落合陽一氏ら、万博後継の展示を横浜で 国際カンファレンス「WebX」でAI自律社会の「祭り」創出を発表

ジョルダンニュース編集部

メディアアーティストで筑波大学教授の落合陽一氏と半導体商社のマクニカ(横浜市)などは、2025年の大阪・関西万博で延べ約60万人が来場して人気を集めたパビリオン「null²(ヌルヌル)」の後継として、今年10月14日に横浜ランドマークタワー内に常設のミュージアムシアター「null²ⁿ(ヌルヌルネクサス)」をオープンする。さらに、2027年に開催される横浜国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)へと連なる「祭り」のループを構築し、AIが自律的に発展する「デジタル発酵」といった独自の概念を軸に、テクノロジーと自然が融合する空間を展開する構えだ。

7月14日、東京都内で開催された仮想通貨・Web3関連の国際カンファレンス「WebX 2026」のトークセッションおよび記者会見に登壇し、AI(人工知能)と人間の身体性が交差する新たなプロジェクトの全貌を発表した。

メディアアーティストで筑波大学教授の落合陽一氏

自律するAIによる「デジタル発酵」と個人モデルへの「蒸留」

WebXのステージにおいて、落合氏が今回のプロジェクトの中核に据えるテーマとして熱弁を振るったのが、「デジタル発酵」と「デジタル蒸留」である。現在の生成AIの進化により、人間が細部まで管理せずとも、システムが自律的に機能し、新たな価値を生成する時代が到来している。落合氏はこのプロセスを、「AIに夜頼んでおくと、朝には勝手にできている。人間がマイクロマネジメントせずに作るシステムであり、発酵に近い」と表現し、「デジタル発酵」と名付けた。

この「発酵」によって生成された巨大なAIデータから、必要な情報を抽出して新たな小規模モデルを構築するプロセスが「デジタル蒸留」である。これからの時代は、巨大プラットフォームの画一的なモデルに依存するのではなく、個人が自らのデータでトレーニングした独自の小規模LLM(大規模言語モデル)を持つようになると落合氏は予測する。実際、落合氏自身も自らのデータのみで学習したAIを複数体同時に稼働させる実験を行っており、少ないデータ量であっても個人の特性を反映したAIを構築できるという。

AIが予想外の挙動をするリスクに対しては、「望む結果が出ない時はトークン(計算資源)でカバーする。ひたすら同時に並列処理を回す」とし、圧倒的な計算量で最適解を導き出すAI開発のリアルな手法を明かした。AIによる単純なコストカットではなく、AIを用いて全く異なる規模の創造物を生み出すことに注力すべきだという姿勢が伺える。

メディアアーティストで筑波大学教授の落合陽一氏(右)とマクニカの宮城教和氏

開発費を劇的に削減するAIエージェントとWeb3の社会実装

AIの自律的な構築能力は、実社会のビジネスプロセスにも劇的な変化をもたらしている。今回WebXで発表された常設館「null²ⁿ」のチケット販売システムは、人間ではなくAIエージェントが夜間のうちに自動で開発したものである。外部企業に見積もりを依頼すれば1000万円程度かかる開発費が、わずか200ドル分のトークンを消費するだけで、翌朝にはシステムが完成していたという。脆弱性の発見からパッチの適用までAIが自動で行うこのシステムは、人間が構築してきた旧来の文明の外側で、新たな自動化のサイクルが回り始めていることを如実に示しているという。

さらに、同セッションに登壇したマクニカの宮城教和氏からは、このシステムにおいて、次世代の分散型インターネット「Web3」の技術をシームレスに社会実装する試みが明かされた。暗号資産ウォレットを実装したアプリは通常18歳以上が対象となる課題があったが、ネットスターズなどと連携し、フロント側はWeb2の仕組みを用いて14歳以上に対象年齢を引き下げた。その背後でWeb3の暗号資産決済と連携させる仕組みを実装し、Web3のボーダレスな利点を保ちつつ、幅広い層の取り込みを狙う。マクニカは大阪万博の「null²」において「Mirrored Body®」の開発運用基盤を共同構築しており、今回の常設館でもビジネスプロデュースや体験設計を強力に支援する。

nullシリーズは大阪関西万博から横浜に、”転生”する

物理的な「祭り」の重要性と「味わう文明」への移行

人間が計算や実務作業から解放され、AIがその役割を担う社会において、落合氏が強調するのは物理的な「祭り」の重要性である。近代以降の「自ら考えて問題を解く『知る文明』」は限界を迎えつつあり、我々は「味わう文明」へと移行していくと説く。「AIが裏で仕事をする時代には、人間が肉体的に集まり、共に体験を味わうことの方が重要になる」と落合氏は力説する。東京オリンピック、大阪・関西万博、そして横浜での園芸博覧会へと続くイベントの連続は、この「味わう文明」への移行を社会に浸透させるための壮大なループである。

2027年横浜国際園芸博覧会「テトラヌル」で描くデジタルと自然の共生

横浜ランドマークタワーに開業する「null²ⁿ」だ。全面LEDとミラーで囲まれたシアター空間は万博当時の2倍の規模となる。そして、「祭り」のループの集大成となるのが、2027年に横浜市の旧米軍上瀬谷通信施設跡地で開催される横浜国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)での展示プロジェクト「null⁴(テトラヌル)」である。SATOYAMA Village内に設置されるパビリオンは、4つの塔と庭から構成される予定だ。植物主体の園芸博覧会において目線が下に行きがちになるという課題に対し、塔の鏡面に花々を反射させることで視線を上へと引き上げる視覚効果を狙う。4つの塔のうち1棟はDJが乗れるステージとしても機能し、音楽フェスティバルのような熱気を帯びるという。

新しいnullシリーズのイメージ

落合氏は、「大阪の人工島での開催も良かったが、横浜は最初から豊かな森や自然に囲まれている。その自然の中に、AIや動く建築といった人工物がどう共生するかが面白い」と期待を込める。AIの発展に伴い人間の存在意義が問われる中、日本が持つ豊かな自然環境に立ち戻りながら、テクノロジーと自然の共存を来場者に体感してもらうのが狙いだ。2027年の園芸博覧会の前売りチケットはすでに200万枚を突破し、開催に向けた機運は高まっている。2025年の大阪から横浜、そして2030年へと向かう時間軸の中で、AIという新たな「自然」と人間の身体性が織りなす「デジタル発酵」の祭りは、未来の文明の在り方を力強く発信していく。

記事提供元:タビリス