SBI北尾会長、次世代金融インフラへ「完全AI駆動」と「オンチェーン」構想を発表 激変するテクノロジー覇権競争を見据え

ジョルダンニュース編集部

SBIホールディングスの北尾吉孝会長は7月13日、最先端テクノロジーとWeb3の動向をテーマとするカンファレンス「WebX 2026」の基調講演に登壇し、今後の金融産業のあり方を根本から変革する「完全なAIドリブン化」「オンチェーン化の推進」「ネオメディアの創設」という3大事業戦略を発表した。軍事や地政学をも左右するテクノロジーを「最大の戦略兵器」と位置づけ、既存の金融システムの限界を打破する日本初の完全オンチェーン取引所の創設や、世界水準のAIエージェントの開発に向けた大規模な事業転換を打ち出した。本構想は、失われたグローバル競争力を日本市場に取り戻し、成長著しいアジア太平洋(APAC)地域におけるデジタル経済圏の覇権を握るための野心的な青写真である。

SBIホールディングスの北尾吉孝会長

■テクノロジーが地政学とビジネスを制する「大転換点」

SBIグループを率いる北尾会長は、2026年を歴史的な「大転換点」になると位置づけている。現在の世界情勢を見渡すと、ウクライナや中東における紛争において、通信技術や安価なドローンが旧来の高額なミサイルに代わる圧倒的な戦力となっており、イーロン・マスク氏が主導する「スターリンク(Starlink)」などの民間通信網が国家の安全保障に直結する事態となっている。

北尾氏は、こうした民生と軍事の双方で活用される「デュアルユース技術」の進化に言及し、民間企業が提供するサービスが国家安全保障の中核とオーバーラップする時代が到来していると強い危機感と時代認識を示した。金融業界においても、最先端テクノロジーの導入は単なる業務効率化の手段ではなく、企業の存亡を賭けた「最大の武器」となっており、日進月歩で進化する技術をいかに自社のエコシステムに取り込むかが、グローバル競争における勝敗を分かつことになる。

北尾氏は「テクノロジーこそ最大の武器」と強調する

■「完全なAIドリブン組織」への抜本的転換と外部知見の登用

この激変する環境下において、SBIが今後約3年間で最優先に取り組むのが組織の「完全なAIドリブン(AI駆動)化」である。巨大金融グループでありながら、社内の既存リソースにとらわれず、投資先でもある外部ベンチャー(株式会社Ridge-i)から専門知識と優れた人物的特性を持つ柳氏を社外役員として抜擢した。経営トップの強力なトップダウンの下で、データ処理や業務プロセスを極限まで自動化し、劇的なスピードと正確性の向上を図る。

最終的な目標は、金融知識がゼロの顧客層に対しても、個々の興味関心やリテラシーに合わせて自律的に最適なポートフォリオを提案・実行できる高度な「AIエージェント」の開発である。

SBI証券では、Claudeを活用したAI自動化の推進により、有人チャット対応の55%削減を目指すとともに、顧客の自己解決率を向上させる。この顧客体験(UX)の劇的な向上により、新規取引口座の獲得や休眠口座の再稼働を促進し、年間27億円の増収効果を見込んでいる。

■同態的セキュリティとAnthropic社との戦略的提携

AI技術の進化は、同時にサイバー攻撃の高度化をもたらしている。北尾氏は「攻撃を30分以内に処理できなければ甚大な損失を被る」と指摘し、静的なパスワード等ではなく、常に状態が変化する「同態的防御システム」の重要性を強調した。このため、韓国のセキュリティ企業エヴァスピン(Everspin)社に投資し、グループ全体を防御する強固なAIセキュリティ基準の策定を進めている。

さらに、生成AIプラットフォームにおいては、法務リスクが少なくセキュリティ水準が高いと評価する米アンソロピック(Anthropic)社の「Claude(クロード)」の先行利用と同社との共同実験を選択し、最新のAIセキュリティモデルを導入する方針を固めた。日進月歩のテクノロジーを盲目的に導入するのではなく、顧客の安全を最優先とし、極限まで合理的に判断する姿勢を鮮明にしている。

■金融の未来を決定づける「オンチェーン化」とRWA市場の爆発

AIと並ぶもう一つの柱が、ブロックチェーン技術を活用した「トークンエコノミー」と「オンチェーン化」の推進である。これまでインターネットのサーバー上で記録されていた「オンライン」の取引結果は、やがてブロックチェーン上で処理される「オンチェーン」へと完全に移行する。株式、債券、不動産から権利義務に至るまで、あらゆる現実資産(RWA:Real World Assets)がデジタル証票としてトークン化され、スマートコントラクトを介して自律的に取引される時代が到来しつつある。

現実資産(RWA)のオンチェーン化により、その市場規模は2034年に約30兆ドル(約1万倍強)へと爆発的に急拡大する試算だ

北尾氏は、このRWA市場が将来的に爆発的に成長すると予測している。2022年時点で約48億ドルであったオンチェーン上のRWA残高は、2034年には試算で約30兆ドル(約1万倍以上)へと拡大する見込みだ。100兆円を超える世界の株式市場の一部がオンチェーンに移行するだけで、資本市場の流動性や資本効率に甚大なインパクトを与えると分析しており、米国ではすでにSEC(証券取引委員会)の規制見直しなど、国家レベルでの金融インフラ主導権争いが激化している。

■既存規制の打破と日本初の「オンチェーン取引所」創設

このメガトレンドに対し、SBIグループはジャパンネクスト証券(PTS)を通じ、日本初となる「完全オンチェーンの新しい取引所」の創設に動いている。現在、日本のPTS市場には、市場全体の売買代金の10%や個別銘柄の20%を超えた場合は取引所免許への移行を求める厳しい規制が存在するが、北尾氏はこの足かせを新技術の力で突破する構えだ。

次世代のオンチェーン取引所は、24時間365日の稼働、即時決済(T+0)、マイクロペイメント(少額取引)の処理を実現し、ステーブルコインにも対応した画期的なプラットフォームとなる。この中核を担うのが、レイヤー1ブロックチェーン企業であるスターテイル・グループ(Startale Group)との合弁で共同開発する金融向けブロックチェーン「Strium Network(ストリウム)」である。あらゆる金融資産の取引に特化し、タイムラグのない価格形成と自由度の高い流動性供給を可能にする。

■法人ニーズを捉える円建てステーブルコイン戦略

デジタル経済圏を回す血液となるのが、法定通貨に連動するステーブルコイン(SC)である。SBIはグローバル市場向けに、日本初の信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」を発行し、ベンチャークレジットやクロスボーダー送金、機関投資家向けの資金調達市場での活用を想定している。

特筆すべきは、法人の間で高まる「円建て」のニーズである。米国を中心とするドル建てSC(USDCなど)は保有者に金利が付かず、3.5%〜5%前後のドル預金と比較して「機会損失」が生じる。一方で、金利が依然として低い日本円にペグされたSCであれば、企業にとって導入のハードルが極めて低く、即時決済による恩恵が機会損失を上回ると計算されている。SBIはこれに加え、米ドル建ての「RLUSD」の取り扱いや、オンチェーン・レンディングを提供するMorpho、データ管理のGauntletなどとの提携を通じて、商品設計から取引・決済までを一体化させた運用プラットフォームを構築している。

■暗号資産覇権の確立とグローバル・垂直統合の完成

国内におけるデジタルアセットの取引基盤の強化も急ピッチで進んでいる。口座数99万超、預かり資産約4700億円を誇る国内最大級の暗号資産取引所「ビットバンク」を完全子会社化する基本合意に至り、既存の「SBI VCトレード」等と合わせて業界トップクラスの約300万口座という圧倒的な顧客基盤を確立した。

暗号資産口座数は「ビットバンク」と既存の「SBI VCトレード」等と合わせて業界トップクラスの約300万口座という圧倒的な顧客基盤を確立

さらに、成長著しいAPAC(アジア太平洋地域)を戦略的マーケットに据え「SBI APACデジタル経済圏」の構築を推進している。シンガポールの大手取引所「Coinhako(コインハコ)」の連結子会社化をはじめ、中東UAEのFasset社、TradeFinex社、ドイツのBoerse Stuttgart Digital、スイスのSygnum Bankなど、世界各地でデジタル資産関連のライセンスを持つ有力企業と提携・出資を完了させた。これにより、アセット発行、決済基盤、データ管理、販売・流通に至るまでの「オンチェーン金融の垂直統合」がグローバルレベルで具現化されている。

グローバルな企業連携で事業シナジーを創出する

■「感情経済圏」への布石とネオメディアの未来

金融と最先端テクノロジーの融合の先に見据えるのが、共感や信頼、熱狂といった人間の感情をベースにした「感情経済圏(ネオメディア生態系)」の構築である。北尾氏は、AI、金融、メディアを掛け合わせることで、デジタルスペースにおける各生態系が相互に進化する新たな経済活動の場を生み出そうとしている。

現在、すでに約24社の関連企業を傘下に収め、そのうち10社は黒字決算を果たし、売上単純合計は約3000億円、取り込みベースの利益は約80億円規模に成長している。今後はフジ・メディア・ホールディングス社との戦略的資本業務提携の検討を含め、IP(知的財産)のバリューチェーン競争モデルを中心に、約40社規模への拡大を計画している。

旧来の金融機関の枠を完全に超越し、テクノロジーと人間の感情を編み込んだ次世代の自律経済圏を確立するというSBIグループの挑戦は、失われた30年を抜けて再び世界をリードしようとする日本経済にとって、極めて重要な試金石となるだろう。

記事提供元:タビリス