10倍堪能!海外旅行の超スキル㉗ 「旅先では英語で」、とは言うものの 小柳淳
2023/8/8 13:46 ジョルダンニュース編集部
海外旅行をしていると、現地の人と話ができると楽しい。でも世界のことばは何百、何千種もあってとてもマルチリンガルにはなれない。では、英語で何とかしようという人も多いと思う。英語を第二、第三言語として話せる人がいる地域は多い。
フランスでは、昔は英語で話しかけると英語ができてもわからないふりをされるという伝説があった。これはある程度は本当にあった。そのため、あいさつや呼びかけの語句だけでもフランス語を覚えておいた方がよかった。でも、それは20世紀のお話。いまでは英語でまず問題はない。東洋からの旅行者は英語、という認識もあるのかもしれない。北欧などでは英語ができる人はかなり多い。また、シンガポールや香港では英語は公用語のひとつとされている。マレーシアは英領植民地時代があるのでブリティッシュ・イングリッシュが話されている。意外なのは地中海の小さな島国、マルタ。マルタ語と英語か公用語で、これは19世紀初頭のナポレオン戦争後に英国領になったことも影響している。マレーシアと似た状況だ。
ロシアの侵略後、ウクライナの首都名がキエフからキーウになった。これはロシア語音からウクライナ語音への変更。ウクライナ・アイデンティティの表現でもあるし、世界のウクライナ支持の表明でもある。黒海東岸の国ジョージアは、かつてロシア語でグルジアといった。それが21世紀初頭にロシアの軍事侵攻を受け、ロシア語をやめてジョージアと英語読みになった。このように色々な事情で国名・地名の発音が変化する。そして英語世界でどの表現を使うかを知るのはなかなか難しい。
さして広くない地域にたくさんの言語が話されているヨーロッパでは、英語で話すときは地名や人名といった固有名詞に注意が必要だ。友人から「昔、お父さんがフローレンスは・・・」と言っていたという。これはイタリア語でフィレンツェのこと。かつて日本では、英語で外国の地名を書いたり言ったりしていたことが多かったのだ。そして英語世界では「現地音発音化」などになってはいないようだ。
イタリアでローマ(これは英語もイタリア語も似た発音)からベネチアに行くときに、“I would like to go Venice”と言っても通じにくい。Veniceは英語で、イタリア語ではVeneziaだ。オーストリアの首都ウィーンはドイツ語では「Wien(ヴィーン)」、英語だと「Vienna(ヴィエナ)」。スペルもかなり違い、英独ではVとWの音が入れ替わる。パリのシャルル・ド・ゴール(Charles-de-Gaulle)空港は日本語ではフランス語の音をうつしているが、英語では「チャールズ・ドゥ・ゴール」と聞こえる。フランス語のシャルルは英語でチャールズ、独語はカール、西語ではカルロスだ。旅で英語を話すときは、そこが英語圏なのかそうでないのか、相手が英語母語者か英語が第二言語以下かによって注意が必要。
英語が通じるところが多いとはいえ、すべて英語で押し通すより、少しだけでも現地の言葉が話せるとよい。「こんにちは」「すみません」「ありがとう」などから会話が始まると、話の潤滑油になる。日本に来るインバウンド旅行者が、「コンニチハ」「イチバン」「アリガト」などと言っている場に出会うことが増えてきた。ただ現地の言葉は何かということはちょっと注意が要る。この件については連載第20回の「現地の言葉は、いったいどれ?」に書いたので、そちらをお読みいただきたい。そして最も大事なのは、自分の英語は上手ではないなどと考えて無口にならないこと。スピーチコンテストや試験ではないのだから、少しでも相手の人と楽しくやり取りできればいい。わずかな語彙でも、単語を並べるだけでもいいから、明るく堂々と話してみよう。
(写真:小柳淳)
小柳淳(こやなぎ・じゅん):1958年東京都生まれ。東京都立大学法学部卒。海外渡航122回、国内未踏2県。交通、旅行、ホテル業などを経て、本屋街々書林店主、旅行作家。VISIT JAPAN大使、日本旅行作家協会会員、日本香港協会理事。著書に『旅のことばを読む』、『香港ストリート物語』など。
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フランスでさえ、英語で問題なし
フランスでは、昔は英語で話しかけると英語ができてもわからないふりをされるという伝説があった。これはある程度は本当にあった。そのため、あいさつや呼びかけの語句だけでもフランス語を覚えておいた方がよかった。でも、それは20世紀のお話。いまでは英語でまず問題はない。東洋からの旅行者は英語、という認識もあるのかもしれない。北欧などでは英語ができる人はかなり多い。また、シンガポールや香港では英語は公用語のひとつとされている。マレーシアは英領植民地時代があるのでブリティッシュ・イングリッシュが話されている。意外なのは地中海の小さな島国、マルタ。マルタ語と英語か公用語で、これは19世紀初頭のナポレオン戦争後に英国領になったことも影響している。マレーシアと似た状況だ。
通じるとは限らない英語特有の発音
ロシアの侵略後、ウクライナの首都名がキエフからキーウになった。これはロシア語音からウクライナ語音への変更。ウクライナ・アイデンティティの表現でもあるし、世界のウクライナ支持の表明でもある。黒海東岸の国ジョージアは、かつてロシア語でグルジアといった。それが21世紀初頭にロシアの軍事侵攻を受け、ロシア語をやめてジョージアと英語読みになった。このように色々な事情で国名・地名の発音が変化する。そして英語世界でどの表現を使うかを知るのはなかなか難しい。
さして広くない地域にたくさんの言語が話されているヨーロッパでは、英語で話すときは地名や人名といった固有名詞に注意が必要だ。友人から「昔、お父さんがフローレンスは・・・」と言っていたという。これはイタリア語でフィレンツェのこと。かつて日本では、英語で外国の地名を書いたり言ったりしていたことが多かったのだ。そして英語世界では「現地音発音化」などになってはいないようだ。
イタリアでローマ(これは英語もイタリア語も似た発音)からベネチアに行くときに、“I would like to go Venice”と言っても通じにくい。Veniceは英語で、イタリア語ではVeneziaだ。オーストリアの首都ウィーンはドイツ語では「Wien(ヴィーン)」、英語だと「Vienna(ヴィエナ)」。スペルもかなり違い、英独ではVとWの音が入れ替わる。パリのシャルル・ド・ゴール(Charles-de-Gaulle)空港は日本語ではフランス語の音をうつしているが、英語では「チャールズ・ドゥ・ゴール」と聞こえる。フランス語のシャルルは英語でチャールズ、独語はカール、西語ではカルロスだ。旅で英語を話すときは、そこが英語圏なのかそうでないのか、相手が英語母語者か英語が第二言語以下かによって注意が必要。
最初のひとこと、あいさつくらいは現地の言葉で
英語が通じるところが多いとはいえ、すべて英語で押し通すより、少しだけでも現地の言葉が話せるとよい。「こんにちは」「すみません」「ありがとう」などから会話が始まると、話の潤滑油になる。日本に来るインバウンド旅行者が、「コンニチハ」「イチバン」「アリガト」などと言っている場に出会うことが増えてきた。ただ現地の言葉は何かということはちょっと注意が要る。この件については連載第20回の「現地の言葉は、いったいどれ?」に書いたので、そちらをお読みいただきたい。そして最も大事なのは、自分の英語は上手ではないなどと考えて無口にならないこと。スピーチコンテストや試験ではないのだから、少しでも相手の人と楽しくやり取りできればいい。わずかな語彙でも、単語を並べるだけでもいいから、明るく堂々と話してみよう。
(写真:小柳淳)
小柳淳(こやなぎ・じゅん):1958年東京都生まれ。東京都立大学法学部卒。海外渡航122回、国内未踏2県。交通、旅行、ホテル業などを経て、本屋街々書林店主、旅行作家。VISIT JAPAN大使、日本旅行作家協会会員、日本香港協会理事。著書に『旅のことばを読む』、『香港ストリート物語』など。
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記事提供元:タビリス