オンライン教育のZEN大、AI・ICT活用で陸上部発足 青学の原監督も参画”箱根駅伝”目指す

ジョルダンニュース編集部

学校法人日本財団ドワンゴ学園が運営する通信制オンライン大学「ZEN大学」は2026年9月14日、東京都港区の日本財団ビルにて「ZEN大学 陸上競技部 設立発表会」を開催した。開学2年目で全国47都道府県などに散在する約7000人の学生を対象に、AI(人工知能)やICT(情報通信技術)ツールを駆使した個別指導体制を整え、将来的に部員数1000人規模の本格的な運動部創設、箱根駅伝出場を目指す。通信制大学特有の孤独感や学習離脱を防ぐとともに、「体育会所属」という実績形成を通じて新卒労働市場における通信制出身者への偏見を払拭し、学生の就職力を高める戦略的な試みとなる。

▲記念写真に収まる関係者

◾ 通信制大学における身体性の再定義

2025年に開学したZEN大学は、通学不要で大学卒業資格を取得できる日本初の本格的なオンライン大学であり、2026年現在で全国47都道府県などに約7000人の正科生が在籍している。単一の「知能情報社会学部」においてAI時代に対応した横断的な学びを提供しているが、従来型の通信制教育には、各自が個別学習を行うことに伴う孤独感やモチベーション維持の難しさに加え、対人コミュニケーション能力や体力面に対する社会的な偏見やネガティブな先入観が存在していた。

発表会において、ZEN大学副学長の渡邉聡氏は、自身が40年間ランニングを継続してきた経験を踏まえ、「走ることは時間や距離に拘束されず、自分のペースで取り組める自由なスポーツであり、通信制大学での自律的な学びに非常に通じるものがある」と語った。渡邉副学長はさらに「1人で孤独に努力を積み重ねる過程で培われる強いメンタルは、オンライン学習を完遂する上でも欠かせない。通信制の学生に最も適したスポーツこそが陸上競技である」と述べ、通信制大学が運動部を設立する論理的妥当性を強調した。

▲ZEN大学副学長の渡邉聡氏

続いて登壇した公益財団法人日本財団理事長で日本財団ドワンゴ学園評議員の笹川順平氏は、慶應義塾創始者・福沢諭吉の「重身をなして後に人身をなす」という教えを引きつつ、「体育は単なる勝利至上主義や一部のアスリートだけのものではなく、智育や徳育を支える不可欠なインフラである」と指摘した。笹川評議員は「1000人規模の学生が運動部に参加し、身体と精神を鍛えながら集中力、忍耐力、創造力を育む環境を整備していく」と表明した。

▲公益財団法人日本財団理事長で日本財団ドワンゴ学園評議員の笹川順平氏

◾ AI・ICTによる個別最適化指導

オンライン指導の具体像については、ZEN大学陸上競技部部長の甲野純正氏から説明がなされた。甲野部長は「仲間と一緒に自分と向き合い、自分に挑戦する」という活動方針を提示し、「昨日よりも今日、今日よりも明日向上し、狙うはいつも自己ベストである」と活動理念を述べた。全国に分散する部員に対し、走行データを共有するランニングアプリやフォーム解析AIアプリ、AIによる練習メニュー生成ツールを活用して個別に最適化された指導を提供する。また、定期的なオンラインミーティングやコミュニティ機能を通じて部員同士の横のつながりを形成する。

▲ZEN大学陸上競技部部長の甲野純正氏

さらに、ZEN大学がすでに学習支援として導入している約300人規模のTA(ティーチングアシスタント)制度をスポーツ指導にも展開し、データを通じて学生の悩みや課題を把握した上で個別のアプローチを実施する。入部資格は「やる気があれば誰でも可能」とし、初心者から社会人学生まで幅広く受容する体制を整えた結果、先行募集ですでに50名が加入している。今後はリレーマラソンへの参加や合同練習会、さらにはアシックス(ASICS)とのパートナーシップに基づくケニアのトレーニングセンター活用など多角的なプログラムが計画されている。

青山学院大学陸上競技部監督でZEN大学学長特別顧問・スポーツ教育アドバイザーに就任した原晋氏は、「大学スポーツの真の目的は、スポーツを通じて計画力や分析力、課題解決能力といった社会で通用する人間力を磨くことにある」と断言した。原特別顧問は「従来の昭和型の一方的指導を排し、指導者教育や最新テクノロジーを取り入れながら、全国の学生が輝ける場を創出する。将来的には関東学生陸上競技連盟への登録や関東インカレ、さらには箱根駅伝予選会への挑戦など、大きな目標に向けたステップアップを支援していく」と意気込みを語った。

▲青山学院大学陸上競技部監督でZEN大学学長特別顧問・スポーツ教育アドバイザーに就任した原晋氏

◾ 新卒労働市場での「偏見」打破と差別化戦略

株式会社ドワンゴ顧問で日本財団ドワンゴ学園評議員の川上量生氏は、通信制大学を取り巻く構造変化と今回の戦略的ねらいについて言及した。従来の通信制大学は社会人の学び直しが中心であったが、ZEN大学では入学者の過半数を高校新卒者が占めている。このため、2年半後に控える初の卒業生輩出を見据え、新卒労働市場における学生の評価確立や就職力の向上が経営上の最重要課題となっている。

川上評議員は「通信制教育の出身者に対する世間の偏見や、対人コミュニケーション能力・体力面への疑念を払拭する上で、『体育会に所属して目標に挑んだ』という実績は企業採用において極めて強力な武器になる」と強調した。リモート環境下でも個人の自律的な努力で継続できる陸上競技は、学業との両立という点において従来の対面大学以上に適合する可能性を秘めているとし、「履歴書に胸を張って体育会系と記載できる環境を作り、学生の社会的価値を高めていく」と新卒採用市場への好影響を提示した。

▲株式会社ドワンゴ顧問で日本財団ドワンゴ学園評議員の川上量生氏

◾ 持続可能な組織統治と高等教育の変革

オンライン上で本格的な運動部を運営するという前例のない試みには、いくつかの検証課題も存在する。全国に点在する多世代・多様なバックグラウンドを持つ学生に対し、AIツールやオンラインミーティングのみでどこまで安全かつ実効性の高いトレーニング指導を継続できるか、指導品質の確保が問われる。また、目標とする1000人規模の組織へと拡大させる過程で、単なるサークル活動に終わらせず、学生主体による組織統治と規律をいかに確立・維持できるかが今後の成否を握る。

▲ZEN大学陸上部のユニフォーム

しかしながら、運動機会の創出による体力向上やメンタルヘルスの改善、さらには地域や世代を超えたコミュニティ形成という広範な視点に立てば、本取り組みは通信制大学の提供価値を劇的に拡張する可能性を持っている。原特別顧問が目指す「する・支える・応援する」といった多層的なスポーツとの関わりや、地域社会・市民ランナーとの交流を含めたオープンなエコシステムは、少子化とデジタル化が同時に進む日本の高等教育や大学スポーツ全体の構造改革に一石を投じる。AI技術と身体教育の融合が、通信制大学の価値軸を再定義し、日本社会に有為な人材を供給する新たなモデルとなるか、今後の成果が注目される。

(ジョルダンニュース編集部)

記事提供元:タビリス