クラウドコンテンツ管理大手Boxのアーロン・レヴィCEO、
2026/7/1 12:33 ジョルダンニュース編集部

AIエージェント時代のインテリジェントコンテンツ管理を語る
「企業のコンテキストこそがAIの価値を引き出す」「SaaSの価値がむしろ高まる」
クラウドコンテンツ管理大手の米Boxは2026年6月5日、東京都内で年次イベント「BoxWorks Tokyo 2026」を開催した。同日開催されたメディアラウンドテーブルには、Box共同創業者兼CEOのアーロン・レヴィ氏、日本法人社長執行役員の佐藤範之氏、執行役員エバンジェリストの浅見顕祐氏が登壇した。生成AIが業務プロセスのあり方を根本から変えようとする中、Boxが目指す「インテリジェントコンテンツ管理」の構想と、エンタープライズにおけるAIエージェントの本格導入に向けたロードマップが浮き彫りとなった。
■AIエージェントの成否は「企業固有のコンテキスト」にあり
レヴィCEOは冒頭、世界1万2000社以上の顧客と協業する中で、あらゆる企業においてAIが組織の業務を加速させている現状に触れた。その上で、企業に導入される無数のAIエージェントが真価を発揮するための必須条件として、「企業固有のコンテキスト(文脈)の理解」を挙げた。

「AIエージェントは、企業の製品ロードマップやマーケティング資産、人事規定などを理解しなければならない。これらの中核を成すコンテキストは、全てビジネスコンテンツの中に存在している」とレヴィ氏は指摘する。今日、企業が保有するデータの約90%は、PDFやWord、画像、PowerPointといった非構造化データで占められている。製品開発や法務、M&Aのデューデリジェンスなど、あらゆる業務においてこれらの非構造化データをAIエージェントにどう学習・連携させるかが、働き方を変革する鍵となる。
しかし、現在の企業IT環境はデータソースが分散しており、AIエージェントが誤ったデータに基づき回答を生成してしまうリスクや、システム間の相互運用性に欠ける問題が存在している。この課題を解決するため、Boxはデータを安全にAIエージェントと接続する新しい「インテリジェントコンテンツ管理プラットフォーム」の構築に全力を注いでいる。

■「SaaSの死」は杞憂 イノベーションの遅れこそが最大のリスク
メディアとの質疑応答では、IT業界のパラダイムシフトに伴うBoxのビジネスリスクや、「生成AIの台頭によるSaaSの死」という昨今の議論について質問が飛んだ。
レヴィ氏は、テクノロジー業界における最大のリスクは「未来に向かって十分に速く動かないこと」であると断言した。「AIモデルを開発する企業が次々と新たなイノベーションを生み出す中で、我々は自社のプラットフォームがその恩恵を最大限に享受できる方向へと舵を取らなければならない。もし我々が1%でも歩みを遅らせれば、それは我々の責任だ」と述べ、AIの進化に追随し続ける覚悟を示した。
また「SaaSの死」という見方に対しては、明確に否定的な見解を示した。「政府機関や大手製造業など、我々のプラットフォームを利用する組織は、自社の情報を保護し、ミッションクリティカルなワークフローを維持できる信頼性の高いシステムを必要としている。企業が自社でCRMシステムや非構造化データ管理システムをゼロからコーディングするというのは現実的ではない。リスクが高すぎる一方で、得られるメリットは低いからだ」とレヴィ氏は語る。
さらに、AIエージェントの進化はSaaSの価値をむしろ高めると指摘した。「私自身、以前よりもSalesforceを利用するようになった。AIを通じて自然言語でシステムにアクセスし、複雑な操作をエージェントに任せられるようになったからだ。ユーザーがSaaSシステムにアクセスしやすくなることで、より多くの成長をもたらすと確信している」と自信をのぞかせた。
■トークンコストの適正化と堅牢なセキュリティレイヤーの提供
AIの利用拡大に伴う「トークンコストの増大」というエンタープライズの悩みに対しても、Boxは独自の解を用意している。レヴィ氏は「AIラボ(開発企業)はソフトウェア企業ではなく、最高のAIを最高価格で提供しようとする。一方でBoxのようなソフトウェアレイヤーは、顧客が最高のAIを『最低価格』で実装できるようにする役割を担う」と説明する。Boxは顧客のAI利用量に応じた従量課金モデルへと移行しつつ、タスクに応じて安価なモデルから高価なモデルまで、顧客が自社のデータに対して最適なAIモデルを自由に選択できる環境を提供するという。
多数のAIエージェントが企業データにアクセスすることによるセキュリティ懸念については、「いかなるAIモデルを利用する場合でも、顧客のデータを効果的に保護するセキュリティレイヤーを提供する」と強調した。例えば「財務記録やヘルスケア情報などの機密データには、特定のAIモデルのアクセスや回答生成を許可しない」といった、データ分類に基づいた細やかなアクセス制御やガードレール機能を提供していく方針だ。
■AIエージェントが自律的に躍動 自動化の最前線
続いて登壇した日本法人の浅見エバンジェリストは、これらのビジョンを具現化する最新機能を解説した。
中核となるのは、非構造化データを構造化する「Box Extract(抽出)」機能だ。契約書などから顧客名や金額といったキー情報をAIが自動で抽出し、メタデータとして付与する。これにより、ノーコードでダッシュボードを作成できる「Box Apps」を通じて、特定のメタデータを持つ文書を瞬時に絞り込むことが可能になる。さらに、外部のAIエージェントをBox内にシームレスに接続する「MCP(Model Context Protocol)サーバー」により、人間だけでなくAIエージェントがBox内で自律的に活動するためのインフラが整った。
浅見氏は架空の住宅メーカーを例にしたデモを披露した。新米担当者が施工計画書を作成する際、汎用AIである「Box Agent」のディープリサーチ機能(プロモード)を用いて関連情報を探索し、「道路が狭く搬入が困難」といったリスクを自動で洗い出す様子を示した。さらに、特定の業務に特化したカスタムエージェントが図面の建築基準法違反を自動検知するシナリオを紹介。特筆すべきは、進化したワークフロー機能「Box Automate」により、抽出エージェントから人間の承認者へ、さらに承認後にドキュメント生成(Box Doc Gen)エージェントへとタスクを引き継ぐ「Human in the loop(人とAIの協調)」が実現している点だ。
■国内でもAI連携の導入が進む
日本法人の佐藤社長執行役員は、AI機能を利用できる上位プラン「Enterprise Plus(エンタープライズ アドバンス)」を導入し、業務効率化を推進する国内顧客の事例を紹介した。
神奈川県藤沢市では、建築確認などの審査業務において年間約16万ページに及ぶ紙書類の処理が発生していた。これを「Box File Request」によるデジタル受け付けに移行し、AIが内容を読み取ってメタデータを抽出し、自動で適切なフォルダに振り分ける仕組みを構築した。現在は、審査の一次処理をAIエージェントに任せ、職員は最終確認に専念する高度な自動化にも取り組んでいるという。

「AIがいくら賢くても、コンテンツが間違っていればAIは失敗する。信頼できるコンテンツプラットフォームを作ることが最大のメッセージだ」と浅見氏は語る。AIの普及により、真の知見が眠る「非構造化データ」を握るBoxのプラットフォームとしての存在感は、今後ますます高まっていきそうだ。









