旅行予約、AIが「体験」起点に 観光DXで地方に商機 トリップアドバイザーとブッキング・ドットコム
2026/8/28 19:17 ジョルダンニュース編集部

訪日観光における旅行者の情報収集と予約行動が、人工知能(AI)の普及を契機に従来の「検索型」から「体験価値重視の対話型」へ変容している。AIが個々のニーズに沿って地方の魅力を引き出すなか、データの構造化や予約のデジタル化といった「観光DX」が企業の競争力を左右する。需要の受け皿から情報の「届け方」へと移行する市場の現在地と経営戦略を展望する。
訪日ラボ主催のカンファレンス「THE INBOUND DAY」のセッション「2026年、訪日観光における3つのシフト : AIは、旅行者を“地方”と“体験”へ導けるか」で、トリップアドバイザーのエンタープライズ・セールスAPAC シニアアカウントエグゼクティブの中庭雅文氏、ブッキング・ドットコム営業本部長の信濃伸明氏、モデレーターのmovの吉田泰生氏が議論した。

検索行動のゲームチェンジ、スペックから「対話型コンシェルジュ」へ
旅行者の検索行動に変革が生じている。トリップアドバイザーの調査では57%が情報収集にAIを活用、83%が提案に「価値がある」と回答。同社サイトへのAI経由アクセス数は約半年間で55%急増した。
中庭雅文氏は、この地殻変動を「旅行者が自ら検索する時代から、AIが旅行者に回答する時代に変わった」と指摘。「(旅行者がAIに求めているのは)自分に合ったおすすめを提案してほしいであったり、現地のリアルタイム情報を教えてほしいといったような、そんな旅行のコンシェルジュのような役割です」と期待を語る。
同様の傾向はブッキング・ドットコムでも確認されている。日本の旅行者の83%が今後の計画にAIを活用したいと答えている。信濃伸明氏は、「(旅行者は)プランニングの段階くらいから、旅行する段階にはすでにAIと一緒に同行しているというような状況が言える」と分析する。
検索クエリの質も変化している。信濃氏は従来の検索を「これまでは目的地を決めて、それで検索していた」と振り返り、AI以降の検索は「家族で静かな場所に行く、貸切温泉風呂に入りたいです、夜は日本海の海の幸を食べたいです、こういった体験を元に検索をしていて、それに適した情報が上がってくるような時代になっていく」とし、宿が提供できる「体験価値」を言語化して個別の需要に適合させる新たな競争の幕開けを示した。
インバウンド地方分散を後押し、AIが引き出す「本物の日本体験」
外国人宿泊者数の地方比率の上昇に、AIが拍車をかけている。トリップアドバイザーの調査では、訪日予定者の88%が地方訪問を、86%がゴールデンルート以外の地域を予定している。中庭雅文氏は「AIが地方への需要をゼロから生み出すというよりも、すでに存在する地方への関心を、AIが発見的な旅行計画につなげる役割を果たし始めている」と分析する。
米国などの欧米豪市場は周遊、アジア市場は地方直接訪問を好むなど市場特性は異なるが、予約成長率1位は香川県高松市、2位は長野県白馬村、3位は石川県金沢市と地方都市が躍進。信濃伸明氏は高松市について「インバウンドのお客様が、日本ならではの体験を求めて旅をしているのが分かる。高松の躍進には台湾などからの国際直行便の再開に加え、瀬戸内国際芸術祭を求めた海外旅行者が寄与している」と解説する。

旅行客の関心は「参加型の体験」へシフトしている。相撲体験(Netflixの『サンクチュアリー』を契機に注目継続)やクラフト体験、寿司・ラーメン作り体験が顕著に伸びている。Z世代ら若年層では85%が体験を計画の中心に据え、中庭氏は「体験はもはや、移動や宿泊を決定した後に付け加えるオプションではなく、旅行先そのものを決定づける主目的へと昇格している」と語る。
AIに選ばれるための観光DX、企業の経営戦略
旅行者がAIを介して体験を基準に選ぶ時代、経営課題は「AIに選ばれるかどうか」である。オンライン上にAIが解釈できる正確な情報が存在しなければ、AIの検索プロセスから排除され「デジタル空間において存在しない」ものと同義になる。
実際、インバウンドの67%が「他人の口コミ」を重視、40%が「写真・動画」に動かされる一方、30%が「地方の情報が探しにくい」と回答。中庭雅文氏は「特別なAI対策を始める前に、提供している情報を丁寧に整えるべきだ」と指摘し、4つのポイントを提唱する。「口コミを増やし、鮮度を保つ」「商品情報をAIが理解しやすく整理する」「写真・動画で体験の質感を伝える」「オンライン予約と価格を透明化する」である。

予約のラストワンマイルにおけるデジタル摩擦の解消
どれほどAIに推奨されても、最終決済に至る「ラストワンマイル」にデジタル摩擦があれば需要は一瞬で霧散する。
AI利用者の41%が情報の正確性を他ソースで確認しており、90%がオンライン完結を求めている。しかし実際には、48%が「オンラインでの予約システムが使いにくかった、あるいは非対応だったため」に、オフラインでの予約を余儀なくされたか、もしくは途中で断念した経験を持つ。
中庭雅文氏は「AIに紹介されるだけでは不十分で、AIに見つけてもらった後に、消費者が内容を信頼して迷わず予約できるところまで整っている必要があります」とし、「AIに選ばれやすい体験とは、旅行者が安心し、オンライン予約までスムーズに進めることができるものだ」と解説した。
今後は「届け方」の競争
インバウンド市場は総数を追う「需要過多の時代」を終え、いかに需要を地方へ滑らかに流通させるかという「届け方の時代」へと突入している。マクロ経済の観点から、AIによる超パーソナライズ提案は特定地域への人流集中(オーバーツーリズム)を緩和する有力な処方箋となる。
信濃氏は地方宿が取るべき戦略について「(地方宿は)大都市ですとか大きな地方都市の真似をする必要は必ずしもありません。自分たちの提供できる価値は何なのかというユニークさをしっかり上げていただきたいです」と強調。「温泉ジャパン、本物の日本体験」というキーワードに触れ、「わざわざ作られた日本を体験しに行くのではなくて、本物の日本体験を旅行者の方々は求めています」と期待を寄せる。
中庭氏も今後の日本観光のあり方についてこう総括する。「(日本の観光の現在地は)需要の時代から届け方の時代へ移ったと考えています」とし、「基本需要はもうあります。これから本当に問われるのは、その需要に対して日本の魅力をどれだけ正しく届けられるか。私はそこがインバウンドの次なる成長につながる最も大きなポイントだと考えています」と語り、情報の統合とオンライン予約までの一気通貫の連携を強調した。
地域のユニークネスが世界の旅行客と直接結びつく今、情報を正しく整え、予約までつなぐ「届けるDX」の実装が、地方創生の命運を握っている。
(ジョルダンニュース編集部)









