オーディオストック東証上場 楽曲IPで世界開拓へ
2026/9/18 18:56 ジョルダンニュース編集部

音源ライツビジネスプラットフォームを手掛けるオーディオストック(岡山市)は2026年9月16日、東京証券取引所グロース市場への新規上場(IPO)を果たした。公開価格1,060円に対し初値は1,554円と46.60%上回り、初値ベースの時価総額は約64億6,300万円に達した。同社は上場に伴う資金調達を活用し、楽曲IP(知的財産)の買収や海外市場の開拓、著作権収入の回収精度向上を急速に推し進め、2〜3年以内に時価総額100億円の突破を目指す。

「2〜3年で時価総額100億円へ」 西尾社長ら経営陣が語る成長決意
東証グロース市場への新規上場と同日、東京都内で開かれた上場記者会見の冒頭、代表取締役社長の西尾周一郎氏は「グロース市場の制度改革において『上場後5年以内に時価総額100億円』という基準が出されたが、率直に面白いと感じている。5年と言わず2〜3年のうちに安定して100億円を超えていきたい」と述べるなど、上場を契機とした急成長への強固な自信をみせた。
西尾社長は上場の狙いについて、「上場によって得られる資金調達能力の向上と社会的信用力の向上の2つをフルに活用して事業を拡大したい」と強調した。調達資金の主な使途としては、エンジニアなどの人材獲得や広告宣伝費に加え、有名クリエイターや他社が保有する優良な音源IPの直接買い取りや事業譲受(M&A)へ重点的に投下する方針を明確にした。上場企業としての高い信用度を武器に、音源ライツの獲得スピードを劇的に加速させる構えだ。
会見では同席した経営幹部からも、上場までの試行錯誤と今後の組織拡大に向けた意気込みが相次いで語られた。取締役CFO(最高財務責任者)の八木俊氏は「上場までの6年間の道のりは決して平坦ではなかったが、それを乗り越える過程で会社として大きな力がついてきた。上場前までに組織として1つの完成形に持っていくことができた。今後はこの組織力をさらに発揮して事業を発展させていきたい」と力強く述べた。
また、2009年に入社し創業初期からの歩みを知る取締役COO(最高執行責任者)の山口真央氏は「創業初期から参加し、様々なサービスを試しては失敗を重ねる経験をしてきた。その中で『Audiostock』というサービスが誕生し、多くの方に認められて広がったことは非常に感慨深い。『クリエイターをハッピーにする』という理念のもと、これからも皆様に喜ばれるサービスを展開していきたい」と抱負を語り、クリエイター支援を通じた持続的成長の重要性を訴えた。

著作権ビジネスの収益化と急拡大する財務データ
2007年10月に株式会社クレオフーガとして創業した同社は、音楽クリエイターが制作した音源をテレビ局や動画配信者などにBGMや効果音としてライセンス販売するプラットフォーム「Audiostock」を展開してきた。従来の定額制(サブスクリプション)や単品販売による課金収入に加え、2023年9月期からはテレビ・ラジオ番組における楽曲の使用状況を精密に把握するモニタリングシステムを本格導入した。放送局で使用された未登録楽曲を著作権管理事業者へ後追い登録し、著作権使用料の徴収漏れを防ぐオペレーションを構築したことで、著作権および著作隣接権による収益が飛躍的に増加した。

単体財務データによると、2024年9月期には売上高8億8,761万円、経常利益3,984万円へと転換し黒字化を達成した。2026年9月期の通期予想では売上高17億5,300万円、経常利益4億3,400万円を見込む。今回の株式上場に伴う調達資金は採用費用・人件費や広告宣伝費に充当されるとともに、大規模な音源買い取りや他社IPとの連携拡大に投入される。
音楽ライツ市場の構造変化と生成AI時代の参入障壁
同社の台頭は、日本の音楽著作権流通における構造変化を鮮明に示している。従来は日本音楽著作権協会(JASRAC)による独占的な集中管理が主流であったが、同社は新興の著作権管理事業者であるNexTone(ネクストーン)との連携を強化し、同社からの出資を受け入れるなど資本・業務両面で協力関係を深めてきた。NexToneを著作権使用料受領の窓口としつつ、放送局や動画配信プラットフォームからの権利収入を獲得するモデルは、個人やインディーズで活動する音楽クリエイターに実効性の高い収益還元ルートを提供している。
会見の中で注目を集めたのが、足元で急拡大する生成AI(人工知能)技術へのリスク管理と差別化戦略である。現在、同社のプラットフォームでは生成AIのみによって作成された音源の登録を原則として禁止している。西尾社長は「テレビ番組の制作現場などでは、特に著作権や原盤権の権利関係が明確で安心して使える音源が強く求められている。生成AIで作成された音源は権利関係の不確定要素が多いため、人間が制作した権利関係の明確な音源に特化することが、我々にとっての強固な強みとなっている」と説明した。
中長期的には、楽曲制作の工程の一部で生成AIを活用しつつも、最終的なクリエイティビティや仕上げは人間が担う協働モデルを見据えており、高度な技術を持つクリエイターとAIを掛け合わせることでコンテンツ価値の更なる向上を図る考えである。

グローバル市場開拓と地方発スタートアップの成長モデル
同社が掲げる中長期の成長ドライバーは海外市場の開拓である。すでに米Adobe(アドビ)の「Adobe Express」やバンダイナムコグループなど大手プラットフォームとのシステム連携を完了させており、海外版サイトを通じた直接販売も強化している。海外の競合サービスには少ない日本独自のアニメ風音楽やゲーム音楽、さらには篠笛や尺八、箏といった和楽器の生演奏レコーディング音源は、世界的なインバウンド需要や日本文化ブームと連動し、海外の映像制作現場で高い評価を得ている。
また、同社が岡山市に本社を置き続ける「地方発スタートアップ」である点も株式市場から高い注目を集めている。創業期より地銀やベンチャーキャピタルなど地域金融機関の連合から手厚い出資や信用補完を受けて成長してきた。西尾社長は「東京に本社を移すメリットは全く感じていない。地元の熱烈な支援や地域金融機関からのバックアップ、低廉なオフィス固定費といったメリットを活かしつつ、東京との2拠点体制で世界市場を狙う」と述べ、東京一極集中が課題となる日本のスタートアップエコシステムにおける独自の存在感を強調した。
上場記者会見を通じて示されたのは、単なる資金調達にとどまらない「音源ライツ経済圏」のグローバルな拡大構想である。公開価格を大幅に上回る初値を形成し、市場の強い期待を背負って船出した同社が、今後どのようなスピード感で時価総額100億円の壁を突破していくのか、その成長軌道に期待が集まる。
(ジョルダンニュース編集部)









