域でビジネスなんて」と反対されることもありましたが、あえて株式会社という形態を選び、外部からの資金調達に踏み切ったのは、100年先も続くサービスをつくるためには、持続可能な事業の仕組み、つまり経済的な基盤が絶対に不可欠だと信じていたからです。
地域を取り巻く状況は「待ったなし」です。だからこそ、私たちはスタートアップという形態をとり、スピードとスケールを重視してサービスを展開しています。地方創生領域におけるスタートアップのロールモデルはまだ多くはありませんが、グローバル・ブレインさんやKDDIさん、ANAホールディングスさんといった心強い投資家・パートナーの皆様の支援を受けながら、私たちがその一例となれるよう挑戦を続けていきます。Webサイト情報にもある通り、今回の調達を機に組織を拡大し、「未来の当たり前となるサービス」を一緒に創る仲間を全方面で募集しています。
――永岡さんが見据える「未来の地域社会」や、目指すべきエコシステムについて教えてください。
永岡:関係人口の本質は、地域という「土地」ではなく、そこに暮らす「人」との関係性にあります。そして、その関係性を持続可能なものにするためには、まず地域住民や事業者が抱える「人手不足」という切実な課題を解決することが欠かせません。
私たちは、地域から一方的に人・もの・お金が出ていくのではなく、特定多数のファン(顔の見える関係人口)とともに、日本各地の多様な地域内に人・もの・お金が入り、循環していくエコシステムを目指しています。
人口が減少していく日本において、1.2億人の規模を前提にした社会を維持することは困難です。しかし、「一人が一役」ではなく、「一人が二役、三役」を担い、多様な役割を果たし合う社会モデルを作ることができれば、地域を支え続けることは可能です。「地域に貢献したい」「誰かの役に立ちたい」と願う人は、想像以上に多く存在します。おてつたびを通じて、そうした出会いとつながりを無数に生み出し、彩り豊かな日本各地の地域が少しでも多く次世代に残る未来を本気で創っていきたいと考えています。
――最後に、これから起業を志す方や、地域の課題解決に関心を持つビジネスパーソンに向けてメッセージをお願いします。
永岡:もし、まだ明確なテーマが決まっていなくても「何かやってみたい」という思いがあるのなら、地域は最高のフィールドだと思います。地域には本当に様々なものが足りておらず、多様な人材やアイデアを求めています。一緒に実験をし、新しい価値を創造するチャンスが山のように眠っています。
そして、起業やビジネスにおいて私が最も重要だと感じているのは、「一次情報を自ら取りに行くこと」です。ネット上には二次情報や三次情報が溢れていますが、それでは本質は見えません。実際に自分の足を稼ぎ、自分の目で見て、自分の耳で聞き、自分の肌で感じたことを、自分の言葉にしていく。それこそが起業の原点であり、自分にしか見つけられないインサイトや課題解決のヒントにつながると信じています。ぜひ、現場に足を運び、そこにあるリアルな課題や人々の体温に触れて、ビジネスの種を育てていってほしいと思います。
【人インタビュー】【上】「おてつたび」永岡里菜CEO〜地方創生に「お手伝い」で挑む 〜人手不足を「出会いのチャンス」に変える〜









